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[インタビュー]

「CIOこそがデジタル化のリーダーに」─シンギュラリティ大学の未来学者ポール・サフォー氏

2016年12月22日(木)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)

AI(人工知能)が急速に進展もあり、テクノロジーが人の知恵を越えるとする「シンギュラリティ(技術的特異点)」の現実味が高まっている。デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)あるいはデジタルディスラプション(創造的破壊:Digital Disruption)への対応は喫緊の課題だ。CIOやIT部長といった、これまでのITリーダーは、デジタル化にどう望むべきか。米シリコンバレーに拠点を置き、スタンフォード大学やシンギュラリティ大学の教壇にも立つポール・サフォー(Paul Saffo)氏に聞いた。

CIOはITの戦略性を十分に説明してこなかった

 しかし、米Googleや米Facebookの急成長などデジタルカンパニーの成功例と共に、AIやMachine Learningが注目され、多くの人がITについて考え始めているのは事実。各社のCxO(経営層)は高い感心を示している。CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)にとっては、CxOにITに改めて注目させせるための良いツールになる。「AIが人の仕事を奪う」というメッセージが与える“恐怖心”も、関心を高めるという意味では役に立つだろう。

 これまで多くのCxOは、ITに戦略性があることに気づいていなかったか、知ってはいても十分には理解していなかった。CIOがきっちりと対話し説明してこなかったこともある。今のITは、1990年代に財務の戦略性が高まりCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)が果たすべき役割の重要性が高まった状況に似ている。ITが「なぜ戦略的なのか」について、CxOの腑に落ちるまで明確なビジョンとともにアピールする必要がある。AIやシンギュラリティの啓蒙活動は極めて重要だ。ただ、「IT」という言葉そのものには1980年代の響きがあり、もう古すぎるかもしれない。

──シンギュラリティ以前に資本主義経済の終わりが指摘されたり、それを象徴するような政治/経済の動きが起こったりしている。

 資本主義の終焉を訴えることが一種のブームのようになっているが、今起こっているのは終焉ではなく変革だ。これまでとは異なる資本主義が生まれようとしている。もともと資本主義といっても地域による特色がある。例えば、米国は企業的資本主義であり、個人が中心でイノベーションを重視する。欧州は文化的資本主義で、継続性や安定を重視する。それに対しアジアは、家族などを重視するコミュニティ的資本主義だ。

 資本主義に基づく経済は「不足」をもって構成されている。90年代は“豊かな生活”の実現に向けて“物質的な不足”を補ってきた。初の量産車として1908年に登場した米FordのモデルT(T型フォード)のボディーカラーは黒しかなかった。それは、黒が最も速く乾く塗料だったからで、大量生産のための選択である。第2次大戦後の、ものづくりは民間が牽引することで、製造工程の効率化が進む。結果、買い求められるより多くの製品を作れるようになった。つまり物質的な不足は克服してしまった。

モノに代わる不足は「欲望」から「つながり」へ

 そして2007年11月、リーマンショックによって消費経済は一夜にして終わってしまう。結果、物質的な不足に変わって生みだされたのが“欲望の不足”である。マーケティングによって、不要なものまで「ほしい」と思うような消費意欲を起こさせる時代になった。そして今は欲望の時代も終わり、新たな不足の時代に突入している。それは「エンゲージメント=つながり」だ。すなわち他者との関与をいかに深められるかという“不足”である。

 一例を挙げれば、2007年に登場した、あるビデオゲームは24時間で3億5000万ドルを稼いだ。これに対し、2012年に上映された映画の「アバター」の興行収入は1週間で7300万ドルだった。ビデオゲームが「参加する」対象であるのに対し、映画は「見る」だけだ。対象との“つながり”の差がビジネスの差に現れている。

 この状況は実は、テレビが登場した1952年頃に似ている。当時、TVは奇妙な装置であり、「どうやって収入につなげるか」が議論されていた。そこから広告やマーケティングが発展した。今日の目的は、モノやブランドへの執着ではなく、どうやって参加させるかにある。盛んに取り上げられるデジタルとは、客の関与を深め、参加させることの取り組みにほかならない。

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