「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、全日本空輸 業務プロセス改革室 イノベーション推進部長の荒牧 秀知 氏のオピニオンです。
今回はITの進化と、それに合わせた全日本空輸(ANA)のIT部門の変遷を振り返りつつ、IT部門に今求められている、そして今後、担うべき役割を述べたい。
ANAのIT部門は、1999年度までは「情報システム本部」の看板の下、ホスト中心のシステム開発を担っていた。航空機の運航や航空券販売を支えるシステムは、金融機関に次ぐレベルでのシステム性能や信頼性が求められる。実現するには何と言ってもメインフレームだった。メインフレームに100%依存し、事業ニーズに基づき「最適なシステムをスクラッチから『作る』」を旨としていた時代でもあった。
1990年代後半、ITの世界ではインターネット化やオープンサーバー化が大きく進展する。そんな中で、IT部門もレガシーシステムからオープンシステムへと大きく舵を切るべく、2000年度に「IT推進室」に鞍替えした。オープン化や標準化の流れを受けて、「作る」に加えて「パッケージのカスタマイズ」が選択肢に入ってきた時代だった。
しかしオープン化に伴って業務部門の要望に応えやすくなった結果、サイロ化したシステム総数が急激に増え、個別最適が蔓延する事態を招いた。オープン化への準備不足から大規模なシステム障害を発生させ、お客様にご迷惑をお掛けしたことも一度ではない。それがアーキテクチャーやプロセスの標準化、ネットワーク構成の見直し、保守運用体制の見直しなど、数々の対策を実施する契機となった。
2000年代中盤以降になると、世の中はクラウド化とモバイル化の時代に突入し、ITが大きく転換する。SaaS・PaaS・IaaSなどのクラウドサービスが台頭し、自前主義から利用主義、部分最適から全体最適、固定費から従量課金へと、新しいコンセプトがどんどん生み出された。それとともに「受け身のIT部門」から「攻めのIT部門」への変革が重要テーマになってきた。
このような流れの中で、2012年度にIT推進室を「業務プロセス改革室」に組織再編した。ニーズに基づくITの構築/運用から、ITを駆使した業務最適化、高度化への転換を意味している。掲げたのは、クラウドファースト、モバイルファースト、サービス利用といった方針だ。その下で、安価で柔軟性を持ったシステムの迅速な構築にチャレンジし、2013年の国内線旅客システムのオープン化、2015年には国際線旅客システムの業界コミュニティークラウドへのデホスト、データセンターのマイグレーションなどのシステム施策を実施した。
それだけではない。システムの安全・確実を旨とする「IT思考」から「顧客志向」「ビジネス思考」への転換もある。業務プロセス改革室は活動のフィールドを拡大し、フライトイレギュラー対応力の向上や、従業員のワークスタイルイノベーション、データ活用による経営貢献など、業務プロセスそのものを俎上に載せた社内横断プロジェクトにも取り組んできた。
そして2016年の春、業務プロセス改革室の中に「デジタル・デザイン・ラボ」と呼ぶ組織を新たに立ち上げた。IoTやロボット、ドローン、ウェアラブル、AI(人工知能)などの新技術をリサーチし、ビジネスニーズのマッチングに取り組むのがミッションの1つである。加えてデザインシンキング、リーンスタートアップ、アジャイル開発などプロセス自体の変革にも取り組んでいる。
こうしてみると、わずか20年のことだが、ITの変化や時代の変遷とともにIT部門の役割も大きく変化してきたことを改めて痛感する。変わらないのは、システムの安定稼働を第一に「当たり前のことを当たり前に」行うこと。変わった(より一層重要になった)のは、世の中の動きにアンテナを張り、経営トップとの対話を繰り返し、業務部門と協働してICTでビジネスを変えることである。前者で社内外の信頼を得ながら、後者でお客様にこだわっていくのがミッションだ。新たな挑戦が始まっている。
全日本空輸
業務プロセス改革室 イノベーション推進部長
兼 デジタル・デザイン・ラボ 担当部長
荒牧 秀知
※CIO賢人倶楽部が2016年9月1日に掲載した内容を転載しています。
CIO賢人倶楽部について
大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOを初めとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。
経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。一部上場企業を中心とした300社以上の顧客を擁する同社は、グローバル経営管理、コストマネジメント、成長戦略、業務改革、ITマネジメントなど600件以上のプロジェクト実績を有している。
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