─「トラステッド」で優位に立つ─ 2010年には20件以上の発表を実施──。国内大手メーカーの中で、最もクラウドコンピューティングに力を入れているかに見えるのが富士通だ。しかし、クラウド事業は、中核事業であるIT製品の開発・販売やシステムインテグレーション事業と厳しく競合する関係でもある。富士通はどこまでクラウドに本気なのか。IaaSからPaaS、SaaSまで多様なサービスを提供する狙いは何か。2回にわたって富士通の責任者に聞く。今回は、富士通のクラウド戦略についての考え方を明らかにする。聞き手:本誌編集部
クラウド事業者との提携は今後「本気で」進めていく
─次にパートナーとの協業について。例えば、2010年7月に発表したマイクロソフトとの「Windows Azure Platform Appliance(以下、Azure)」に関する提携ですが、どれくらい本腰を入れて取り組むんですか。
阪井:それはもう日本だけでなく、FJ-Azure(仮称)として世界中の必要な地域に展開しますので、思い切り力を入れて取り組みます(笑)。Azureを提供するためのシステムリソースには相当大規模な投資が必要ですから、中途半端な気持ちではやれませんよ。
─そうは言っても、富士通のクラウドサービスとの売り分けが難しくなりませんか?
岡田:標準的なWindows+SQL Serverで構築されているようなシステムについてはAzureで、それ以外のシステムは「オンデマンド仮想システムサービス」やホスティングで集約していければと考えています。
阪井:Windowsシステムの運用保守、性能の拡張、BCP(ビジネス継続計画)などの効率を高め、高度化したいとか、グローバル展開したいといったニーズがあります。まずはこうしたものがターゲットです。
岡田:アメリカなどでは、すでに.NETで作ったアプリをAzureに移行するケースが増えています。今後は日本でも同じような展開が起きるでしょう。
─SFDCの「force.com」とAzureという、PaaSの分野で競合するサービスの両方を扱う点については、いかがですか。例えば、社内で「もっと絞り込むべき」という議論はありますか。
阪井:いえ、ありません。お客様のクラウド活用を支援する上で、やはり有力なクラウドサービスは欠かせませんから。AzureもSFDCのサービスもグローバルで展開していきます。
─富士通自身のSaaSに関わる展開は。
阪井:2010年10月に「GLOVIA Smart 会計 きらら」のSaaS提供を開始しました。これは中堅企業向けの会計システムですが、今後、人事・給与や販売管理なども提供していく予定です。
─特定業種向けもすでにある?
阪井:CRMや会計のような共通業務向けと、業種特化型の2分野とも、ラインナップを強化していきます。既に50商品を発表済みですが、さらに20商品を企画・開発中です。業種・業務向けパッケージで培ったノウハウは当社の強みですから、そこもしっかりやっていきます。
─こうお聞きしてくると、文字通り“クラウドのデパート”ですね。しかしクラウドサービスを充実させればさせるほど、SIサービスと社内競合しませんか?
武居:確かに最近はクラウド前提でスタートする商談も多いので、そのようなご指摘も分かります。しかし実際には社内で案件を取り合うようなことは起きないんですよ。
─ほう。それはなぜ?
武居:まず、顧客担当の営業やSEが、それぞれの業務や環境を分析した上で提案を作ります。最初に交通整理ができているので、部門間で揉めるような事態にはなりにくいんです。
阪井:もちろん現実には、そうそうきれいにはいかなくて、丁々発止やっている案件もありますけどね(笑)。
─やはり(笑)。そりゃそうですよね。
阪井:でもSaaS提供を始めたことで、逆にサーバーやパッケージの売上げが伸びる現象も出てきています。ホテル向けパッケージの例ですが、SaaS商品を発表したところ、かなり多くのお問い合わせを頂きました。ところがカスタマイズの工数や利用期間などを考えると、パッケージで構築した方がいいケースが割とあったのです。
─その結果、現実にサーバーやパッケージの売上げが伸びた?
阪井:そういうことです。パッケージが前年比で4倍近く売れました。もちろんSaaS商品も売れているので、クラウド事業もSI事業も両方伸びたというわけです。
「トラステッド」に注力し稼働率は99.99%
─ここで富士通のクラウドサービスに話を戻します。最近では、通信事業者からシステムインテグレータ、データセンター事業者など様々なITベンダーがクラウドサービスを提供していますが、その中で富士通の強みは?
岡田:1つは自社製品で環境を構築できる点に起因する柔軟性です。「オンデマンド仮想システムサービス」にはオートプロビジョニング機能が備わっており、サーバーやストレージ、ネットワーク機器、ロードバランサなど、すべてのリソースを自動的に設定できます。
─本当ですか?実は裏側でSEが頑張っているとか。
岡田:本当です(笑)。当社では、各製品を管理する共通のインターフェイスを20年以上前から作り込んでいます。クラウドを構成する製品の中身まで分かっているからこそ、柔軟な制御が可能なんですよ。
武居:第2は、製品・サービスの提供から、インテグレーション、運用管理までワンストップで対応できる総合力ですね。特に、プライベートクラウドにおいては大きなアドバンテージになると思っています。
岡田:来年度末までにクラウドのスペシャリストを5000名にすべく教育を進めています。現時点ではまだ2割程度ですが、サービスには人材がキーとなりますので最大課題として取り組んでいます。
阪井:強みの優先順位はともかく、品質と信頼性が、やはり重要なポイントです。「トラステッド」をキーワードに、サービスの母体であるデータセンターの設備やセキュリティについて、細心の注意を払っています。
─具体的には?
岡田:群馬県館林のデータセンターは、アイ・エス・レーティングによる情報セキュリティ格付で事業者としては国内初の最高評価「AAAis」を取得しました。またデータセンターの品質基準でも最高レベルの「Tier4」を取得しています。他の国内外のセンターも、すべて「Tier3」です。
阪井:データセンターに加え、クラウドサービス基盤も強化しています。「オンデマンド仮想システムサービス」では、すべての仮想システムを冗長化し、ハードウェアも多重化しているといったことです。経産省の「SaaS向けSLAガイドライン」では、基幹業務システム向けクラウドの要件として「稼働率99.9%」を挙げていますが、「オンデマンド仮想システムサービス」ではそれを上回る稼働率99.99%を実現しています。
─一般にクラウドサービスの稼働率は99.5%なので、99.99%はすごいですね。とはいえ、今後は他社との競争も厳しさを増すでしょう。
阪井:安価なパブリッククラウドが増えるなど、競争は確かに厳しくなると思います。しかし、いくら料金が安いだけでは不十分で、セキュアでないクラウドに重要なシステムは載せられない。そこが当社の強みです。
武居:ビジネスの安心・安全を維持しつつ、コスト削減やIT資産の圧縮を図る。その上で新しいビジネスやサービスを迅速に立ち上げる。これらを全部満たすことが、ビジネス向けクラウドの本質ではないかと思いますね。
─小さなことかも知れませんが「オンデマンド仮想システムサービス」というサービス名は何とかならないでしょうか?2010年11月に発表したプライベートクラウドの運用管理サービス、「プライベートクラウドサービス」もそうですが、覚えにくいし、第一、一般名称と紛らわしい。
阪井:実は、その点が大きな課題です。2011年早々になんとかしたいと思っていますが、何かいいネーミングはないでしょうか(笑)。
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