データ分析の専門家は、データサイエンティストという言葉をどうとらえているのか。データ分析の専門家集団 ブレインパッドの草野隆史 代表取締役に話を聞いた。
データサイエンティストという言葉をよく耳にするようになりました。データ分析を専門に手がけてこられた立場からはこうしたトレンドをどう見ていますか?
草野: 正直、ちょっと戸惑っています。なにせ定義が曖昧ですから。具体的にどんなスキルセットを備えた人材なのかがよくわからない。数理統計やビジネスの知識を挙げる人もいれば、データ分析をする人=データサイエンティストと考えている人もいます。
いざ、データサイエンティストを採用しようとなった時、「具体的にどんなスキルセットを備えた人材なんでしたっけ?」ということになりそうですよね。イメージを共有していない状況で、こんなに盛り上っているのはちょっと不思議だなと率直に思います。
とはいえ、うちも人事部が「データサイエンティスト候補」と銘打って、募集を掛けたりしていますから、あまり強いことは言えないんですが(笑)
なるほど。では、ビッグデータを分析する人材とするとどうでしょう?
草野: 大量データのハンドリングスキルと、数理統計や機械学習に対する学術的なバックグラウンド、ビジネスへの理解といったイメージですよね。
それらを全部兼ね備えている人は、おそらく日本に何人もいないと思います。確信犯的に行動しないと、そういったスキルセットにはならないですよね。少なくとも、企業でキャリアを積んでいる人が、そうしたスキルを身につけることはないはずです。
そもそも、データマイニングがブームになったことがありましたが、今でも定着している企業は数えるほどしかありません。つまり、データ分析の経験を安定的に積む環境は、日本国内ではほぼ存在しなかったわけです。
だからこそ、ビッグデータが注目された後、「いったい、誰が分析するのか」という課題に直面し、その解決策としてデータサイエンティストが注目されているんじゃないでしょうか。
データ分析に“スーパー”な人材は必ずしも必要ない
ビッグデータを分析するためには、これまでとは全く異なる人材が必要になるのでしょうか?
草野: 確かに、色々なデータを取得できるようになりましたし、それらをハンドリングするための技術も登場しました。今後は、ソーシャルメディアやセンサーデータを分析する場面も出てくるでしょうし、そのためにHadoopが必要になるかもしれない。
ただ、必要なスキルが増えただけとも言えます。これまで、分析を担当していた人が、ツールの使い方を覚えれば良いし、それが難しければ、Hadoopの技術者を連れてきても構わない。統計学やビジネスへの理解については、これまでもデータ分析に必要なスキルでしたし、状況が劇的に変わったと言うことはないと思いますよ。
1人のスーパーな人材ではなく、チームでも構わないのですか?
草野: スーパーな人材なんて、そうそういるものではありません。一長一短あるのが普通です。例えば、要件を示せば素晴らしい分析をするけど、プランを立てるのは苦手。分析は苦手だけど、ビジネスに通じていて、相手の意図を汲み取るのも上手いとかですね。
全部満たした人を探すのは大変です。1人でスキルを満たせないなら、2~3人集めて、足りないところを補えばいい。もちろん、分析要件を満たすために必要なスキルを考え、チームを編成する人材は必要ですけどね。そういう意味では、私たちはチーム全体で見れば、世の中で言うところの「データサイエンティスト」と同じような動きをしているのかもしれません。
ところで、2012年11月末に、データ分析人材のスキル標準化と、データサイエンティスト協会の設立に関する計画を発表されましたが、その意図は?
草野: 正直なところ、データサイエンティストという言葉が出てくるまで、データ分析人材の定義を考えたことはありませんでした。必要なかったんです。分析を生業とするような企業はそう多くはありませんでしたし、外部に技術者を派遣することもなかった。自分たちさえ、必要なスキルを把握していれば、それで事足りたんです。
ところが、世の中でデータ分析の技術者が求められるようになると、自分たちの求める人材、扱っている人材と、世の中で言われているデータサイエンティストがどう違うか、説明しなければならなくなったわけです。
私たちの会社の事情は脇におくとしても、定義を曖昧なままに放置して、データサイエンティストという言葉が独り歩きすると、企業と人材の不幸なミスマッチが発生するだろうなという不安があります。
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