[これがAI分野の先進スタートアップ企業だ]

人を補完する「いかにもAI」と、周辺を支援する「そこにもAI」

2016年1月1日(金)富士通 BIG CHANGEプログラムメンバー

AI分野ではどんな動きや取り組みが進んでいるのか。本連載では、俯瞰図「Machine Intelligence LandScape」を元に、技術や業務/業種別の取り組みなどを紹介してきた。最終回となる今回は、「Rethinking Humans/HCI」および「Supporting Technologies」、すなわち「ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)と支援技術」の領域を概観する。拡張現実・ジェスチャー・ロボットなど「いかにもAI(Artificial Intelligence)」という技術をビジネスにする企業と、AIの活用を支援する「そこにもAI」に取り組む企業を紹介する。

 HCI(Human Computer Interaction)は、人と機械/コンピュータが対話型で接する中で、何らかの知的な作用をする技術である。一方の支援技術は、人工知能を稼働させるに当たり必要になる周辺技術のことだ。

 こう説明すると難しく聞こえるかも知れないが、既に一般家庭に普通に溶け込んでいるAI(Artificial Intelligence:人工知能)がある。例えば、誰もが知っているロボット掃除機「iRobot」だ。筆者の自宅でも週2回、お世話になっている。たまに立ち往生していることもあるが、健気に各部屋を満遍なく掃除し終えたら元の位置に自ら戻っているのが素晴らしい。

 こうした知的な機械であるスマートマシンは、AIの応用の中でも最も広がりが期待される領域の1つだと言えるだろう。AIというと、これまで紹介してきた機械学習や画像認識、あるいは医療診断といった情報処理に目がいきがちだ。だが、こうしたコア技術を原動力に、家電製品だけでなく、介護機器や自動車、住宅などが知的になっていく。人の周りにある既存の様々な機器や機械が、AIによって再発明される。その領域に注力するスタートアップ企業が台頭してきているのだ。

 HCIは、以下の4つに分類されている。

●Augmented Reality(拡張現実)
Gestural Computing(ジェスチャー)
Robotics(ロボット工学)
Emotional Recognition(感情認識)

 一方の支援技術は、以下の3つに分類されている。

Hardware(ハードウェア)
Data Prep(データ収集)
Data Collection(データ加工)

 これらHCI/支援技術の各分野で、どの企業が、投資家から注目を集めているのか?「Machine Intelligence LandScape」の俯瞰図に掲載されているベンチャー企業のうち、HCI領域の29社から2社を、支援技術領域17社から2社を、融資総額や有名ベンチャーキャピタルによる融資の観点で紹介する(表1)。

表1:HCIと支援技術の領域で注目を集めるベンチャー企業の一例表1:HCIと支援技術の領域で注目を集めるベンチャー企業の一例
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LEAP motion

 LEAP motionは、PCをジェスチャーで操作する技術を開発している。手や指の動きの検出に特化したセンサー「Leap Motion Controller」をMacやWindows PCに接続して利用する。仮想現実(バーチャルリアリティ)を提供するためのヘッドマウントディスプレイ「VR Developer Mount」も開発している。

図1:LEAP MotionはジェスチャーとVRの連携を開発している図1:LEAP MotionはジェスチャーとVRの連携を開発している
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 Leap Motion Controllerのセンサーは、2基の赤外線カメラと赤外線照射LEDからなる。グローブなどが不要で、150度/8フィート(約2.4m)の広範囲をカバーしながら毎秒200フレームを取得する。家庭用ビデオカメラのフレームレートが毎秒30程度だから、かなりの高精細だ。取得した画像から指や手、ペンなどの動きを0.01ミリの精度で認識する。この認識ソフトウェアにAIの技術を使っているようだ。

 VR Developer Mountは、広角レンズにより135°可視領域を確保する。Leap Motion Controllerと組み合せることで、「目の前に広がるバーチャル空間上で自らの手で操作する」という体験を提供する。2012年にLeap Motion Controllerを99.99ドルで発売。VR Developer Mountは19.99ドルで販売している。

