リバーベッドは、米国での設立が2005年とまだ若い企業だが、WAN高速化技術の分野では確固たる地位を確立している。WAN高速化は、これまではインターネットを介して複数拠点間を接続する必要がある大規模ユーザーを中心に利用されてきたが、クラウド時代を迎えて、企業規模を問わず誰もが必要とするソリューションとして注目が高まっている。
WANをどうやって高速化するのか
伊藤信氏
インターネット接続が業務にとってほぼ不可欠となった現在でも、高速なWAN回線を確保することは簡単とは言えない。既に日本では光ファイバーによるWAN接続が一般化していることもあって、さらなる高速化は容易ではない。大容量回線を契約するにはコストの壁もある。さらに重要な問題は、WAN経由での通信の使用感を悪化させているのはWAN回線の速度が遅いことだけが理由とは限らないことだ。
「WANが遅いというなら、速い回線に変えればよい」という簡単な話ではない。同じ光ファイバー回線でも、一般家庭向けの100Mbpsの回線もあれば1Gbpsの回線もあるわけだが、これは同時に送れる情報量が違っているだけで、信号伝達の速度は光の速度が上限になっているという点で違いはない。あらゆる通信が常に大量データのやりとりを伴うわけではないので、多額のコストを費やして大容量回線を契約しても、それだけでユーザーの体感速度が向上するわけではない。ユーザーの体感速度を向上させるためには、まずは既設のWAN回線の容量を無駄なく使い切るための仕組みを導入することが効果的だ。
現在WAN接続に利用されているTCP/IPによる通信にはまだまだ最適化の余地がある。通信回線の品質が相対的に低く、データ破壊/再送が頻繁に起こる場合には、一度にたくさんのデータを送ってしまうと効率が悪化するし、逆に回線品質が充分高い場合には、パケットのサイズは大きい方がやりとりの回数が減るので伝送効率が上がる。
現在のWAN回線の使用感を低下させている原因として大きいのは、実は送受信者双方が確認のためにやりとりする時間が無視できないということもある。たとえば、送受信者間で通信を開始する前に条件等を確認しあうということがよく行なわれる。複数の条件について確認しなくてはならない場合に、1つずつ確認するよりもまとめて確認すれば、時間を短縮できる。だが、こうしたチューニングは基本的にはアプリケーション・プロトコルを変更することになるため、簡単には改善できない。こうしたプロトコル自体の冗長性に起因する非効率性は、回線を大容量にしてもあまり改善されず、むしろ無駄が増えてしまう結果にもなる。力任せに大容量回線を導入するのではなく、よりスマートな解決策が必要なのだ。こうした問題に対するソリューションが、WAN高速化技術である。
Steelheadのテクノロジー
寺前滋人氏
リバーベッドは、会社自体の歴史としてはまだ若いと言えるが、WAN高速化の分野では既に確たる評価を得ている。その技術の中核と位置づけられているのが、同社の特許技術であるSDR(Scalable Data Referencing)だ。考え方としては、ストレージで使われる重複排除と同様で、共通するデータを見つけ出し、同じものを繰り返し転送しないようにする。転送するデータ量自体が減少するため、その効果は劇的だ。考え方としては、キャッシュのスマートな応用という形になる。
「Steelhead」は大容量のキャッシュ・ストレージを内蔵したアプライアンスだ。ネットワークを通じてやりとりされるデータをブロックに分けてキャッシュし、ブロックごとにインデックスを付与していく。以前やりとりされ、キャッシュに残っているデータが再び転送される場合、「Steelhead」はデータそのものを送る代わりにインデックスを指示する。受信側の「Steelhead」は、通信データの中にインデックスを見つけた場合、指示されたデータをキャッシュから取り出してクライアントに渡す。実データをごく少サイズのインデックスに置き換えて転送することで、WAN経由で転送するデータ量が大幅に削減できるというわけだ。WAN高速化技術としては基本的な手法だが、リバーベッドではさまざまな独自の工夫を加えることで効率を高めている。
