[市場動向]
主要ERPベンダーのM&A戦略─現場指向の業種・業務特化で「2Tier」市場を攻める
【徹底調査】M&Aに見るERPの将来像─インフォア/マイクロソフト/ネットスイート/IFS
2014年4月24日(木)折川 忠弘(IT Leaders編集部)
独SAPや米オラクルといった大手ERPベンダーが、積極的なM&A戦略でクラウドサービスの拡充を図る中、両社に続く中堅ERPベンダーは、どんな策を講じているのか。ここでは、米インフォア、米マイクロソフト、米ネットスイート、スウェーデンのIFSの4社のM&A戦略を追う。
独SAP、米オラクルのメガERPベンダーを追いかけるERPベンダーの代表格が、米インフォア、米マイクロソフト、米ネットスイート、およびスウェーデンのIFSの4社だ。各社が、2009年1月から2014年3月の約5年間に実施したM&A(企業の統合・買収)をIT Leaders編集部が調べた結果が表1-1~表1-4である。
これを見れば、マイクロソフトを除くと、各社が実施した買収件数は必ずしも多くない。SAPやオラクルの買収対象がテクノロジー重視であるのに対し、業種・業務特化型のパッケージベンダーに触手を伸ばしているのも、共通点である。各社のM&Aの内容を見ていこう。
インフォア
インフォアが約5年間に実施したM&A件数は10件ある。その中で、大型の案件と言えば、2011年4月に買収した「Lawson Software」だ。ファッションや飲料、医療・建設機器レンタルなど小売業を中心とした業種特化型ソフトを提供する。ファッション分野では、売れ筋商品の補充計画を立案したり、飲料業界では、消費期限や小口配送を管理したり、といった機能を持つ。これらの機能を、インフォアが持つERPのポートフォリオに追加することで、業種特化型サービスの拡充を図っている。
業種別では、ホテル業界向けの買収も目立つ。「SoftBrands」と「Easy RMS」である。前者は、「Infor Hospitality」として、後者は「Infor EzRMS」として、それぞれラインナップに加わっている。予約や顧客の管理だけでなく、空室状況や予約のキャンセルといった要因が、ホテル経営の収益にどう影響するかを可視化する。
表1-1:インフォアが買収した企業(2009年~2014年3月)
実施年月 |
対象企業 |
対象分野 |
M&Aをした企業の概要と各社の狙い/取り組み |
2009年8月 |
SoftBrands |
ホテル向けERP |
ホテル業界向けに予約や顧客管理、会計、業績管理などの機能を提供。「Infor Hospitality」として製品化している |
2010年1月 |
Bridgelogix |
入出庫管理 |
バーコードを活用し、商品の入出庫や棚卸業務の支援機能を提供。モバイルの活用を想定した倉庫管理製品に統合する |
2010年7月 |
Qurius |
ERP導入支援 |
Infor LN(旧ERP LN)の導入支援サービスを提供する。QuriusのLN事業部門だけを買収で取得し、サービス強化を図る |
2011年4月 |
Lawson Software |
業種別ERP |
ファッション/アパレル業界、食品/飲料業界など、特定業種に特化したERPやSCM、SRMなどを提供。特定業種向け製品の拡充を進める |
2011年10月 |
ENXSuite |
エネルギー管理 |
企業が排出する二酸化炭素や廃棄物質などを管理する機能をクラウドで提供する。資産/設備管理ツール「Infor EAM」に統合し、エネルギー/コスト管理機能を強化する |
2012年1月 |
Easy RMS |
経営管理 |
主にホテル業界を対象に、空室状況や予約キャンセルといった要因が収益にどう影響を与えるのかを可視化するツールを提供。「Infor EzRMS」として製品化している |
2012年8月 |
Groupe Laurier |
販売パートナー |
流通業向けにインフォア製品をカナダで販売する。カナダの顧客サービス向上を図る |
2013年3月 |
CERTPOINT Systems |
eラーニング |
Webやモバイルを使ったeラーニング環境を提供。受講者の進捗状況を把握できる。人材管理製品「Infor Human Capital Management Suite」に組み込む |
2013年4月 |
TDCI |
製品構成管理 |
部品や材料、構成を一元管理する仕組みを提供。設計変更により、どの部品が不足したり、逆に余ったりするといった情報の収集を容易にする。「Infor LN」や「Infor SyteLine」などに組み込む |
2014年1月 |
PeopleAnswers |
タレントマネジメント |
収益を最大化するための人材配置を割り出すための、人材採用やスキル管理の機能をクラウドで提供。クラウドのラインナップ拡充を図る |
マイクロソフト
マイクロソフトが約5年間に実施したM&A件数は22件である。ここで取り上げた4社の中では、他の3社とは異なり、業種・業務アプリケーションよりも、テクノロジーを対象にしたM&Aが中心だ。なかでも、データセンターやクラウドの運用管理と、アプリケーション開発関連が目立つ。クラウドサービス「Windows Azure」へ急速に舵を切っていることが分かる。
運用管理関係では、データセンターの運用効率を高める「Opalis Software」や、クラウドの性能や課金などを管理する「MetricsHub」を買収。アプリケーション開発関連では、アプリケーションの性能を計測する「AVIcode」やアプリケーションライフサイクル管理の「InCycle Software」である。これらは、運用監視ツールの「System Center」などに統合され、ハイブリッド環境でのアプリケーションの一元管理や、アジャイルなサービス開発を目指す、いわゆるDevOps(開発と運用の密連携)の実現を目指す。
これら基盤系技術と並行して目に付くのが、ソーシャル分野の買収だ。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)への投稿などを分析する「NetBreeze」や、モバイルを含めた顧客サポートを実現する「Parature」である。同分野では、音声通話の「Skype Technologies」やSNSの「Yammer」を先行して買収している。