 対応アプリケーションとしては、例えばApp Storeでは芸術から音楽まで数百種が提供されている。用途は個人ユースだけではない。ヘルスケア分野におけるCTスキャンの操作、製造分野におけるロボットアームの操作、小売り分野における商品の仮想操作など、企業ユースが本格化しつつある。

Anki

図2:Ankiが販売するAI搭載のスロットカー図2:Ankiが販売するAI搭載のスロットカー
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 Ankiは、おもちゃのスロットカーゲーム「Anki Overdrive」を開発・販売する企業である。iOSあるいはAndroidを搭載するスマホやタブレットをリモコンに、Bluetoothで接続したスロットカーを操作してコースでのレースを楽しむ。スロットカーにバーチャルのアイテムを装備して、対戦相手を攻撃したり、相手からの攻撃を防御したりする趣向もある。

 「そうはいっても、単なるミニカーのレースでは?」と思われるかも知れない。しかし特筆すべきは、同社のスロットカーは人工知能を搭載し、各スロットカーが個別の特性を持っている。加えて操作者の特性を学習し、レースを重ねるごとに、より上手に走れるようになる機構も備える。対戦相手として、人工知能が操作するスロットカーを選択でき、一人でも楽しめる。

 Ankiは、これまでに数々の賞を受賞している。2015年には米ビジネス誌『Fast Company』が発表した「世界で最もイノベーティブな企業50社」に選出された。同賞には、AppleやGoogleも肩を並べる。Anki Overdriveの価格は数万円と、おもちゃとしては高いが、おもちゃ業界における注目度ピカイチの企業である。複数のWebストアで販売されているので、興味がある読者の方は、要チェックだろう。

Trifacta

 Trifactaは、データアナリストが分析しやすいように、ビッグデータを整理するツールとプラットフォームサービスを提供している。機械学習を用いて非構造データを構造化された形式や視覚化された形式に変換して提供する。

図3:Trifactaが提供するプラットフォームの範囲図3:Trifactaが提供するプラットフォームの範囲
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 その手法は、データ発見、構造化、クリーニング(データのごみ除去)、エンリッチ化、検証、出版のプロセスで構成される。一般に、アナリストがデータ分析に費やす時間の80%は事前のデータ準備が占めるとされる。これをシンプルにするのがTrifactaの技術だ。

 ユーザーには世界最大級のビジネス向けSNSであるLinkedInが、ビッグデータ分析のパートナーにはSalesforce.comが名を連ねている。The Channel Companyが発行する『CRN』誌において「Coolest Big Data Products」のトップ10にランクされている。

 米国にはTrifactaのように、ビッグデータの分析そのものではなく、分析の準備段階に焦点を当てて効率化するツールをAI技術を生かして開発する企業が存在する。その事実に、まず驚かされる。デジタルビジネス時代に、ビッグデータをいかに効果的に活用していくかは、あらゆる業種で求められる命題だけに、日本も力を入れるべきだろう。

WorkFusion

図4:WorkFusionが提供するサービスの画面例図4:WorkFusionが提供するサービスの画面例
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 文書の電子化や大量の伝票/帳票の入力などを効率的に処理したり、品質を確保したりするために、作業のクラウドソース化や外部事業者への委託を実施・検討する企業は少なくない。この点に焦点を合わせた技術を開発するのがWorkFusionである。うたい文句は「Smart process automation for the data-intensive enterprise」。data-intensive enterpriseとは、金融機関や通信企業、流通業、運輸業などを指す。

 WorkFusionが提供するのは、多量の人力作業を人力もしくは機械で実施できる作業分担に分割する支援サービスである。機械学習を用いて、作業のパターン化や自動化の訓練に関する最適化を図っており、機械化/自動化への移行や作業分担の精度向上、プロセスの自動化を図る。

 すでに銀行や金融、ECや小売業で実績を挙げている。WorkFusionのサービスを適用したECや小売企業では、75%の効率化や対応速度が5倍になった事例もあるという。米国を代表する金融専門紙『AMERICAN BANKER』から「Top 10 FinTech Companies」を、2013年に受賞している。

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