香港の鉄道カードシステムを巡る大型案件。日本ITCソリューションの課長である佐々木と事業部長の三森は、競合相手である中国IT大手の北京鳳凰との共同受注の道を探っている。特に三森は、北京鳳凰の蘇総経理の父親である董事長に会うことで事態を動かそうと考えている。帰国後は、6月24日に中国で開かれる入札資料のドラフト会議に備え、資料の作成指示とレビューに翻弄された。同会議には専務の苑田も出席することが決まっている。
入札資料のドラフト会議が開かれる6月24日の2日前、日本ITCソリューションの佐々木課長は、ドラフト最終資料をレビューするために一足先に香港へ向かうことにした。飛行機は前回と同じ8時55分発のNH859便だ。この便は便利で、香港国際空港には12時55分には着いてしまう。今回も到着日は日曜日に重なったので、佐々木はその日はホテルで過ごすことにした。
佐々木は、グローバルリーダー育成を掲げる私塾「山下塾」の塾生のため、塾からのホームワークが結構ある。その最大の作業は翻訳だ。英語から日本語だけでなく、日本語から英語に翻訳する資料もある。木元塾頭は佐々木に「毎日20時以降の2時間をその作業に当てろ」と指示してきている。佐々木は、その過酷なノルマをもう1年間も果たしてきた。そうした努力に対し目に見える成果が出ているだけに、歯を食いしばりながらこなしている。
今の課題は三十六計のケーススタディーの英訳だ。三十六計そのものは英語版があるが、塾長が書いたケースタディーは英語になっていない。英訳は、まだ第五計までしか終わっていない。

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第五計とは「火に趁(つけこ)んで劫(おしこみ)を打(はたら)く」である。その意味は「燃えている家から略奪する」だ(図)。
日本人であれば第五計は、当たり前のことを言っているのではないかと読み飛ばしてしまいそうだが、そうではない。これは中国人の相手を攻める時の基本的な姿勢だ。中国人は日本人とは違って実は攻撃的ではない。相手が負けそうになるタイミングをじっと待つことが彼らの考え方なのである。
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