[市場動向]

政策の首座にITがない憂鬱、価値連鎖を念頭に実利追求を

2010年9月2日(木)佃 均(ITジャーナリスト)

政策の中心にITを位置付けようとする政党が出てこないことが残念でならない。国民1人当りの生産性を向上させ、企業の国際競争力を強化するには、ITの利活用が欠かせないのは事実だ。今こそ、新しい価値連鎖を創出するための行動を起こさなければならない。

 2010年7月11日に行われた参院選で、民主党は改選54議席から44議席に後退する一方、自民党が38議席から51議席に増加、みんなの党が10議席を獲得して台風の目になった。非改選議席と合わせた参院の勢力図は、民主106、自民84、公明19、みんな11、共産6、社民4、たちあがれ日本3、国民新3、改革2、日本1、諸派1、無所属2で、与野党のねじれが拡大する結果となった。

 本誌が発行されるまでに与野党連立、連合の組み替えが起こっているかもしれないが、7月12日現在、参院の与野党議席数には33の差が存在する。衆院で民主党は圧倒的多数を握りながら、参院過半数をめぐって妥協と譲歩を余儀なくされることになる。多数派の暴走を許さないという意味で有権者は賢明な判断をしたともいえるが、「改革」を望みながら自ら「改革」にブレーキをかける矛盾を露見したと言えなくもない。政治家がブレているのでなく、有権者がブレているのではあるまいか。

各党のマニュフェストを見ても、ITは政策の中心に位置付けられてはいない
写真1:各党のマニュフェストを見ても、ITは政策の中心に位置付けられてはいない

ITがマニフェストから消える不思議

 今回の参院選では、就任直後の所信表明で飛び出した「近い将来に消費税率を引上げるための超党派による議論の場を」という菅首相の発言が、民主党の勢いを削いだといわれる。10%という数字だけが独り歩きをしてしまった、今にも税率を引き上げるかのように受け取られた、説明不足だった、しかし議論を始めようという呼びかけが間違っていたとは思わない等々、敗者の弁が伝わってくる。

 「世界一じゃないと本当にダメなんですか」で名を轟かした村田蓮舫氏(国務大臣・内閣府特命担当大臣:行政刷新担当)は開票速報の開始早々に当選を決めたものの、政策事業仕分けでいくらの無駄使いが実際に排除できたのか。それをより明確に訴えることができないまま、政治とカネ、官僚機構の縮減、840兆円に迫る国の借金等々の問題をうやむやに、景気に左右されることが比較的少ない消費税率の引き上げを持ち出したのは、明らかなミスだった。ともあれ、国会のねじれは少なくとも次の衆院選まで解消しない。法案は衆院を通過しても参院で停まる。参院で否決されても衆院で再可決という奥の手も使えない。

 過去10年間、G8の7カ国は名目経済成長率が4.3%だったのに日本はゼロ成長、気が付けば日本の国民1人当りGNPは世界の23位に落ちている。人口規模から言って、GNP/GDPの総額で中国が上にくるのはやむを得ないとしても、また日本がいつまでも経済大国であり続ける必要はないにしても、将来に夢がない国になってしまうのだけは回避したいところだ。いまの子どもたちが10年後、20年後、海外に出たとき、胸を張れる国を残すのは、我々の務めではないか。

 その視点で眺めると、今回の参院選で示したマニフェストに、正面からITを盛り込んだ政党は皆無だった。民主党は「ライフ・イノベーション」の中にICTと医療・介護産業の融合を、自民党は271項目の中の5項目(社会全体のICT化、ICT産業の成長促進と国際展開、地域におけるICT利活用、情報通信ネットワークの安心・安全、格差のないICT基盤)だが、総花的で力点がぼやけている。

 少子化・高齢化が進むのは間違いないし、国際化・グローバル化した市場を後戻りさせることは不可能だ。国民1人当りの生産性を向上させ、企業の国際競争力を強化するには、ITの利活用が欠かせない。まして21世紀の情報システムは、確実にクラウドに向かう。一朝一夕に急進することはないにしても、インターネットが国境を容易に越えたように、データとアプリケーションは企業と企業の壁を素通りするようになる。

 先進国のみならず、途上国の多くがITを21世紀産業社会のエンジンであり、世界戦略のインフラと位置づけている。にもかかわらず、日本の政党はITを将来ビジョンの主要なファクターとは認識していない。なぜなら、ITは票に結びつかないからだ。せいぜいインターネットのクリック募金が政治資金集めに使える、という程度の認識である。このことはつまり、ITは決して日本政府の政策に、盛り込まれることがないことを意味している。

政権交代でIT政策に期待したが……

荒井聰氏 写真2:日本不動産ジャーナリスト会議主催の意見交換会にゲストとして荒井聰氏が参加、政府の成長戦略について基本的な考え方を解説した

 政権交代が起こった昨年の8月から9月にかけて、筆者はか細い伝手を頼りに民主党の衆院議員にIT政策の重要性を説いて回った。同党政策調査会の事業仕分け準備会で知り合った主要な議員、鳩山内閣で起用された政務官などだ。このほか自民党、みんなの党の若手・中堅など、面談した議員は20数人に及ぶ。21世紀を視野に入れた新しいIT政策に期待したのだ。しかしその結果は失望だった。

 多くは「ITはインターネットとパソコン、携帯電話のこと」と理解(解釈)していた。産業や社会、個人の生活を支えているネットワークやデータベース、基幹系システムあるいは、交通制御やエネルギー管理、医療、行政といったインフラ系システムの知識はほとんどなかった。ましてクラウドコンピューティングにいたっては、聞いたこともないのが実態だ。驚いたのは、総務省の政務官に就任した若手議員が、開口一番に「ITのことは難しくて」と言ってのけたことだった。そういう輩を政務官なんかにするなよ、と思ったものだ。

 そうこうしているうち、ある会合で鳩山内閣で総理大臣補佐官(国家戦略担当)だった荒井聰氏(現国家戦略担当大臣兼経済財政政策・消費者及び食品安全担当大臣)と約20分間のQ&Aができた(後述)。経済政策通で鳩山首相(当時)の側近、菅直人氏(当時は副総理兼国家戦略担当大臣)の懐刀といわれる人物だ。

 訴えたのは、国として国民の生命・財産を守るための日本版パトリオット法の制定、ナショナル・データセンターの構築、かつての全国総合開発計画に相当するITリソース配備計画の策定などである。併せて政府調達の情報システムにかかるシステム設計者名の公開原則、調達コストの積算根拠の開示などを提言した。

 読者にあっては異論反論があるだろうが、例えば日本版パトリオット法。EUをはじめアメリカ、オーストラリア、韓国といった国々が、外国企業による情報の持ち出しを禁止する法律を整備している。市場に参入するのは自由だが、自国の国民、企業、公共機関、行政機関の情報は自国内にとどめるというものだ。クラウドが進展したとき、自国の情報が他国の事情で左右されることがないように配慮したものといっていい。

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