「会社の業務で利用させる以上、モバイルデバイスは会社が支給すべき」「私物を使わせると、セキュリティが不安だ」などと考えている企業のIT責任者がいるとするならば、そうした認識は早急に改める必要があるかもしれない。というのも、最近ITRが実施した調査の中で、BYODにまつわる興味深い傾向が示されたからである。
ITRがJIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)と共同で2014年1月に実施した「企業IT利活用動向調査2014」では、国内企業におけるスマートデバイスの導入状況を調査した。
スマートフォンについては、「会社支給による導入」を全社員の10%以上で実施している企業の割合は41.6%、「私物端末の業務利用許可」を全社員の10%以上を対象に実施している企業の割合は23.5%であった(図1)。いずれも前年の調査結果(それぞれ27.3%、17.3%)を上回り、導入が着実に進んでいることが示された。
この結果からは、企業の間では会社支給による導入が主流であり、BYODの採用の進展は比較的穏やかであることが読み取れる。しかし、その2つの結果を組み合わせて集計すると、面白い傾向が見てとれる。
BYOD採用企業の大半は会社支給との「併用型」
それは、BYODを実施済み(従業員の10%以上)とした企業の大半は、実は会社支給も同時に行っている「併用型」であるということだ(図2)。「私物のみ」を活用しているとした企業の割合は、BYOD採用企業のうちわずか4分の1にすぎない。
今後の検討状況を見ても、やはり併用型での運用を試験・計画している企業の割合が(9.3%)が、私物のみの活用を試験・計画する企業の割合(3.2%)を大きく上回っている。
すなわち、BYODは、「会社で端末を支給する余裕のない企業がやむなく認める」というような消極的な目的で採用されているのではなく、「会社支給端末を補完し、モバイル活用をより推進する」といったより積極的な目的から注目されつつあることがうかがえる。前年の調査結果と比較しても、「私物のみ」の導入がまったく伸びていないのに対して、「併用型」の導入は50%近く増加している。
最近、ユーザー企業から寄せられる相談・問い合わせを見ていても、こうした傾向は顕著だ。これまで会社支給のみ許可してきた企業の中にも、私物端末の利用も解禁しようとする動きが出始めている。
背景には、利便性の向上に対する現場の強い要求がある。また、私物利用をむやみに禁止することで「シャドーIT(管理者の目の届かないところでの隠れた利用)」が蔓延するという別のリスクが生じることも認識されるようになってきた。
活用度合いでも優位に立つ「併用型」
会社支給とBYODの「併用型」企業が活用により積極的であることは、その目的からも確認できる。スマートフォンを導入済みとして企業のうち、最も広範囲にわたる活用を想定しているのは「併用型」であり、その度合いは「会社支給のみ」をも上回っているからだ。
一方で、「私物のみ」の導入企業は、活用の意欲が極めて低く、20%以上は「当てはまるものがない」と回答した(図3)。この結果からは、同じくBYODを採用する企業の間でも、「併用型」と「私物のみ」の企業とでは、モバイル活用の意識に大きな隔たりがあることがわかる。
運用ポリシーに見られる温度差
会社支給とBYODの併用型企業にみられるもうひとつの特徴は、“民主的”な運用ポリシーを採用する傾向が強いということである。
スマートデバイスの実運用においては、「端末内に業務データの保存を認めるべきか否か」、「私物端末の通信費を会社として支払うべきか否か」といった細かな悩みが生じることが多い。
どのようなバランスでこうしたポリシーを設定するかは、企業の業態や取り扱う業務データの種類・性質によっても異なるため一律的な正解は存在しないが、データを見ると、併用型企業が最も「ユーザー・フレンドリー」な姿勢をとっている。
まず、「端末内への業務データ保存」については、会社支給のみ、私物のみで導入している企業では、容認派と否定派が拮抗しているのに対して、併用型で導入している企業では、半数以上が容認派である(図4)。
さらに興味深いのは、私物端末に対する費用負担の考え方である。本来であれば、会社から端末を支給していない「私物のみ」の企業のほうが、個人負担の軽減策が必要であるように思われるが、実際には「併用型」のほうが費用負担の実施率が高い(図5)。こうした結果からも、併用型企業が活用をより重視していることがうかがえる。
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