[インタビュー]

生成AIの業務活用のカギはRAG、AIはアルゴリズムから「World Model」へ─専門家が説く現状と将来

米ガートナー バイスプレジデント アナリスト アンソニー・ムレン氏

2024年7月25日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

生成AIが画期的な技術であることは論を要しない。だれもが簡単に利用でき、文書の作成や要約、翻訳、問い合わせへの回答、アイデア出し、表や図形・画像の自動作成など、さまざまな処理を高いレベルでこなしてくれる。半面、進化の最中にある技術であり、平気で間違えることもあって、業務で効果的に活用するのはそれなりに難しい。企業は進化し続けるこの技術とどう向き合うべきか? 早期からAIの進化を追う、米ガートナーのAI担当アナリスト、アンソニー・ムレン氏に聞いた。

 ガートナー(Gartner)は生成AIを巡る現状や将来をどのように捉えているのだろうか。同社でエンタープライズのAIアジェンダを指揮しているバイスプレジデント アナリストのアンソニー・ムレン(Anthony Mullen)氏(写真1)が来日した際にインタビューする機会があった。同氏は音声認識やテキストマイニング、対話型AIなどの自然言語処理を専門とし、現在はマルチエージェントシステム/シミュレーション関連のリサーチにも取り組んでいる。

 ムレン氏の発言のポイントを列挙すると、このようになる。

①少し前のAIはタスク。生成AIはプロセスやジョブを担う
②サービスをそのまま利用ではなく、アプリへの組み込みが生成AI利用の中心
③そのために重要なのがRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)である
④将来、AIはアルゴリズムモデルから「World Model」へと進化する

 ほかにも、以下のようなコメントもあった。

⑤従業員の生成AIリテラシー向上を図る必要がある
⑥システム開発はさらに大きく変わるので今から準備すべきだ

 企業・組織で生成AIを推進するリーダーやスタッフは、これらをどう捉えて取り組めばよいか。以下、一問一答でお伝えする。

生成AIを巡る現状と企業の利用状況

写真1:米ガートナー バイスプレジデント アナリストのアンソニー・ムレン氏

──ムレンさんは、ガートナーにおけるAIの取り組みを指揮している専門家とお聞きしました。まず、現在のAIを巡る状況、特に生成AIについてどう見ているか、教えていただけますか。

ムレン氏:2年前くらいまで、ビジネスやITの責任者の方々のAIに関する認識は「何かを識別できる」「予測もできる」など、おぼろげでぼんやりしたものでした。

 2022年11月に、OpenAIのChatGPTが登場して、その認識ががらりと変わりました。だれもが生成AIに興味津々で、何ができるかを把握し、そして活用したいと考えています。

 私自身は生成AIについてこうなることを予測していました。驕慢(きょうまん)に聞こえたら申し訳ないですが、8年ほど前から関心を持って生成AIの状況を見てきたので。ただし現状は、過剰な期待を寄せすぎている、オーバーフローしているような状態でもあると感じています。

──生成AIは「コンピュータやインターネットの発明に匹敵する」といった見方もあります。

 私もそれくらいのインパクトがあると思います。そこまでいかなくても生成AI以前のAIは、統計処理やマシンラーニング(機械学習)など特定のタスクを特定のグループの人たちが、中央集権化された形で行っていました。AIが得意なのは画像から何かを検出したり、機械のメンテナンス時期を判断したりするといったタスクであり、そこに限られていたと思います。

 生成AIは違います。タスクというよりも、プロセスをこなすことができます。表現が難しいのですが、同じAIでも生成AIはツールというより、オーケストレーター(編曲家)やコンポーザー(作曲家、構成者)のような、もっと広範な仕事を担う存在と位置づけられます。これは非常に大きな変化です。

 例えばソフトウェア開発ライフサイクルを考えると、設計、開発、テスト、リリースという一連のタスクからなるプロセスがあります。従来のAIは各タスクの一部をサポートする程度ですが、生成AIはいろいろなタスクを統合してプロセスの多くを処理します。そのため、人々はデザインや表現など創造的な仕事に集中したり注力したりできるようになります。

 AIを享受する人、AIを使う人の数を劇的に増やしたことも、生成AIの重要な特徴です。従来のAIはアナリティクスやデータサイエンスの原則を理解している必要があったため、利用者はデータサイエンティストなど一部にとどまっていました。

 生成AIの利用者はまったく違い、それほど知識のない人でも使えます。事実、ガートナーが2023年後半に実施した「AI in the Enterprise Survey」という調査で、登場間もない生成AIが、最も人気のあるAI手法であるという結果になりました(図1)。

図1:AIソリューションの採用の現状(出典:ガートナー)
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生成AIの業務利用を進めるにはRAGが重要

──日本ではRAGを使って特定業務をサポートしようとする取り組みも増えつつありますが、現時点ではChatGPTのような生成AIサービスをそのまま使うケースが主流のようです。でも、ムレンさんの資料には「アプリケーションに組み込んだ形の生成AI利用がユースケースのトップ」というデータがありました(図2)。このデータについて解説してください。

図2:生成AIユースケースの上位(出典:ガートナー)
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 生成AIを効果的に使う点で、RAGはとても有用な技術であり、APIを介して生成AIを自社固有のビジネスや業務に埋め込むことができます。そのためRAGを使った新しいツールやサービスがさまざま登場しており、政府や企業、例えば金融機関が使い始めています。

 ITベンダーも同様で、 多くの製品・サービスが規範みたいな形で取り入れつつあります。例えば、マイクロソフトやセールスフォースなどです。それから、Copilot+ PCや、アップルが最近発表した「Apple Intelligence」に見られるように、OSにも取り入れられようとしていますね。

 この傾向は今後、より顕著になるでしょう。企業は多くの情報資産を保有し、数十、数百のシステムが日々、多様なデータを生み出しています。生成AIがマルチモーダルになる中で、それらのデータを統合して扱えるようになる。データ活用の柔軟性が高まるのです。UIにも生成AIが介在することになって、ユーザーはコンパクトな形でいろいろなサービスが利用できるようになります。

──確認ですが、欧米企業は生成AIの利用ですでに一定の効果を得ている段階なのでしょうか。あるいは今も試行錯誤している状況でしょうか?

 RAGを使って何ができるのかを理解し、生成AIを業務要件などとマッチングできるようになってきたのが現状だと見ています。少し細かくいうと、革新的なテクノロジーの導入は多くの場合、最初の実験段階を経て、実用に向けた中間段階に移行します。中間段階ではさまざまな痛み、具体的にはAI活用の足を引っ張る技術的負債や導入に関わるコスト、セキュリティなどの痛みや問題に直面します。

 どの部門が主導するか、どう使えば効果的なのか分からないといった悩みも生じます。これらは成果を得るために乗り越える必要がありますが、欧米の先進企業はこの段階を過ぎつつあるという印象です。ただし、試行錯誤については今も続いていて、業務適用のトライアルを繰り返している状況があります。

●Next:次世代AI「World Models」とは?/データ品質と生成AIリテラシー

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