回転寿司チェーン最大手のあきんどスシローと大手エアラインの全日本空輸(ANA)。業種も業態もまったく異なる2社だが、共通点が1つある。経営・事業においてITが重要な役割を果たしていることだ。それを理解できる格好の場が、CIO賢人倶楽部が2015年3月に開催した「事例に学ぶ、ビジネスに直結するシステム構築」と題する年次セミナーだった。
CIO賢人倶楽部(木内里美代表)のセミナーはこれで3回目を数える。1回目は「復活日本~経営に貢献するITとCIOの役割」(http://it.impressbm.co.jp/articles/-/10518)、2回目は「世界で勝つグローバルシステムの要諦」(http://it.impressbm.co.jp/articles/-/11083)だった。
今回は「事例に学ぶ、ビジネスに直結するシステム構築」と銘打って、あきんどスシロー 情報システム部長の田中覚氏と、全日本空輸(ANA)業務プロセス改革室イノベーション推進部長の荒牧秀知氏が、それぞれの取り組みを講演した。
回転寿司チェーンと航空会社という異色の組み合わせであり、IT活用の内容もまったく異なる。しかし熾烈な競争環境の中で、勝ち残りに向けて真剣にITの活用に挑んでいる点は共通だ。セミナーのタイトルそのものズバリの内容だったのである。以下、両社の講演からそれぞれの取り組みを報告しよう。
あきんどスシロー
100万円/1000人/1万皿が店舗の1日
「あきんどスシローは日本全国に391店舗を擁し、年商1300億円の回転寿司チェーンです。1店舗あたりの一日の来店客は1000人で平均10皿召し上がります。一皿の単価は100円なので、売上高は1日100万円。つまり100万円/1000人/1万皿が店舗の1日です。単純でしょ?」。同社の田中氏はこう切り出した。
これだけ聞けば確かに単純だが、実際はそうではない。12時間営業として単純計算すると1時間あたりの客数は80人以上で、昼時や夕方など時間帯によって変動する。加えて、「当社は基本方針として注文を受けて寿司を握るのではなく、寿司レーンに流すことを大事にしています。レーンに乗ったまま食べられないと鮮度が落ちる。まずい理由は結局、鮮度なので、古いものは廃棄します」というから、客の状況を見て流さないと、廃棄が増えてしまう構造だ。
それに寿司のメニューは約120種もあるので、うまくやらないと食べられないままに終わる皿が増える。食材の原価が安ければいいが、「味にこだわって売り上げの半分強を食材費にかけます」というから、大変である。ちなみに従業員数はパートやアルバイト含めて3万8000人。1店舗あたり100人近い計算になるが、本社スタッフや仕入担当も含まれるから実際はもっと少ない。休日やシフト勤務もあり、個人経営の寿司店のように人の経験や感覚に頼った運営は不可能である。
リアルタイムで需要を予測
そこでITの出番になる。以前から手掛けているのが、皿につけたICタグによる鮮度管理。「POSレジでは売れた皿数しか分かりません。ICタグで何時何分にレーンに流したかを把握して、鮮度管理を徹底しています」。ちなみに一般的な回転寿司チェーンでは注文比率が95%程度なのに対し、鮮度管理を徹底することでスシローは70%台に抑えているという。
別の工夫がリアルタイムの需要予測である。スシローでは来店客に人数と大人、子どもの数を、タッチパネルで入力してもらう(図1)。着席時間も管理しており、「着席すぐは食欲が高く、時間が経つと落ち着いくる」といった傾向をモデル化している。これで今どれくらい皿を流せばいいかを判断でき、レーンに流す皿の量を調整できる仕組みだ。
「メニュー単位で数学的には細かく予測することもできますが、店舗オペレーションが付いてこないので、丸めた数字を出しています。お客が少ないときは定番の寿司。多いときには品数を増やすといった指示です」(田中氏)
拡大画像表示
これを裏側で支えるのがデータ分析だ。レーンの皿はICタグで、注文はタッチパネル経由でお客自身が行うので、どのメニューがどの時間に食べられたかはデータ化されている。年間ざっと10億皿、過去4年分の40億皿に及ぶデータを、個店ごとの来店客数や時間帯の状況も合わせて分析する(図2)。「当社は寿司チェーン。分析するためだけに高価なインフラは買えません。そこでクラウドのAWSを利用しました。すると10万円でDWHを構築できたんです」(田中氏)。
拡大画像表示
もちろん分析用のBIツールは別に必要なので、無料で試用し、その上でライセンス体系を考慮して選んでいる。採用しているのはMotionBoard、QlickView、Tableauなどだ。「でも、そんなに複雑で高度な分析をしているわけではありません。時間ごとの着席の状況、見込み需要の推移、寿司の供給量、レーンにある皿の状況の推移などを可視化したり、店同士で比較するといった程度です。それでも注文に何分で対応できているか、注文への対応に忙殺されてレーンに流すのがおろそかになっていないか、などが一目瞭然。こういうことを手軽にできるのが、クラウドやビッグデータ技術のいい点です」。
●Next:リアルタイムな分析を追求するスシロー
会員登録(無料)が必要です
- 1
- 2
- 3
- 4
- 次へ >