数々のストレージ製品の中でも、最も厳しい業務要件を突き付けられるのが、エンタープライズストレージだ。本稿では、この製品分野に関する基本事項について解説する。
99.999%を超える稼働率
最初に確認しておくと、本稿で言う「エンタープライズストレージ」とは、ハイエンドのSAN(Storage Area Network)ストレージのことだ。この種の製品は、オープンシステムが主流になる以前からメインフレームやオフコンとともに基幹業務で利用されており、現在も主たる適用領域は、銀行の勘定系、生産系や販売系など、システムダウンが絶対に許されない基幹業務である。
近年はミッドレンジストレージの高機能化/高性能化が著しく、信頼性面の強化も進んでいるが、ミッションクリティカルな基幹業務には、やはりエンタープライズストレージという声は根強い。機能/性能とコストのバランスを重視して開発されたミッドレンジストレージに対して、エンタープライズストレージはミッションクリティカルな業務を担うための機能や技術をふんだんに取り入れ、桁違いの信頼性/可用性を実現しているからだ。
「99.999%(ファイブナイン)の稼働率」という言い方があるが、これは一定期間内のダウンタイムを0.001%に抑えられるという意味で、信頼性/可用性がきわめて高いことを表している。しかし、今日のストレージでは、99.999%という稼働率はミッドレンジ製品で十分確保できるレベルとされており、ベンダー各社はエンタープライズストレージは99.999%以上の稼働率を実現するとしている。
しかも、単に稼働し続けるだけではなく、障害やメンテナンスで冗長構成のコンポーネントの一方が停止している場合でもサービスレベルを落とさない仕組みを備え、また、稼働状況のモニタリングもミッドレンジ製品とは比較にならないほど緻密に行うことができる。こうした厳しい業務要件に応じるための技術や機能を随所に盛り込んでいる点が、エンタープライズストレージの最も大きな特徴だ。
この特徴が、サーバ仮想化が全盛を極める今日において再評価されており、膨大な数の仮想サーバからのデータアクセスを受ける統合基盤として、エンタープライズストレージが導入されるケースが見られるようになってきた。多くの業務を集約した統合基盤の障害がビジネスに与える影響は計り知れない。そこで信頼性/可用性を重視して、エンタープライズストレージを選ぶユーザーが出てきているのだ。
高度な運用を実現する機能群
信頼性/可用性の強化を進める一方、エンタープライズストレージはシステム運用の高度化/効率化という面でも進化を遂げてきた。そのための機能/技術群のなかでも、近年、エンタープライズストレージベンダー各社が特に力を入れているのが、データを使用状況に応じて適切な保管媒体に自動移動する「自動階層化」である。
今日のエンタープライズストレージは、複数種のディスクを混載でき、お馴染みのHDD(Hard Disk Drive)とともに、データの読み書きを劇的に高速化するSSD(Solid State Drive)を搭載することができる。HDDについても複数の種類をサポートしており、最近は、速度重視のSAS(Serial Attached SCSI)と容量重視のSATA(Serial Advanced Technology Attachment)という2種類のHDDが広く使われている。
パフォーマンスだけを考えれば、全ディスクをSSDで構成するのがベストだが、SSDはHDDに比べて価格が高く、ストレージのフルSSD構成はほとんどの企業にとってコスト面で現実的ではない。そこで、搭載ディスクのコストを抑えながら、圧倒的な高速性というSSDのメリットを活かせる機能として、ベンダー各社が自動階層化を積極的に売り込むようになった。
自動階層化では、データのアクセス状況を監視し、アクセスの多いデータをSSDに、少ないデータをSATA HDDに自動移動するという処理を行う。登場した当初は自動移動の単位がボリュームだったが、現在はより小さい単位での移動が可能となり、1つのボリュームを複数種のディスクに跨って構成することもできるようになった。
このほか、「シンプロビジョニング」も運用の高度化/効率化に役立つ機能として、多くのエンタープライズストレージが採用している。シンプロビジョニングは、物理ディスクの容量以上の論理ボリュームを構成できるようにするもので、新規アプリケーションの導入時などに必要となるストレージ容量の見積もり作業を、大幅に簡素化することができる。