「IBM、マイクロソフト、Oracle 、SAPという4社のアプリケーションのメガベンダーは互いに競合し、一方で協調しながら、総額1000億ドルの予算を費やして顧客のIT予算を奪い合っている。そのため多くの大手ユーザー企業は、これらのベンダーとの関係を考え、戦略的に関係を構築しなければならない。端的に言えば、ユーザー企業は彼らに管理されるのか、それとも管理するのか、どちらの立場を取るのかということだ」。米ガートナーの調査部門でマネージング・バイスプレジデントを務めるデニス・ゴーハン氏は、こう語る。
過去10年の間に業務アプリケーション領域の主要ベンダーは、この4社に集約された。だが、それで落ち着いたわけではない。各社は競争と協調を繰り返しながら、顧客との関係強化=顧客からの収入最大化を競っている。うかうかしていると、無駄なIT投資を余儀なくされかねない。
「企業は利用中の製品やその後継製品に目を向けがちだが、しかし本当に理解すべきなのは各ベンダーがどのように振る舞っているのか、その振る舞いがどのように製品に反映していくのか、そして振る舞いの背景にある戦略は何かといったことだ」(米ガートナーの調査部門でマネージング・バイスプレジデントを務めるデニス・ゴーハン氏)
難しさを増しているのが各社の戦略や製品ポートフォリオが似通ってきていることだという。「例えばデータベースの領域では過去、Oracle、IBM、MSが競合してきた。最近、SAPがSybaseを買収し、インメモリーDBのHANAを強化している。BIの領域では4社とも自社の製品ポートフォリオを拡大するべく買収合戦を繰り広げてきた。業務アプリも同じだ。IBMは(会計など汎用の業務アプリこそ持たないが)、ここ数年の買収で業種・業務に特化したアプリを強化している」。
かつての水平分業が崩壊したわけだが、だからといって単純に垂直統合に移行する=例えばIBM1社をメインにする=かというと、そう単純にはいかない。製品・技術の面で完全に横並びになったわけではないし、多くを1社に依存することはITコストの面で問題が生じる可能性がある。
一方で「中核のアプリケーションを乗り換えるには非常に大きなコストがかかるので困難」(同)であり、問題になることが多い保守料金に関しても「顧客の反発を受けてベンダー側も注意深くなった。より使いやすく、不満が出ない体系にするべく注意している」(同)。
そこで「各社の戦略や、それに起因する得手不得手を考慮しながら、(1社ではなく複数の)メガベンダーとの関係を築く必要がある」というのがゴーハン氏の考えだ。この前提でゴーハン氏は、4社の戦略や状況を解説した。以下、IBM、マイクロソフト、Oracle、SAPの順にまとめる。
IBM─製品中心からサービスに転換
IBMは、プロダクト(製品)中心からサービスにようやく変わった。サービス企業になったという事実は、プロダクトに影響を与える。例えばソフトウェア事業はこれまでブランド別だった。そこに買収を通じて得たソリューショングループが加わった。この方がIBMにとってサービスのチャンスも、収益も生まれるからだ。
IBMはSmarter Planetというコンセプトや、大規模な知識システムであるWatsonなど、自社のアイデアや戦略を非常にうまくマーケケティングしている。このような大きなテーマに合う製品ポートフォリオがIBMの投資の中心になる。ユーザーはこの点を見極めるべきだろう。
IBMに関して、ユーザー企業から寄せられる質問を見ておこう。上位3つはライセンス、契約に関係するもの。つまり、これらにユーザーは困難を感じている。IBMの主要な取り組みとユーザー企業の視点が、どのように合致するのかという点も良く聞かれる。またIBMとどのように付き合うべきかかという質問もある。
マイクロソフト─現在のシェアを保持する戦略
マイクロソフトはプラットフォームに強く、非常に大きなシェアを持つ。その戦略は今のシェアを保持し、同時に関連市場でシェア向上を図ることだ。直販ではなく、間接販売を採用するのが、同社のユニークな点である。成長戦略は、クラウド、モバイル、ユニファイドコミュニケーションなど多い。BIやアプリ事業への参入、強化もその1つだ。ERPパッケージでは(SAP、Oracleとは違う)2番めのレイヤーで活路を見いだす。.NETもまだまだ成長が見込める。
守りの戦略もある。顧客が他社のクラウドや製品へシフトするのを阻止し、マイクロソフト製品にとどまるような戦略だ。課題は多岐にわたる。例えばモバイルでは、マイクロソフトは追う立場。そのためマイクロソフトはSAP、Oracleなどに加え、GoogleやAppleとも競合する。他社のモバイル環境にどう対処するかは、難しい課題だ。
ユーザー企業からは、MSのパートナー依存への質問が多い。パートナーが持つスキルはメリット。しかしグローバル企業が世界各地で一貫したサポートを得たい場合、SAPやIBMのような関係を築きにくい。クラウドは企業で使えるのかという質問もある。一番多いのはSharePointに関する質問だ。米企業の間では、これを活用しようという意向が強いが、どれくらいまで活用すべきなのかという悩みもある。
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