[韓国ICT事情]

韓国で個人情報流出の被害者が自治体を訴訟、住民番号の変更を裁判所が却下

2014年12月17日(水)李 東源

電子政府の推進などを筆頭にICT活用を積極的に進める韓国。現地メディアの報道から、韓国の官民の最新動向をピックアップして紹介します。

個人情報流出の被害者が自治体を訴訟
住民番号の変更を裁判所が却下

──アジアトゥデイ 2014年11月6日

 国民カード5300万人、農協カード2500万人、ロッテカード2600万人の住民番号や名前、電話番号など、最大18項目の個人情報が流出──。2014年1月に発生したクレジットカード3社の情報流出事故である。この事故の被害者6人が自治体(区役所)を相手取り、住民番号を変更するよう訴訟を起こしたが、敗訴(却下)で終わった。

 ソウル行政裁判所は理由について、原告には住民番号の変更を申請する権利が認められていないこと、住民登録法の施行令に住民番号の「変更事由」の規定がないこと、などを挙げた。加えて「住民番号の個別変更を認めた場合、現体系の個人識別機能と本人証明機能が弱まり、社会的な混乱を招く恐れがある」とし、「住民番号の変更事由は、住民番号体系の効率性と弊害および、その補完策、さらに変更による社会的な混乱などを総合的に考慮しなければならない。これは立法機関の問題である」と説明した。自治体が個別に住民番号を変更すると無用な混乱を招くというわけだ。

 これに対し、国民の人権保護を担当する「国家人権委員会」は、住民番号の変更条件を緩和する必要があると指摘する。2014年8月、安全行政部(総務省に相当)が住民登録法の改定案について同委員会に意見を要請した際、同委員会は「住民番号の流出による財産または生命、身体の被害の恐れがある場合、またはその被害が確認された場合は住民番号を変更することが好ましい」との意見を安行部に伝達したのだ。

 同委員会は、それに加えて改定案における住民番号変更条項である「生命・身体に被害を受けたり、財産上に重大な被害を受けることが確実に認められる人」という定義に言及し、曖昧な表現である「重大な」を削除すべきと指摘している。被害の大小で法律を適用することは適切でないことと、変更条件をさらに緩和する必要があるとの意味である。さらに変更時には個人が特定されない「任意の番号」を付与すべきとした。これは改定案が、例えば性的暴力を受けた女性被害者の場合、「既存の番号を維持しながら一部のみを変更し、その変更事由を記載する」となっているためである。

通信大手KTの980万人の個人情報流出事故に「嫌疑なし」処分

──朝鮮ビズ 2014年11月9日

 前述の事故とは別に、2014年3月には通信大手KTの加入者980万人の名前、住民番号、クレジットカード番号、カード有効期間など、12項目1171万件に及ぶ個人情報が流出した。事故を調べた仁川地検は、「情報通信網利用促進および情報保護などに関する法律」違反の疑いとして警察から起訴された同社のA氏(役員)とB氏(セキュリティチーム長)について「故意性がない」との理由で「嫌疑なし」と発表した。一緒に立件された同社についても同じ理由で「嫌疑なし」とした。

 同地検によると、関係法令で定めている「ハッキング防止システムの運用」や「模擬ハッキング方式を適用」するなど、同社は持続的にセキュリティ対策を講じており、この点で個人情報流出に関する故意性はなかった。流出のターゲットになったKTのWebページも韓国インターネット振興院(KISA)の認証審査で適合判定を受けており、「他社のセキュリティレベルと比べても同社の対応レベルが足りなかったとは言えない」としている。

 この事件において、犯人の2人が既に逮捕されている。2人は約1年の間に取得した1170万人の個人情報を、携帯電話の販売業者などに回していた。すでに1審で懲役2~3年が下され、裁判は継続中である。この事件に対し韓国放送通信委員会は、KTに対して7000万KRW(約700万円)の罰金を科するなど業務改善命令を出した。

 なおKTは2012年にも870万人の個人情報流出事故を起こしたことがあり、その時は約7億KRW(約7000万円)の罰金を払っている。さらに2010年には地方選挙での立候補者向けの事業として、該当地域の有権者に対して情報利用の同意なしに選挙用の広報メッセージを送ったことで10億KRW(約1億円)の罰金を科せられたこともある。

