多種多様なデータ群からビジネスに役立つ洞察を得る─。言うは易しであり、そのハードルは高い。そこには、従来からのデータ分析とは一線を画した“科学的アプローチ”が求められている。ビッグデータ時代におけるデータサイエンスの必然性を考察する。
現場の事実に基づいた合理的な意思決定を。市場の動きから気付きを得て素早い一手を。ビジネスノウハウを属人的なものから組織の財産に…。様々な文脈で、データ活用の重要さが叫ばれている。
もちろん、企業はこれまでもデータ分析に力を注いできた。データウェアハウス(DWH)を築き、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールで各種分析を試みるというのは典型例であり、相応の効果を上げてきた。しかし今、そうした取り組みをさらに高度化しなければならないという声を続々と聞くようになった。
企業間競争の激化にどう対処していくか
ビジネスを取り巻く環境がシビアさを増したことが背景にある。市場飽和や景気停滞で企業間の競争が激しくなったこともあるが、ネットの普及によって顧客の立場が相対的に強くなったことも見逃せない。人々や取引先は多くの情報を手にすることができるようになり、製品やサービスを見る目が厳しくなっている。何がネガティブな情報があれば、ソーシャルメディアなどを通じて瞬く間に広がるご時世だ。
こうした状況に企業が対処していくには、競合相手や顧客の先を行くデータ活用によって、巧みな一手を打ち続けていかなければならない。折しも今、これまでとは桁違いのデータを入手し得る環境が整ってきた。社内の業務システムのDBに蓄積するデータに加え、Webサイトへのアクセスログ、ソーシャルメディアへの書き込み、各種センサーで収集するデータ、事業者や業界団体が提供する有償データ、政府や自治体が公開する統計値…。種類も生成元もバラエティに富んだ大量のデータ、いわゆるビッグデータである。
無秩序に思える膨大なデータ群の組み合わせの中から、秘められた法則性なり因果関係を見つけ出すのは並大抵の話ではない。だからこそ“何か”を発見できれば、それは競争優位につながる大きな価値を生む可能性がある。そこに目を付けた企業が、躍起になって難題に取り組んでいる。Amazonなどのネット企業は筆頭格で、サービスの最適化に向けて種々の手立てを打っているのは多くが知るところだ。
数学や統計学といった分析の専門的スキル、社会行動学など人間の特性にかかわる知識、最新のITで何ができるかを考える力…。できる限りのことを尽くし、仮説検証を繰り返しながら普遍性がありそうな解を導き、その知見を本業に活かしていく。こうして、多種多様で膨大なデータに対して“科学的アプローチ”を持ち込むことが、「データサイエンス」として注目を集め始めている(図1-1)。
データサイエンスという言葉そのものは統計学の学術的分野で10年以上も前に語られた経緯がある(詳しくはパート2)。しかし、今日的には、知識体系や人材像を含みつつ「企業がビッグデータからビジネス価値を見出す方策」と言えるものだ。
それを実践する人材として「データサイエンティスト」も話題の職種だ。データ群の中に何らかの事実を見出し、それを説明し得る法則をもって裏付ける。他社がなかなか気が付かないであろうビジネス上のヒントを探索し、旨みのある“果実”を刈り取ってくることが期待されている(図1-2)。
会員登録(無料)が必要です
- 1
- 2
- 次へ >