[ザ・プロジェクト]

昭和シェル石油は、SAP ERPのサポート切れをどう乗り切ったか

2013年11月14日(木)緒方 啓吾(IT Leaders編集部)

システム担当者にとって、ソフトウェアのサポート切れは頭の痛い問題だ。安定稼働するシステムへの追加投資を、経営層にどう納得してもらうか。昭和シェル石油は、ダウンサイジングによるコスト削減と、事業継続強化を組み合わせ、難題を乗り切った。プロジェクトを牽引した2人に話を聞いた。(文中敬称略) 聞き手:本誌編集長 川上 潤司 Photo:陶山 勉

バージョンアップのコスト増をダウンサイジングで相殺

――基幹システムを刷新されたと聞きました。まずは、プロジェクトの概要を教えて下さい。

昭和シェル石油 グループファンクションズ情報企画室長の久保 知裕 氏
昭和シェル石油
グループファンクションズ情報企画室長
久保 知裕 氏

久保:SAP ERPを、4.6Cから6.0にバージョンアップしました。周辺システムも新システムに合わせて、手を加えています。具体的には、データインタフェースのハブになっているEAIや、請求書をユーザーに公開するためのWebシステム、インターネットで受注するためのアプリケーションなどです。インフラもUNIXサーバーから仮想インフラに変更しました。

 プロジェクトの予算をとったのが、2012年の4月。翌5月にプロジェクトを立ち上げ、準備期間を経て、発注したのが7月でした。2013年7月中旬に、移行を済ませました。

――どんな背景があったのでしょう?

久保:サポートが終了するため、否応なく、バージョンアップせざるを得なかったというのが実情です。基幹システムは問題なく稼働していたので、積極的な理由はありませんでした。

 ただ、サポートのためとはいえ、バージョンアップには相応のコストが掛かります。サポートを継続するためと言っても、経営陣はなかなか受け入れてくれません。そこで、基幹システムを仮想環境に移行して、インフラコストを圧縮しつつ、事業継続性を強化したり、モビリティを向上させたりと、次の一手も打ちやすくするというストーリーを描いたわけです。

――ということは、今回のプロジェクトは完全にシステム都合なのですね。

久保:おっしゃる通りです。経営層には、今回はITのプロジェクトとして説明しました。新しい機能は基本的に追加せず、利用者にも極力影響を与えません。変わったことすら意識させないようにしますよ、と。

――せっかく、ERPをバージョンアップするのですから、新機能を盛り込んでも良かったのでは?

久保:そうした要望も寄せられました。ただ、基幹システムに変更を加えると、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)を同時並行で走らせることになってしまいます。今の人的リソースでそこまで手を広げるのは困難だと判断しました。今回はバージョンアップに専念させてほしい。それが終わってから、新機能が必要かどうか、是々非々で検討しましょうと説得しました。

世界140カ国でエネルギー関連事業を展開するロイヤル・ダッチ・シェル参加の日本法人。世界各国から輸入した原油を精製、販売する。写真は、三重県にある四日市製油所の全景
世界140カ国でエネルギー関連事業を展開するロイヤル・ダッチ・シェル参加の日本法人。
世界各国から輸入した原油を精製、販売する。写真は、三重県にある四日市製油所の全景

ERPのバージョンアップに積極的になれなかった理由

――ERPのバージョンアップでは、アドオンの問題もありますね。この点はどうだったのでしょうか。

久保:SAP ERPのうち、13のモジュールを使っていますが、いずれも、ほとんど手を加えていません。パッケージをほぼ素のままで使っています。というのも、ERP導入で、一度痛い目にあっているからです。

――というと?

久保:昭和シェルが最初にSAP ERPを導入したのは、1996年前後のことです。基幹系の経理システムをホストから置き換えるにあたり、パッケージ製品として使い始めました。バージョン3.0cだったと思います。その後、他のシステムでも、作り直す必要が出てくるたびに、SAP ERPのパッケージを活用するようになりました。

 ただ、当時はパッケージの使い方を十分には理解していませんでした。各システムを構築する際、相当にカスタマイズを加えていたのです。その結果、各システムがサイロ化してしまった。例えば、販売管理、購買管理ともにSAP ERPのモジュールを使っているのに、別途インタフェースを用意しなければ、データをやり取りできないような状況になっていたのです。

――そこで得られた教訓から、パッケージをそのまま活用するスタイルが確立したのですね。

久保:おっしゃる通りです。きっかけは、やはりサポート終了でした。3.1Hから4.6Cにアップグレードする必要に迫られたのです。アドオン、カスタマイズを多数を加えていましたから、費用も膨れ上がった。一方で、その金額に見合うほど、パッケージを活用しきれていませんでした。例えば、販売管理はERPで完結せず、一部の業務はホストも併用している、といった状況だったのです。

 このままではまずい。そう考えて、システムの再構築を始めたのが2001年ごろ。最初のシステム構築を反面教師にしました。ERPは、部分導入せず、全てのモジュールを一括導入する。業務に合わせたカスタマイズもしない。

 方針を徹底するため、業務プロセスも標準化しました。「お客さんが言っているから」と言われれば、「いつ、どこで聞いたんだ」と追及する。「法対応で必要」と言われれば、「時限立法じゃないだろうな」と返す。教科書的なERPの使い方を地で行ったわけです。

――その時点で、基幹システムは完成を見ていたわけですね。だから、バージョンアップに積極的になれなかった。

久保:おっしゃる通りです。ビッグバンで導入しているので、システム間を接続するためのユーザーインタフェースもそう多くありません。業務プロセスの多くが、SAP ERP上で完結します。例えば、受注処理。インターネットやEDI経由でインプットされると、ERPが自動的に処理します。請求書も、電子化して顧客に提示しています。

 目下の課題は、蓄積したデータの分析、あるいは、受発注の受け口の多様化など。基幹システムそのものではなく、周辺システムに関するものです。基幹システムという面では、ほぼ手を付けてしまった状況だったのです。

●Next:マルチベンダーマネジメントでの苦労

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