これらの機能は、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)ソフトの「Dynamics CRM」などに統合されている。Dynamics CRM は、不動産情報や、種々のデバイスから投稿されるコンテンツなど、いわゆる顧客以外の情報管理にも利用されており、ソーシャル系テクノロジーが集積するソフトウェアになっている。
表1-2:マイクロソフトが買収した企業(2009年~2014年3月)
実施年月 |
対象企業 |
対象分野 |
M&Aをした企業の概要と各社の狙い/取り組み |
2009年5月 |
BigPark |
オンラインゲーム |
オンラインゲームを開発/配信する。BigParkのゲーム開発者をマイクロソフトのゲーム事業部に集約し、「Xbox 360」などのゲーム開発を強化する |
2009年9月 |
Interactive Super Computing |
並列処理技術 |
並列処理技術を使った計算システム「Star-P」を提供し、デスクトップ用分析ツールの処理を並列化する。HPC事業の強化に利用する |
2009年9月 |
LS Retail |
小売業向けシステム |
店舗のPOSシステムから本部の基幹業務までを包含するソリューションを提供。Dynamics NAVに機能を統合する |
2009年11月 |
SourceGear |
アプリケーション開発 |
Windows以外のOS上でWindows向けアプリケーションを開発する環境を提供する。SourceGearが保有する関連技術だけ取得し、開発環境の強化に用いる |
2009年12月 |
Opalis Software |
データセンター運用管理 |
データセンターの運用効率を高めるソフトウェアを提供。運用管理プロセスを自動化するランブック自動化ソフトや、仮想マシンの稼働状況を管理するソフトなどがある。それら技術を「System Center」に取り込む |
2009年12月 |
Sentillion |
情報連携 |
医療従事者向けソフトウェアを提供。複数システムをシングルサインオンで接続したり、異なるソースから関連情報を抽出し紐づけたりを可能にする。同技術を、医療従事者向け情報システム「Amalga Unified Intelligence System」で活用する |
2010年10月 |
AVIcode |
性能監視 |
アプリケーションの性能を計測する技術を保有。「System Center」に統合し、オンプレミス/クラウドの両アプリケーションの性能を一元監視する |
2010年10月 |
Canesta |
モーションコントローラ |
身振りなどのジェスチャーでコントロールできる「モーションコントローラ」技術を提供。ゲーム機「Xbox 360」に用いているモーションコントローラ「Kinect」の精度向上を図る。医療分野での利用も見込む |
2011年5月 |
Skype Technologies |
インターネット通話 |
インターネットを利用した電話サービスやチャットを提供。具体的な統合計画はないが、コミュニケーション基盤として、さまざまな製品/サービスへの統合を検討する |
2011年6月 |
Prodiance |
リスクマネジメント |
ファイルの利用状況を監視したり、監査証跡としてファイルを保存したりするソフトを提供する。「Office」「SharePoint」に機能を統合する |
2011年11月 |
VideoSurf |
動画検索 |
動画検索サービスを提供。独自の解析技術により動画検索を可能にする。同技術をオンラインゲームや映像を配信する「Xbox Live」のコンテンツ検索に用いる |
2012年6月 |
Yammer |
社内SNS |
企業向けのSNSを提供。「Office 365」や「SharePoint」、「Dynamics」などに統合し、利用者間のやり取りを記録できるようにする |
2012年7月 |
Perceptive Pixel |
タッチディスプレイ |
大型のマルチタッチ対応ディスプレイ製品/技術を持つ。複数人が大画面を見ながらマルチタッチで文字や線を入力したり、迫力のあるプレゼンを実施したりする用途を見込む |
2012年10月 |
MarketingPilot |
マーケティング |
複数チャネル向けのキャンペーンを管理したり、キャンペーンの効果を測定したりするソリューションを提供する。Dynamics CRMに統合する |
2012年10月 |
StorSimple |
ストレージ |
クラウドと連携するストレージ製品を提供。利用頻度の低いデータをStorSimpleのストレージからAzureストレージに退避したり、Azureストレージをローカルストレージのように利用したりできるようにする |
2012年10月 |
PhoneFactor |
2要素認証 |
電話やスマートデバイスを使った認証サービスを提供。同サービスを「Office 365」ログイン時の認証に利用する |
2012年12月 |
R2 Studios |
家電関連技術 |
家電向けの自動化技術や家電を制御するアプリを提供する。Xboxを家電の集中管理端末に活用できるようにする |
2013年3月 |
MetricsHub |
モニタリング |
クラウドの性能や課金などを管理するサービスを提供。負荷に応じてリソースを自動追加する機能がある。Windows Azureのパフォーマンス監視に利用する |
2013年3月 |
NetBreeze |
ソーシャル |
ソーシャルサービスの投稿を分析し、自社や自社商品の評判を把握する機能を提供。Dynamics CRMに機能を統合する |
2013年6月 |
InCycle Software |
アプリケーションライフサイクル管理 |
Microsoft.NET用アプリケーションのライフサイクルやリリースを管理するソフトウェアを提供。製品の開発からリリースまでの期間を短縮し、DevOpsを推進する |
2013年9月 |
NOKIA |
携帯端末 |
携帯端末やスマートデバイスを提供する携帯事業部門を買収。Windows Phone、Surfaceに加え、自社製品として展開する |
2014年1月 |
Parature |
CRM |
モバイルやソーシャルを活用した顧客向けサポートサービスをクラウドで提供。Dynamics CRMの機能強化を図る |
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