[調査・レポート]

会津若松市は”スマートシティ”の先頭ランナーになるか?

2013年10月2日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

ここ数年、よく聞く言葉の1つになったスマートシティ。しかし具体像が見えにくいのも事実だ。その中で注目されるのが、会津若松市の取り組み。蘭アムステルダム市と提携するなど、スマート化への道をひた走っている。

会津若松市、会津大学、アクセンチュアが震災復興で手を組む

 横浜市や北九州市に比べると、会津若松市がスマートシティに取り組み始めた時期は遅い。2011年3月に起きた東日本大震災からの復旧・復興案の策定に向けて、同市と同市にあるICT専門大学の会津大学、アクセンチュアの3者が2011年7月、共同で活動を開始することを発表して以降のことだ。この時、アクセンチュアは同市に「福島イノベーションセンター」という拠点を開設、常駐スタッフを配置した。東京からの出張や一時的な派遣ではなく、スタッフが会津若松市に移り住んでいる。アクセンチュアの本気度を示す話である。

 「移り住んだ以上、部外者ではない。運命共同体に近い」。以降、福島イノベーションセンターは会津若松市、会津大学と共に様々な施策を手掛けていく。風評被害の鎮静化を目的とした自社スタッフの線量実測値の公開(東京と同等であることを実証)、雇用創出と自立型エネルギー社会を目指した林業とバイオマス発電の推進を手がける地元ベンチャーの支援、複数メーカーのHEMSと連動可能なCEMSを構築するオープンなスマートグリッド通信仕様の策定、市内100世帯にスマートメーターを設置することによる実証実験、市民を中心に据え医療機関や薬局、市の健康福祉部などを連携させる健康クラウドの構想案の策定、NTTドコモに働きかけアンドロイド・リモートテストセンターの誘致(雇用創出)、などだ(PDF)。

 こうした2年あまりの取り組みの中で、会津若松市は中核施策の1つに「持続力と回復力のあるスマートシティ」を据え、海外の先進自治体との連携を模索するようになる。それが今回のアムステルダム経済委員会との提携につながった。具体的には福島イノベーションセンターの働きかけで、アムステルダム経済委員会のディレクターやオランダ大使館が本年6月4日に会津に赴いて市の取り組みを視察。その後は関係者が何度もテレビ会議で提携内容を議論し、合意に至った。アムステルダム経済委員会は現地のアクセンチュアがサポートしており、グロバール企業であるアクセンチュアが両市を結びつけたと言える。

 実際、9月24日に開かれた両市の提携発表会で、室井照平会津若松市長は「提携はアクセンチュアの協力の賜物。健康や福祉、スマートアグリカルチャ(農業)も含めて協業を推進していきます」と述べた。発表会に出席したオランダ大使館のメレイ・ワグナー経済部参事官もこう話した。

 「アムステルダム市はスマートシティを推進しており、それを一層加速させるためにはコラボレーションが必要と考えています。例えば高齢化社会への対応やエネルギー、ゴミ問題などへの対応では、日本が先進的な取り組みを実施しています。今回、アクセンチュアの支援を受けて、その日本の会津若松市との連携がなされることになりました。アムステルダムを代表してとても光栄であると申し上げます」。

 提携発表会に出席したアクセンチュアのブルーノ・バートン氏(グローバル・マネージングディレクタ)もこう話す。「アクセンチュアはアムステルダム市のパートナーでもあり、市民を巻き込んだ様々な実証実験や産官学の共同事業に関わってきました。世界各地で同様な取り組みをしており、会津での活動も同じです。特に会津には”金継ぎ”という技術があると聞きました。壊れた漆器を接着して直す際、表面に金の装飾を施すことで元の漆器以上の価値を出す技術です。私はこれを知って、スマートシティに欠かせない持続可能性をもたらす象徴だと捉えました。そんな会津とアムステルダムの新たな関係構築をお手伝いできたのは、とても素晴らしいことです」。

 直接の関係者だけではない。提携発表会にはICTに造詣の深い平井たくや衆議院議員、総務省情報通信国際戦略局の河野隆宏企画官なども、ゲストとして名を連ねた(写真)。

写真:会津若松市とアムステルダム経済委員会の提携発表会の模様

 「蒸気機関を第1次、電気・石油を第2次としたとき、ICTは第3次産業革命の牽引役。だからこそ安倍内閣は成長戦略の中でICTの重要性を提唱しています。そんな中でICTを使った街作りは多くの国のいろいろな地域で進んでいますが、しかし、これが成功というのはまだありません。それを創る点で両市の提携は時期を得たものだと思います」(平井議員)、「今年6月、IT国家創造宣言が閣議決定され、その中でスマートグリッドの推進が述べられました。関連する研究開発や国際化などやるべきことは多く、総務省は各地に拠点を設けて推進しています。その1つが会津若松です。今回の提携などで海外連携、情報発信を期待しています」(河野企画官)。

 当然、これらのコメントには儀礼的なことが含まれている。だとしても、平井氏や河野氏を巻き込んでいる点に注目して欲しい。いい意味での「アクセンチュアの政治力」が奏功しているのだ。

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