サムスンSDSの時価総額は2兆8000億円
今後はグローバル市場の開拓が急務に

──マネートゥデイ 2014年11月17日

 韓国最大手の情報サービス企業であるサムスンSDSが11月14日に上場し、初日の時価総額は約26兆5800億ウォン(約2兆8000億円)に達した。業界大手のSK C&Cは2009年11月に上場済みで、現在の時価総額は10兆8500億KRW(約1兆850億円)である。韓国ITサービスの「ビッグ3」と呼ばれているLG CNSも、来年に上場すると見られている。

 上場している情報サービス企業にはほかにPOSCO ICTと新世界I&Cがあり、時価総額はそれぞれ8712億KRW(約871億円)、1718億KRW(約171億円)。時価総額で見た場合、サムスンSDSは群を抜いて大きい。しかし株価の高騰はいい点ばかりとは限らず、サムスンSDSは大きな肩の荷を抱えたとも言える。同社はグループからの売り上げが6割を超えており、市場の期待に応えるにはその依存度を減らし、企業価値をさらに高めないといけないからである。

 期待されるのが海外市場展開。2008年の世界金融危機以降、グローバルITサービス市場は5%未満の低成長期に突入しているが、韓国はさらに低い3%未満の成長率に止まっている。収益構造を変えるためにも、グローバル市場攻略が切実な状況である。IBMなど、海外のIT企業は「ITインフラ運用」「ビジネスプロセスアウトソーシング」「ITビジネスコンサルティング」など付加価値の高い事業の売上比率が高い。

 サムスンSDSをはじめとする韓国企業もクラウド、モバイル、ビッグデータなどの融合ソリューションを計画して海外進出を図っているものの、まだ緒に就いたばかり。証券業界の関係者は、「グローバルITサービス市場は、米国や欧州の企業が主導してきた。最近はインド企業も優秀な人材を背景にソフトウェア開発と自社ソリューションを提供するコンサルティング領域に進出している」といい、「韓国のITサービス大手も海外で非SI分野の成長を模索しないといけない」と指摘する。

韓国クラウド市場、海外企業の激戦区に
米国勢に加えて中国Huaweiも本格参入

──イーデイリー 2014年11月25日

 IBM、HP、アマゾンウェブサービス(AWS)、マイクロソフトといった米国企業だけではなく、華為技術(Huawei)などの中国企業も韓国のクラウド市場攻略を加速──。韓国企業や公的機関のクラウドに対する認識が改善され、国会で「クラウド法」の通過可能性も高まるなど、韓国内のクラウド市場が盛り上がる中、海外企業による市場進出が活発になっている。

 特にHuaweiは通信設備市場、スマートフォン市場に続き、クラウド市場にも参入した。米国企業が提供するパブリッククラウドではないが、プライベートクラウド環境構築のためのソリューションを通じて国内データセンター市場を攻略する。そのために2013年末から企業向けのサーバーとストレージの事業を始め、最近ではプライベートクラウド環境構築のためのソフトウェアである「FusionSphere 5」もリリースした。IBMやHP、DELLなどと競争しながら、プライベートクラウド市場を攻める戦略である。

 IBMは、従来のプライベートクラウドだけでなく、ここへ来てパブリッククラウド市場に力を入れている。買収したSoftLayerのデータセンターは現在は海外にしかないが、韓国内のデータセンターを検討中であり、来年上半期中には開設する予定である。そうなればパブリッククラウドを拡充する準備が整う。

 マイクロソフトとAWSも、やはり国内でパブリッククラウドのためのデータセンター構築を推進している。産業部(経産省相当)は、すでにマイクロソフトのデータセンター候補地域を「外国人投資自由区域」に用途変更し、土地費用を減免することを決めた。AWSは国内の通信事業者のIDCを活用して直接クラウドサービスを提供する計画だ。

 こうした動きに対し、韓国のクラウド産業協会などは国会でとどまっている「クラウドコンピューティング発展及び利用者保護に関する法律(クラウド法)」の年内通過を催促している。主務機関である未来創造科学部は、問題視されている国家情報院のクラウドサービス統制部分を修正した新しいクラウド法の公聴会を開催する予定である。なお調査企業である韓国IDCによると、韓国のパブリッククラウドサービス市場規模は2014年の2530億KRW(約253億円)から2017年には4882億KRW(約488億円)に成長する見通しである。

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