重複データの発見/排除やデータ圧縮といったデータ量そのものの削減に加え、「Steelhead」では通信プロトコルの効率化も行なう。サーバー側/クライアント側それぞれに設置された「Steelhead」がプロキシ動作を行なって応答を代行し、「Steelhead」間のWAN回線経由の通信を効率化するのだ。前述のような複数の応答を1つにまとめるなど、アプリケーション・プロトコルの動作に応じたきめ細かな最適化が実現されている。最近のインタラクティブなサービスでは、小サイズのパケットをひっきりなしにやりとりするタイプのものが増えており、こうしたサービスの体感速度向上は回線帯域を拡大するだけでは実現できないことが多いのだが、「Steelhead」による高速化はこうした場合にも効果を発揮する。
仮想化によるクラウド対応
現在では、クラウドへの注目が高まっていることもあり、外部ネットワークとのデータ転送量は増大する一方だ。WAN回線というと特定の回線のことだけをイメージするかもしれないが、実際には社内LANと外部との間のやりとりはすべてWAN経由となり、リバーベッドの「Steelhead」では、こうした対外通信すべてを高速化できる。外部データセンターなどの固定的な拠点であれば「Steelhead」アプライアンスを常設設置しておけばよいが、実際には設置場所の問題が発生するケースも少なくない。
「Steelhead」は原理的に通信の両端に対向で設置する必要があることは間違いなく、その点が導入障壁になっていた面もある。自社の遠隔拠点であればあまり問題にはならないだろうが、外部のデータセンターなどを利用している場合は、設置スペースにもコストが掛かることになる。また、今後増加が見込まれるクラウドサービスの場合、事業者側が「Steelhead」を設置してくれるのか、という問題もある。
リバーベッドではそうした問題に対応するために、アプライアンス版に加えて、「Steelhead Mobileソフトウェア」、「Virtual Steelhead」のラインナップで、WAN高速化の適用範囲を拡大している。
「Steelhead Mobileソフトウェア」はモバイルユーザ向けのソリューションで、これをインストールしておくことでモバイル環境でもWANの高速化が実現できる。
パブリック・クラウド事業者が「Steelhead」によるWAN高速化をサービスとして提供する場合、契約顧客数に応じた台数を並べなくてはならないため、規模が大きくなればなるほど、設置スペースの問題が深刻になってきてしまう。こうした状況を受けて、リバーベッドでは新たな展開として「Steelhead」のOSであるRiOSを仮想化環境上で稼働するバーチャル・アプライアンス形式で提供開始することを発表している。「Virtual Steelhead」と呼ばれるこの仮想アプライアンスは、広く利用されているVMwareの仮想化プラットフォーム上で稼働し、機能面では従来のハードウェア・アプライアンスと同様だ。仮想化環境に対応したことで、物理的な設置スペースの懸念なく導入できる点が最大のメリットとなる。データセンターでのホスティングやレンタルサーバー環境に導入することも容易になるし、大規模なパブリック・クラウド環境にも対応可能だろう。ただし、高速化機能に関しては差はないにしても、ハードウェア・レベルで実装された耐障害性機能などは当然ながら利用できなくなるため、ハードウェア・アプライアンスを完全に置き換えるものではない点には注意が必要だろう。
サーバーの仮想化に関しては、プロセッサの演算能力に関しては効率よく活用できる一方、ネットワークやストレージなど、I/O依存の処理は不得意とされてきたのだが、リバーベッドでの検証では、パフォーマンスに関しても問題ないことが確認できているという。
クラウド時代を迎え、現時点ではまだクラウドサービスの内容の吟味が始まった段階であり、まだネットワークの検討にまでは至っていない感もあるが、従来社内にあったITリソースを外部のクラウドに移動した場合に従来と同等の使用感が得られるかどうかはネットワークの能力に大きく依存する。
リバーベッドではこうしたニーズに向けてもWAN最適化が利用出来るように、「Cloud Steelhead」と名付けた、クラウド向けのソリューションをこの年末にも発表する予定だ。
Steelheadが実現するWAN高速化の機能は、クラウド時代の本格到来を迎えた今こそ真剣に検討すべき重要なソリューションだと言えるだろう。
リバーベッドテクノロジー株式会社
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