[イベントレポート]

IoT時代における製造業の事業モデルを提唱─アジリティ(Agility)の追求が鍵になる

IFS World Conference2015報告

2015年5月11日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

企業、中でも製造業における情報システムはどんな方向に向かっているのか。あるいは確実に浸透しつつあるIoT(Internet of Things)をどのように生かし、自らのビジネスや事業を変革すればいいのか。それを占う格好の場が、製造業に強みを持つERPベンダーであるIFSが開催した「IFS World Conference 2015」である。日本における認知度は決して高くはないが、IFSは米ガートナーの評価でSAPと並び「リーダー」にポジショニングされているベンダーである。

 読者は「MRO」「PBL」といった言葉をご存じだろうか。日本における一般的な解釈は「MRO=Maintenance、Repair and Operations(間接材調達)」、「PBL=Project Based Learning(プロジェクトを想定した教育演習)」だろう。しかしIFS World Conference 2015(WoCo2015)では、全く異なる意味で使われていた。製造業の将来像の1つを示すものとして、である。

 まずMRO。Maintenance、Repairは同じだが、OはOverhaul(オーバーホール、総点検)である。全体の意味は、航空機やプラントといった機材や設備のメンテナンス、修理、オーバーホールを引き受ける受託整備事業を指す。発注者である航空会社などからすると、機体の整備や部品の調達・管理といった面倒な仕事を一括して外部に委託できる。もう一つのPBLは、Performance Based Logisticsの略。個々の作業や部品の調達に対価を支払うのではなく、可動率の確保や修理時間の短縮といった成果(パフォーマンス)に対価を支払う契約形態のことだ。ほかに企業サービス管理(ESM:Enterprise Service Management)という言葉もある。

 これらは必ずしも明確に定義された概念や用語ではなく、いささか分かりにくい。だが販売した機器や設備の保守・運用を担うだけに留まらず、例えば製品の稼働をサービスとして提供するビジネス形態と捉えると、明解になるかも知れない。つまり航空機エンジンや医療機器、建設機械やプラントを稼働させる責任を担うのは、これまでは購入企業(顧客)だった。これからはITやIoTを駆使するメーカー(製造業)がその役割を果たすようになる。言わば「製品の製造・販売」から「Product as a Service」へと事業モデルを変えていく。そのことを示すキーワードがMROやPBL、そしてESMなのだ。

 ただしWoCo2015が、こうした概念や用語にスポットを当てたカンファレンスだったというわけではない。主役はあくまで主催者であるIFSの新製品「IFS Applications 9」であり、カンファレンスで語られたことも「Change: Don't just adapt to it、capitalize on it(変化に適応するだけでなく、変化を利用せよ)」といった、より抽象度の高いフレーズだった。なぜか? 欧米ではMRO、PBLといった概念やそれに基づく事業モデルが、一部の業界かも知れないが浸透・定着しつつあるからだ。

PBLを提供する米GE Avationの事例

 WoCo2015では、そのことを示す事例セッションがあった。登壇したのは米GEの航空機部門であるGE Aviation社のBrian Slapshak氏。同氏の肩書きは「PBLプログラム・リーダー」であり、PBLという言葉が前置きなしに使われているのである。それはさておきGE Aviationの事業は、ヘリコプターやジェット機、プロペラ機、船舶向けなど様々なエンジンの開発・製造。顧客は世界各国の軍や民間企業(航空会社など)であり、売上高が240億ドルの最大手である(図1)。「特に軍用機では高シェアで、世界中の3機に1機が当社のエンジンで稼働する」(Brian Slapshak氏)。

図1 GEの事業全体像
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 その高いシェアを獲得した原動力の一つがPBLだ。というのも軍にとって高性能のエンジンを採用することは大切だが、採用したエンジンが確実に稼働し続けることはそれ以上に重要。いざというときに動かないようでは話にならないからである。「確実な稼働を実現するサービスが鍵になる。そのため部品や資材の調達と供給、労働の提供を一体化したサービスとして提供している。MROを含め、ファイナンス面でもサポートするロングタームの契約である」とSlapshak氏は語る。

 同氏によると、PBLを提供する上で欠かせない要素の一つが情報システム。どの基地にどんな機材があるかといったカスタマ・データの管理、部品を保管する倉庫やデポの管理、消耗品など資材の調達計画、軍との契約管理などに、IFS Applicationsを使っているという(図2)。歴史は古く、2001年からIFS Applicationsを使ったPBLを提供開始し、適用範囲を順次拡大してきた。

図2 GEの事業を支えるシステムの全体像
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 もう一つの要素がエンジンやその部品から得られる様々なデータを蓄積・分析し、例えば予防保全のための分析を行う「ミリタリーデータウェアハウス(M-DWH)」だ。具体的には、航空機のフライトに関わるデータやメンテナンスの情報、イベントの情報などエンジンに関わる情報を蓄積する。こちらは比較的新しく、ETLツールのInformatica、DBMSのOracle、BIツールのCognosを使って構築している。Slapshak氏は「倉庫やデポは各地にあり、ICタグを使った基幹部品の履歴管理なども行う。加えて多数のエンジンがあり、機種も多いので部品管理一つとっても簡単ではない。だから必要なパーツを無駄なく調達して管理し、PBLを提供し続けるために、IFS ApplicationsやM-DWHは欠かせない。適切なシステムなしに何かが可能になるようなマジックは存在しないのだ」と説明する。

 ここで本題に戻ろう。MRO、PBL、あるいはESM──こうした言葉(概念)が広がる背景には、製造業に限らずほぼすべての企業が直面する“変化”がある。WoCo2015では、その変化について示唆に富む指摘や的確に対応することの必要性が強調された。前述したように「Change: Don't just adapt to it、capitalize on it(変化に適応するだけでなく、変化を利用せよ)」がテーマなので当然だが、それはどんなものだったのか。ここからは基調講演を中心に報告する。

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