[技術解説]

エンタープライズストレージの業務要件と最新製品

圧倒的な信頼性・可用性で基幹業務を中心に活用されるハイエンド製品

2012年1月24日(火)IT Leaders編集部

数々のストレージ製品の中でも、最も厳しい業務要件を突き付けられるのが、エンタープライズストレージだ。本稿では、この製品分野に関する基本事項について解説する。

エンタープライズストレージの最新製品

前ページで述べたように、信頼性/可用性を極限まで追求するとともに運用の高度化/効率化を図る機能を充実させてきているのが、今日のエンタープライズストレージの姿だ。ここでは、代表的なエンタープライスストレージ製品を取り上げ、その実例を見ていきたい。

EMC Symmetrix VMAX

EMC Symmetrix VMAX
EMC Symmetrix VMAX

EMCジャパンの「EMC Symmetrix VMAX」は、「Virtual Matrix Architecture」というアーキテクチャを採用している。このアーキテクチャは、ストレージのコントローラー部分を集約したユニット「VMAXエンジン」を複数台搭載して冗長化するとともに、同エンジンの追加でスケールアウト型の性能拡張を可能にするものだ。なお、VMAXエンジンの追加もシステムを停止させずに行うことができる。

サービスレベルを維持しながら業務の継続性を担保するための施策が充実している点も、VMAXの大きな特徴である。例えば、多様な視点からの詳細な性能監視を可能とするモニタリングツール「Symmetrix Performance Analyzer」では、個々のコンポーネントの負荷状況やIOPS(Input Output Per Second)などの稼働状況をGUI上からリアルタイムかつ正確に把握できるように配慮されている。

機能面では、キャッシュ制御機能「Dynamic Cache Partitioning」でデータ読み書きのキャッシュを各システムのサービスレベルに応じて割り当てることができ、I/Oの優先制御機能「Symmetrix Priority Control」でディスクに対する各システムのアクセスに優先順位を設定することが可能だ。

自動階層化機能の「FAST-VP」は、データの移動単位が768KBときわめて小さいことが大きな特徴である。また、同機能では、どのデータをどこに移動すべきかという分析は別のプロセッサで実行する。このような特徴により、頻繁な分析処理に際してもストレージ本体の負荷を大幅に軽減し、短いサイクルでの自動移動が可能となるため、SSDをより効率的に活用することができる。

IBM System Storage DS8000

IBM System Storage DS8800
IBM System Storage DS8800

日本IBMの「IBM System Storage DS8000」は、POWER6+を搭載するエンタープライズストレージだ。「IBM System z」を擁する同社の製品だけあって、メインフレームとの併用に耐えうる信頼性/可用性を確保するための仕組みを数多く取り入れている。

その一例が、コントローラーに搭載されているデータ読み書き用キャッシュの冗長化だ。ミッドレンジ製品の多くは、キャッシュに障害が発生した場合、HDDに直接書き込むことで稼働を継続する。しかし、キャッシュのデータ読み書き速度はナノセカンドクラスであるのに対し、HDDはミリセカンドクラスであるため、HDDに切り替えるとデータアクセス速度が大幅に低下して業務に著しい影響を与えることになりかねない。

そうした事態を避けるためにDS8000では、冗長化したキャッシュの一方で障害が発生した場合、正常なコントローラーを論理的に分割する。これによって、あたかも2つのコントローラーが稼働しているような状態を作り出し、そのうち1つで障害が発生したコントローラーを代替することで、冗長化されたデータアクセスの両方がキャッシュを経由することになる。その影響はゼロではないが、HDDに書き込む場合と比べたら、パフォーマンスの低下度合いを抑えることができる。

また、同製品の自動階層化機能「Easy Tier」では、SSD/SAS/SATAという“縦方向”のデータ移動に加え、同種のディスク間という“横方向”のデータ移動が可能になっている。これにより、特定のディスクに容量利用が偏った場合や、アクセスが集中した場合などに、横方向のデータ移動でディスクの使用状況を平準化して稼働状況の安定化を図ることができる。

Hitachi Virtual Storage Platform

Hitachi Virtual Storage Platform
Hitachi Virtual Storage Platform

日立製作所の「Hitachi Virtual Storage Platform(VSP)」は、細かい単位で冗長化を行うことで一点障害を無くし、信頼性/可用性の強化を図っている。例えば、物理ディスクのアダプタというレベルまで冗長構成になっており、もちろん、このアダプタも無停止での交換が可能だ。

自動階層化を含め、運用の高度化を図る機能が充実している点もVSPの大きな特徴である。具体的には、「ストレージ階層の仮想化」(自動階層化)、「ボリューム容量の仮想化」(シンプロビジョニング)、「ストレージデバイスの仮想化」という3つの技術であり、同社はこれらを総称して「ストレージ仮想化技術」と呼んでいる。

なかでもユニークなのは、ストレージデバイスの仮想化である。これは、VSPの背後に接続したストレージの容量を1つのストレージプールに統合するもので、同社製品を含む多くのストレージに対応している。他社からもアプライアンスなどの形で類似の機能が提供されているが、現在流通しているエンタープライズストレージで搭載するのはVSPのみだ。

ストレージデバイスの仮想化をVSPのようなエンタープライズストレージに搭載するメリットは、キャッシュや自動階層化など、VSPが備えるエンタープライズクラスのリソースや機能を、既存の古いストレージでも使えることだ。これにより、旧機種の延命にとどまらない、既存資産の有効活用を実現できると言える。

関連キーワード

可用性 / 基幹システム / SSD / EMC / IBM / 日立製作所 / Symmetrix / Hitachi Virtual Storage Platform

関連記事

トピックス

[Sponsored]

エンタープライズストレージの業務要件と最新製品 [ 2/2 ] 数々のストレージ製品の中でも、最も厳しい業務要件を突き付けられるのが、エンタープライズストレージだ。本稿では、この製品分野に関する基本事項について解説する。

PAGE TOP