事業部門が独自にテクノロジーを導入していく潮流の中で、IT部門が果たすべき役割も確実に変わっている。2024年3月8日に開催された「データマネジメント2024」(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム〈JDMC〉、インプレス)のセッションにRidgelinezの岩本昌己氏が登壇し、事業戦略の策定や実行への深い関与など、IT部門のこれからのあるべき姿について語った。
提供:Ridgelinez株式会社
現在のIT部門は社内インフラの整備や維持、システムの構築・運用・保守、ヘルプデスクなど様々な業務を担っているが、最も重要なのはIT戦略・IT投資戦略にほかならない。Ridgelinezの上席執行役員 Partnerで、Architecture & Integration Practice Leaderを務める岩本昌己氏は、次のように指摘する。「IT部門が担っているこれらの役割のうち、普遍的にヒトが担当するべきものと、そうでもないものがあります」。
社内インフラ整備や維持などルーティンワークとなっている作業は、おそらくAIやRPAによって自動化されていくことだろう。これから数年のうちに、IT部門の業務範囲におけるAIのカバレッジは幾何級数的に拡大していくというのが岩本氏の見立てだ。
Architecture & Integration Practice Leader 岩本 昌己 氏
戦略を立てる過程でこそIT技術者の視点が活きる
もっとも、IT部門の役割がなくなるわけではない。IT戦略・IT投資戦略が重要と述べたのはその意味だ。「複雑な課題に対する意思決定は、やはり経験を持った人でなければできません。そこで最終段階としてIT部門の人材は、AIと協調しながら自動化された運用・保守プロセスを監視・管理したり、戦略の意思決定をしたりといった方向にどんどんシフトしていくと考えられます」と岩本氏は語る(図1)。
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一方、そうした変革によって創出される技術者の時間や能力を、どのように活用していくべきだろうか。重要となるミッションの筆頭に挙がるのがLOB(事業部門)との連携だ。「これまでビジネス戦略を立てるのは事業部門の役割で、それを支えるのがIT部門の役割とされてきましたが、今はそういった時代ではなくなっています。ビジネス戦略を立てる過程でこそ、IT技術者の視点が非常に重要になっています」と岩本氏は説く。
例えば商品のターゲット層の変化を分析するため、「直近3年間の、小売のお客様との対応履歴に関する全てのデータをシステムから抽出してほしい」という要望が、事業部門からIT部門に寄せられたとする。この場合、「データ収集」(データの所在を認識して視認性のある形式に加工する)から、「データ分析」(AI・統計解析などのツールを活用して仮説を立案する)、「戦略立案」(仮説を基に事業施策に落とし込み、現場で仮説検証する)、「実行」(実証結果から事業価値を検証し、改善点を洗い出す)までの4つのフェーズを、事業部門とIT部門が役割分担しながら実施していくことになる。
従来はこの4つのフェーズのうち、前半の「データ収集」と「データ分析」のみにIT部門が関与し、後半の「戦略立案」と「実行」については事業部門が担当するといった役割分担が一般的だったはずだ。そうではなく、すべてのフェーズにIT部門が関与して事業部門と知見を融合していくのがこれからのあるべき姿である(図2)。「IT部門の知見を活かして、事業戦略立案や市場での戦略実行に関与することで、ビジネスのクオリティ、スピードは確実に向上します」(岩本氏)。これこそがIT部門がデータ駆動経営に向けて果たすべき役割といえよう。
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続けて岩本氏は「データの所有者はビジネスを駆動する事業部門ですが、分散したデータを体系的にまとめる技術はIT部門に依存しています」と語るとともに、企業変革に役立てるべきIT部門のケイパビリティを示した。それは「データ分析力と洞察力」「新技術の導入・評価」「セキュリティ/プライバシー保護」「アジャイルチーム協働」「ITドリブン戦略思考」の5つの能力である。
事業戦略策定でIT部門が生み出す新たな価値
「事業戦略策定にIT部門が関わることで得られる付加価値が増えており、先進的にトライした企業ほど高い顧客価値を得ることができます」と岩本氏は強調する。ここでいう付加価値とは、具体的には次の3つだ。
- AIやBIとデータを組み合わせることによる新たな事業機会の発見。事業の経験や勘、コツから得られない市場ニーズを把握し、ITを活用したビジネストレンドの知見により革新的な提案を実現する。
- 戦略実行に際して市場との親和性に裏付けを与えることによる無駄な投資の抑制。データを活用したシミュレーションによりPoC実践のフィジビリティを上げ、データの裏付けを持った事業戦略の起案によりトライアルのスピードを上げる。
- 新しいテクノロジーの活用による事業プロセスの最適化。セキュリティやデータマネジメントの知見を活用してリスクを最小化する。加えてデータ処理の専門知識を活用した問題解決により機会損失を抑制する。
ガバナンスと民主化の両立がデータ駆動経営を加速する
もっとも、技術導入だけでは成功を得られないのも事実であり、技術の導入・展開時にも乗り越えなくてはならない“壁”がある。
まず導入時の壁として挙げられるのは、部門によってはデータへのアクセスを許可してくれないケースがあるという点だ。また、物理的にデータはつながっても意味がつながらない、意味はつながってもデータの精度・鮮度・粒度が異なって使えないといったように、次々に問題が起こる。
次に展開時の壁は、まず、現場業務での効果・実感が薄いとデータ活用が進まなくなる点だ。一方で、様々な資産が乱立してカオス状態になると、新しいデータ活用に資する仕組み(システムやツールなど)の開発効率が低下して使い勝手も悪くなっていく。
データ活用の活性化に向けては、これらの課題解決に向けた準備が必要だ。データマネジメントの「中央集権」と、データ活用の「地方自治」の絶妙な組み合わせがその鍵を握る(図3)。岩本氏は、「データガバナンスとデータ民主化は相反する関係性ではなく、それらの両立がデータ駆動経営を加速します」とした。
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そして、岩本氏は、「今こそ、事業部門とバディを組みながら戦略を担うためのIT部門の役割とスキルを再定義する時です」と改めて強調した。「IoTやAIなどによりバリエーションが増えたデータを常にレディ状態にするデータマネジメント」「ビジネスの多様化に伴いデータ利活用も多様化していく中で、変化への柔軟性を備えた発想と提案力」「データの利活用に制限を施すことから部門の壁を取り払うガバナンスへの展開」の3つが噛み合うことでDXが加速していく。
とりわけ、データガバナンスは確実に変化している。これまでは自社のデータを社外に、特に同業他社に渡すなど論外とされてきた。システム構築ベンダーにさえサンプルデータしか提供せず、実データの検証は社内で行うのがあたり前だった。そんな時代は終わりつつある。「業界の壁、企業間の壁、あるいは部門間や社員間の壁といったものを、ガバナンスを効かせながら打ち崩し、データ活用の民主化を成し遂げた企業が成功を掴んでいることが、グローバルの事例からも数多く見られます。実際、そういった企業こそが業界のトップ企業に躍り出たり、市場のディスラプターとして君臨していたりします」と岩本氏。
スキルセットとマインドセットの両面から変革を図り、データ駆動経営を主導する存在となることが、今後のIT部門に求められている。
●お問い合わせ先
Ridgelinez株式会社
https://www.ridgelinez.com/
https://www.ridgelinez.com/technology-excellence/
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