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[インタビュー]

「戦略的インフラとしてデータセンターを再定義せよ」―米ガートナー カプッチオ氏

IT部門が主導して創る「Enterprise Defined Data Center」

2015年8月3日(月)河原 潤(IT Leaders編集部)

ユーザーニーズとICTトレンドの遷移に伴い、データセンターが担う役割や機能が大きく変わりつつある。グローバルのデータセンター市場を長年注視し分析してきたエキスパートは、今の動きをどう見ているのか。2015年5月26~28日、東京都内で開催されたガートナー ITインフラストラクチャ&データセンターサミットの基調講演に登壇した、米ガートナー リサーチ部門 バイスプレジデント兼最上級アナリストのデイヴィッド・カプッチオ(David J. Cappuccio)氏に聞いた。(聞き手・構成:河原 潤、文:柏木恵子、写真:赤司 聡)

単なるDRではなくサービス継続性確保に重きを置く

――これからのデータセンターの最重要課題の1つにITサービス継続性を挙げています。既存の取り組みではまだ不十分なのでしょうか。

 ここ数年の間に世界各地で大規模な災害が起こった。企業が被った損害の状況から、データセンターがこれまで行ってきたDR(災害復旧)の施策は無駄だったのではないかという疑念の声が高まってきている。せっかくDRサイトを作っても、そこに赴くまでの道路が通行止めになっていたり、必要な燃料が供給されなかったりしたら意味がないわけだから。

 これからは、DRではなく、サービス継続性により重きを置くべきだろう。ビジネスの中には、1秒でもサービスがダウンしたら、信用を毀損したり、金銭的損失を被ったり、最悪人命にかかわる類のものもある。こうした24時間365日の連続稼働が前提のクリティカルなサービスに対応したデータセンター戦略の策定が急務だ。

 現に、ホスティングやコロケーション中心のデータセンター事業者の間では、データセンター自体に価値があるのではなく、複数のデータセンターをつなぐ安定したネットワークにそこ価値があるというように、考え方が見直されるようになってきている。

 例えば、重要なアプリケーションを、ビジネス上のリスク管理に合わせて、あるロケーションから別のロケーションへと容易に移動できるとか、24時間連続稼働が必要なサービスを複数拠点でロードバランスさせながら稼働し、1つの拠点がダウンしても別の拠点で難なくサービスを継続提供するといったことがすでに始まっている。

 最近ではさらに進んで、クラウド事業者とコロケーション事業者が連携して付加価値を持つサービスを提供する動きも盛んだ。マイクロソフトの場合、全世界19拠点のそれぞれが各国ローカルの事業者と組み、Azureの閉域網接続サービスを提供している。こうして1社では実現できなかった、地球を1周するような継続性の高いサービス提供が可能になった。

――2拠点間の単純なDRシステムでは、今のビジネス要件を満たせないケースが増えており、マルチクラウドやトポロジーを組んだネットワーキングによってノンストップのサービス継続性を確保すべきだと。

 複数のDRアプローチが考えられるだろう。24時間365日の連続稼働が求められるクリティカルなサービスに関しては、今説明したような仕組みが欠かせない。一方で、RTO (目標復旧時間)が24時間あるいは48時間のサービスであれば、従来型の対策でも十分だと思う。今では、DRを一手に引き受ける専門の事業者も増え、DRaaS(Disaster Recovery as aService、図1)も登場している。これらも含めて、RTOごとに使い分ければよいだろう。

図1:マイクロソフトのDRaaS「Microsoft Azure Site Recovery」の概念図(出典:米マイクロソフト)

「2つの流儀のIT」でビジネスに貢献する

――近年のIT部門には、経営に直接的に貢献しうる“攻めのIT投資”が強く求められていますが、現実には、ITインフラ/システムの整備や運用管理・保守、セキュリティといった“守りの投資”に忙殺されているのが実情です。現状を打破するには、どんなビジョンが必要でしょうか。

 今、IT部門の眼前には2つの相反する課題がある。1つは言わずもがなで、既存のビジネスをしっかり守ること。先に述べたEDDCの考え方も取り入れながら事業継続のためのインフラを整え、ビジネスのコアを担うアプリケーションの安定稼働を支えなくてはならない。その際には、ITILやバージョン管理なども採用し、ITの構成変更を正確に把握・管理できる環境を保つことも大事だ。

 もう1つは、事業部門やビジネスのイネーブラーにならなくてはならないという新しい課題だ。市場がめまぐるしく変化する中、新規ビジネス創出アプリケーション開発といった事業部門からのニーズに迅速にこたえて、ビジネスに貢献していく動きだ。こちらは、1つ目の課題とは背反するものだが、これからのIT部門は「2つの流儀のIT(Bimodal IT)」を巧みに取り入れて両方にあたっていくというのがガートナーの考えである(図2)。

図2:「2つの流儀」のIT(出典:米ガートナー、2015年5月)

 すでに優秀なCIOたちは、両方のITに適切な策を講じることで、ビジネス機会獲得に貢献していけることに気づいている。IT部門がこれまで守りのITに注力せざるをえなかった一方、市場競争を勝ち抜くにあたって、事業部門は新規のITに是が非でも取り組まねばならない。そこにIT部門がしっかり関与しなければ、ITとしてのコントロールをまったく失ってしまう。それは絶対に回避しなくてはならず、2つの流儀のITでことにあたる必要があるのだ。

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