[市場動向]

調和・根回し・報連相……HCLTechはどうやって日本企業の心を開いたのか?

国民性や商習慣を理解し文化の壁を越えるために、インドのSIerが取り組んだこと

2025年5月15日(木)神 幸葉(IT Leaders編集部)

現在60カ国に拠点を持ち、グローバルに事業を展開するHCLテクノロジーズ(HCLTech)。日本での事業開始は1998年と古いが、その進展は欧米に比して緩やかだったという。重視したのは日本の文化や商習慣への深い理解で、日本企業専門の支援ユニット「JLANS」が主に担った。本稿では日本法人であるHCLジャパンのビジョンや顧客事例を含めて、HCLTechが日本市場にどうアプローチし、顧客の信頼を勝ち得ていったのか、現地での取材を元に紹介する。

日本企業の専門支援ユニット「JLANS」の役割

 HCLテクノロジーズ(HCL Technologies、略称:HCLTech)は、1989年に米国、1998年に日本、1999年に欧州と事業のグローバル展開を進めてきた。現在の売上構成比はインド国内が3%ほど、残りはグローバルでの売り上げが占めている(関連記事専門性と問題解決力で世界の企業を支援─インドHCLTechの軌跡と現在位置)。

 同社によると、米国と欧州ではスムーズにビジネスを発展させることができたが、日本での成長は当初から緩やかなものだったという。その理由についてこう説明している。

 「米国や欧州は多言語・多文化が共生する地域だが、日本は島国であり、長い時間をかけて海外との関係・信頼を構築してきたという歴史的な特徴がある。事業を開始した当初は、そんな日本の文化や商習慣を軽視してしまったり、理解できなかったりすることがあった。そうしたズレが、日本の顧客との関係構築に影響が及んでいたと考えられる」

 それでも日本に大きなビジネス機会を見出していたHCLTechは、この市場での事業展開を成功させるべく、2001年に日本専門のビジネス支援ユニット「Japanese Language Services (JLANS)」を設立した。

 JLANSは、同社で唯一となる特定国・地域専門のユニットで、本社所在地のノイダをはじめ、インド国内4カ所に拠点を構える。日本語や日本文化に対する正しい理解に務めるだけでなく、日本固有の業界知識を有するメンバーが集結。インドIT企業の中でも最大の地域特化チームの1つであるという。

 JLANSの主な役割は、顧客のITプロジェクトにおける翻訳・通訳などのコミュニケーション面のサポートと教育だ。HCLTechでは、さまざまな業界の専門用語データベースを構築し、そのうえでプロジェクトごとに用語リストやガイドラインを作成している。JLANSのメンバーは、それらを基に顧客からの提案依頼書、仕様書、設計書、コードコメントやテスト項目などを翻訳したり、顧客のオフショア訪問のサポートや報告会議において通訳を務めたりしている(図1)。

 翻訳や通訳は「意味がわかる」というレベルにとどまらず、「日本人は不満や心配事があっても表情に出にくい」といった細部にも気を配りながら、プロジェクトに並走してコミュニケーションをサポートしているという。

図1:JLANSの役割(出典:HCL Technologies)
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●Next:良好な関係構築には日本/インドの相互理解が欠かせない

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