「経営とITの融合」−−。これは、企業ITが抱える重要なテーマの1つである。その課題解決に向けた小さな一歩が、東日本大震災の爪跡を今も残す宮城県石巻市で踏み出された。同市にある石巻専修大学経営学部の学生たちが、ゼミ一環として、ITによる経営課題の解決に取り組み、その成果を発表した。企業ITの視点で見ると極めて初歩的で、ほとんど意味がないようにも見えるが、本誌読者には、このような教育が動き出していることも是非知っておいてほしい。
石巻専修大学経済学部の学生たちが取り組んだのは、「カーシェアリング業務の改善」。被災地の仮設住宅向けにカーシェアリングサービスを展開する日本カーシェアリング協会の業務改善に挑んだ。その成果は、宮城県石巻市で2015年3月24日に開かれた成果発表会で発表している。
このプロジェクトは、石巻専修大学経営学部の舛井道晴准教授のゼミにおける授業の一環として実施された。舛井教授は「経営学部の学生たちにITを活用するということはどういうことなのかを学んでもらうために実施した」と、その意図を説明する。NTTデータや、石巻市に本社を置くGISベンダーのイメージアソリューション、石巻専修大学がサポーター役を務めている。
舛井准教授は、統計や分析という工学的アプローチで課題解決・業務改善に取り組むOR(Operations Research)専門家で、数学的な見地からの経営学を授業に取り入れてきた。かねてから、日本の経営におけるITの重要性を指摘し、ゼミの学生たちには、卒業までに情報処理推進機構(IPA)が運営する情報処理技術者試験の基礎編である「ITパスポート試験」の取得を進めてきたという。
今回、日本カーシェアリング協会が課題に挙げたのは、(1)特定の人にしか実施できない業務があり、仕事量に片寄りがあること、(2)業務管理用システムをExcelで作成しているが、1枚のシートに様々な目的の情報が混在し、知りたい情報がどこにあるか分からなくなっている、の2点。
結果からいえば、学生達は、カーシェア関連業務を誰でも実施できるようにするためのマニュアルと、業務を効率化するための管理システムの作成という具体的な解決策を示し、それぞれを実行した。
プロジェクトを振り返ってみよう。参加学生たちは、まず4組に分かれ、7月31日から日本カーシェアリング協会へのヒアリングを開始した。各組が協会の抱える課題を抽出し、その課題を解決に導くためのIT活用策を立案し、プレゼンテーションした。その中から選んだ1つの施策を各組から選抜したメンバー6人が実際に形にすることにした。
選抜チームは、マニュアル班3人とシステム班3人に分かれ、それぞれの課題に取り組んだ。マニュアル班は、マニュアル作成用に収集した資料の情報が古かったため、実際に業務を体験しながら業務内容を理解し、マニュアルに反映させた。画像を多用し、視覚的にも訴えるマニュアルにすることで、新しく入ってきたスタッフが業務内容を覚えやすくしたほか、他の地域でカーシェアリングを展開する際の運営マニュアルとしても利用できるようにした。