DXプロジェクトではスモールスタートで取り組みを始め、状況に合わせてスケールすることが鉄則だ。では、データマネジメントにもそうしたアプローチは適用できるのか。2024年3月8日に開催された「データマネジメント2024」(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム〈JDMC〉、インプレス)では、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション TIBCO Business Directorの池田義幸氏が登壇。「データマネジメントはスモールスタートで始められるのか? ~データ駆動型MDMとアジャイル推進で、成功と将来の内製化の道筋をつくる~」と題してMDMの具体的なアプローチ方法について解説した。
提供:NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社
目的と効果との距離が遠く、必要性がわかりづらいMDM
DX推進の機運が盛り上がるなか、データ活用のためのデータ整備への要求はより高まってきている。例えば、組織やシステム横断でのデータ連携、データの標準化や品質向上、分析軸や粒度・階層の統一などだ。将来的には、生成AIの活用に向けて正しいデータを整備するというニーズも増えてきくるだろう。そこで重要になるのがマスターデータマネジメント(MDM)である。
ただし、「DXやデータ活用を推進していくためには、コード・用語の標準化や名寄せなどのMDMは共通で必要になってくるが、目的と効果との関係が間接的で距離が遠く、データが整備できたとしても、直接的にはビジネスや業務目的に貢献しないので、必要性がわかりづらい」と指摘するのは、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション TIBCO Business Directorの池田義幸氏だ。多くの企業において、MDMの重要性は認識しつつも、実際にはさまざまな課題に直面して進まないことが多いのだ。
「MDMが目指すゴールには、大きく2つのケースがあります。1つは、データHUB型のアーキテクチャーへの転換を目指すものです(図1)。例えば、運用しているシステムが多く、データ連携が多対多になっている場合、管理に限界があり、基幹システムの刷新の足かせとなったり、手動連携などの非効率な業務プロセスに陥ります。MDMを包括したデータHUB型のアーキテクチャーに転換することで、基幹システムや周辺システム、新しいサービスなどと連携させ、DX推進を迅速に実行できるようになります」(池田氏)
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「もう1つは、データ活用基盤として、MDMを整備し、既存マスターをそのままにデータ統合を目指すものです(図2)。分散したシステムの中には、粒度や意味が統一されておらず、活用のため手作業で修正加工を行っているケースも多々あります。このケースでは、データ活用基盤の一機能としてMDMを活用し、既存マスターを全社で決めた標準コードに変換して、統一されたデータを活用します。ただ、いずれの場合も実現には障壁やリスクがあります」(池田氏)
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まず障壁やリスクとなるのは規模だ。関係するプロジェクト、システムが多くなればなるほど、大掛かりな整備が必要で、IT以外の準備や検討にも時間を要し、一気に整備することが難しくなる。次に、予算化、上申、効果の定量表現の難しさもある。MDMプロジェクトは実際のビジネス効果や業務に直接的に貢献しないため、長期計画を正当化したり、関係者を納得させることが難しいのだ(図3)。
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解決策はスモールスタートとアジャイル型アプローチ
こうした課題の解決策となるのがスモールスタートとアジャイル型のアプローチだ。
「スモールスタートとアジャイル型アプローチは、大規模で整備が難しい、プロジェクト関係者での調整や既存制度やルールの変更が必要、予算化の難しさといった障壁やリスクを回避することができます。それに加えて、成果を出しながらステップアップすることで、予算化や効果の創出、中長期での継続を目指しやすくなります。なお、中長期で取り組みを継続するためには内製化の道筋をつけることも重要です」(池田氏)
実際の取り組みでは、優先度が高く、容易な範囲から開始し、成果を積み上げながらステップアップしていくことになる。まずスモールスタートのフェーズでは、短期間でプロトタイプを構築し可視化と検証を行ないながら、一部のマスターから活用を開始。続くステップアップのフェーズでは、複数のマスター追加や柔軟な変更、改修に取り組んでいく(図4)。
