[市場動向]

専門性と問題解決力で世界の企業を支援─インドHCLTechの軌跡と現在位置

デジタル、エンジニアリング、ソフトウェアの3軸でグローバル展開

2025年4月17日(木)神 幸葉(IT Leaders編集部)

HCLテクノロジーズ(HCL Technologies、略称:HCLTech)は、インドのIT産業を牽引する1社として、複数の事業をグローバルに展開するITサービスプロバイダー/ソフトウェアベンダーである。デジタルサービス、エンジニアリング/R&Dサービス、ソフトウェア開発サービスの3つを主力事業に、高い専門性と問題解決力をもって世界各国の顧客企業のIT/デジタルの取り組みを支援している。本稿では、HCLTech本社での取材で同社幹部が語った、グループの歴史や事業戦略、主要な顧客事例、日本市場への期待などをレポートする。

IT支援からイノベーション創出へ─世界から支持されるインドIT産業

 世界のIT産業において、インドが重要な地位を占めているのは有名だ。英語が準公用語とされていること、政府がIT産業の発展に力を注いできたこと、IT製品・サービスの主な輸出先である北米との時差が12時間で、24時間体制のビジネスに応えやすいことなどを要因に、グローバルで飛躍を遂げてきた。

 国内に本拠を置く有力な有力ITサービスプロバイダー/ベンダーとしては、本稿でフォーカスするHCLテクノロジーズ(HCL Technologies、略称:HCLTech)のほか、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)、インフォシス(Infosys)、ウィプロ(Wipro)などがよく知られている。高度な技術力を持つIT人材を多数輩出していることも有名で、世界的なIT企業の幹部にインド出身者が名を連ねている。

 この国がIT強国であることは数字にも表れている。インドの主要IT関連企業が加盟するNASSCOM(全国ソフトウェアサービス企業協会)とブランド評価コンサルティング会社Brand Financeの調査によると、2025年度のインドのIT産業の総売上は3000億米ドル(約45兆円)に迫る。また、グローバルケイパビリティセンター(注1)など各国のIT企業がインドに置く拠点数は約1800、IT企業の雇用者は約580万人となっている(図1)。

図1:インドのITビジネスの現況(出典:HCLテクノロジーズ)
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 HCLTechで成長市場 プレジデントを務めるスワパン・ジョーリー(Swapan Johri)氏(写真1)は、「実際、この国でITに携わる人の総数は580万人ではとどまらないだろう。IT産業が発展し始めた当初は、グローバル企業のサポートとしての役割が強かったが、現在ではインド発のイノベーションが目立っている」と説明する。

写真1:HCLテクノロジーズ 成長市場 プレジデントのスワパン・ジョーリー氏

注1:グローバルケイパビリティセンター(Global Capability Center:GCC)とは、大手企業・多国籍企業が国外で運営する、特定の業務・工程・機能を担う拠点のこと。コスト削減を主目的とした従来のBPOやシェアードサービスセンターとは異なり、戦略的で高度な業務や中核機能を担い、企業全体の能力(Capability)をグローバルに構築・強化することを目的としている。

世界60拠点で事業展開、HCLTechの軌跡

 上述したように、HCLTechは世界的に評価されるインドのIT産業を牽引してきた1社だ。本社はウッタル・プラデーシュ州のノイダ(Noida)にある。デリー首都圏の南東に位置し、産業開発を目的とした計画都市で、IT/テクノロジー産業の発展に伴い、多国籍企業のオフィスや本社が多数進出しているエリアである(写真2)。

写真2:デリー首都圏の南東に約21万㎡の広大な敷地を有するHCLTech本社

 HCLTechの歴史を振り返ろう。設立は1976年、ファウンダーのシヴ・ナダー(Shiv Nadar)氏はじめ8人のエンジニアによって、Hindustan Computers Limited(HCL)の社名で事業をスタート(図2)。設立当初に手がけたのはコンピュータハードウェアの製造で、1978年に独自設計の8ビットマイクロコンピュータを開発している。

 1993年には政府関係の大規模なITプロジェクトを受注し、インド証券取引所のシステム化までも担った。このプロジェクトは当時のアジア最大規模のもので、HCLTechがグローバルのITサービス市場へ進出し、ソフトウェアベンダーとして躍進するきっかけとなった。1999年には現在の社名に変更している。

 2018年には、米IBMからAppScan、BigFix、Notes/Domino、Sametimeなどの企業向けソフトウェア製品群を買収することを発表、翌2019年に買収完了してソフトウェアポートフォリオを強化、ソフトウェア製品事業部門であるHCLSoftwareの礎が形成される。その後、市場のトレンドに呼応して、AI、クラウド、モバイル、アナリティクスなど事業領域を広げていった。

 2025年3月現在、HCLTechグループ全体の従業員数は約22万人、拠点数は60カ国。2024年度売上は138億米ドル(約2兆265億円)、2025年度は150億米ドル(約2兆2000万円)を見込んでいる。

図2:HCL テクノロジーズの歴史(出典:HCLテクノロジーズ)
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●Next:HCLTechの強み─3つの主力事業と顧客への価値提供の方法論

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