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「始めから一度に整備をすることを目指すのではなく、切り出しやすい範囲に分解し、その後、追加、改修を継続できるようにします。例えば、マスターの観点や利用成果の観点からの分解などがあります。また、最初から、追加、改修を継続できる構造をつくることも重要です。例えば、データモデルやプロセスを可視化して維持管理できるようにします」(池田氏)
内製化では、取り組み開始時点には存在しない組織や役割、業務を段階的に作っていくことになる。
「経営や事業モデル、施策の写像そのものとも言えるデータモデルの維持管理をコア業務と位置づけ、人材を育成することが重要です。例えば、スモールスタートのOJTでデータマネジメント人材の育成、ステップアップと並行して組織化と制度・ルール整備も拡大、育った人材が啓発・推進役も担い成果創出も支援するといったように段階的に整備していきます」(池田氏)
スモールスタート・アジャイル型アプローチを支援する「TIBCO EBX」
スモールスタートとアジャイル型アプローチを支援するツールもある。
ツールの選定要件は以下の通りである。ノーコードでプロトタイプを短期構築でき、テーブル、項目単位で柔軟に追加・変更できること。MDMの実現方法が中央集権型や分散型など混在していても対応できること。データモデル駆動の機能連携や自動反映ができ、ユーザー別画面や権限管理によりデータマネジメントを支援できること。といったことが必要機能要件である。
こうした要件を備えたツールが「TIBCO EBX」だと池田氏はいう(図5)。
「TIBCO EBXは、データモデリングからデータの検証、名寄せ、ワークフロー、権限管理、コンテンツ管理など、MDMで必要になる12の機能をワンセットで提供する製品です。スモールスタートが可能で、取り組みを継続、拡大し、ステップアップしていくことができます。各種調査機関からの評価でもリーダーの位置を維持しており安心できるソリューションです」(池田氏)
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さらに、池田氏によると、MDMの成功とステップアップには、MDMツールやIT機能以外にも、個社特有の諸事情との親和性や配慮も重要だ。具体的には、組織や人材、制度、ルールなど、社内事情にあわせて展開、ステップアップできるか、内製化できるようにノーコードで運用展開しながら人材育成できるツールかどうか、他のプロジェクトとのデータ連携や変更、調整ができるかなどだ。
DXやデータ活用の実態を踏まえた実践的なアプローチ
池田氏は、スモールスタート・アジャイル型のMDMを実践するための具体的なアプローチも紹介した。ポイントは既存の仕組みを大きく変える必要のない範囲から開始し、「現状課題の解決効果を見極め、可視化して関係者と調整しながら推進すること」だという。
例えば「データHUB型アーキテクチャーへの転換」をスモールスタートするには、まず、既存の基幹システムから一部マスターを切り出し、改善し、移管することから開始する。「データモデルと管理プロセスの改善レベルから開始し、プロトタイプを関係者で確認、課題解決とニーズに対応し展開していきます。並行して制度、業務、組織を整備しながら、IT全体の最適化へつなげていきます」(池田氏)
また「データ活用基盤整備」をスモールスタートするには、まず、分散している既存マスターをそのまま集めて、統合し、共通コードへ変換していくことから開始すると良い。「既存のBIやデータ集計で非効率なことや顕在化している課題解決から開始するのが候補です。その際には、共通化したいコード、属性を整理し、粒度をあわせた変換、分類パターン、階層をデータモデル化。その後、サンプルデータで変換後の見え方や集計、可視化できることを確認し、標準マスターを準備します。最初から全データ(マスター)を整備しようとせず、効果やニーズが見えていることから開始し、よければ順次拡大していくことをお勧めします」(池田氏)
スモールスタートの次には継続ステップアップの長い道のりが続くことになる。スモールスタートして自社の型をつくり、ロードマップが見えてくれば、その先の道筋もつけられるという。
そのうえで池田氏は「MDMは他のプロジェクトや中長期の事業課題へ貢献できるよう意識することが肝要です。まずはハードルを下げて、簡易、短期で企画検討、スモールスタートの計画策定をしてみること。検討段階でもツールを使って、アジャイルに可視化しなから進めることをお勧めします」とアドバイスした。
●お問い合わせ先
NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社
URL:https://www.nttcoms.com/
ソリューションの詳細:https://www.nttcoms.com/service/TIBCO/products/ebx/
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