AI(人工知能)が急速に進展もあり、テクノロジーが人の知恵を越えるとする「シンギュラリティ(技術的特異点)」の現実味が高まっている。デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)あるいはデジタルディスラプション(創造的破壊:Digital Disruption)への対応は喫緊の課題だ。CIOやIT部長といった、これまでのITリーダーは、デジタル化にどう望むべきか。米シリコンバレーに拠点を置き、スタンフォード大学やシンギュラリティ大学の教壇にも立つポール・サフォー(Paul Saffo)氏に聞いた。
ポール・サフォー(Paul Saffo)氏は、未来学者として、未来に起こり得ることを予測し、大規模で長期的な変化を、どのように考え、どう適応していくべきかについて研究し、企業や政府機関といったクライアントに30年近く、助言してきた。米スタンフォード大学のほか、シンギュラリティ(技術的特異点)について経営者層などを相手に講義・議論するシンギュラリティ大学でも教鞭を執っている。
日本でも2016年10月に開かれた「リーガルテック展2016」(主催は、法務関連のデータ活用ツールなどを提供するAOSリーガルテックと、分野の関連データベースサービスを提供するレクシスネクシス・ジャパン)のクロージングセッションに登壇。『Turbulent Exponentials:opportunities and risks on the path to the next economy(荒れ狂う指数級数:次世代エコノミーに向けた機会とリスク)』と題して講演している。
同講演での骨子は以下である。
「ムーアの法則、すなわち“エクスポネンシャル(指数級数)”的な増加が推進力の中核だ。110年の歴史を持つコンピューティングの変化は、このエクスポネンシャルに沿ってきた。だが、エクスポネンシャルな変化は、コンピューティングにだけ特別に起こっているわけではない。生物をはじめ、我々の周りにはエクスポネンシャルな規則に沿って成長する仕組みが多数存在している。
エクスポネンシャルな変化において、最も重要なことはタイミングだ。サーフィン(波乗り)をイメージしてほしい。波の動きに合わせてパドリング(水かき)を始め、勢いをつけてから立ち上がる。だが、パドリングを始めるタイミングが早すぎても遅すぎてもいけない。波に飲み込まれたり取り残されたりしてしまう。乗りこなすにはタイミングがすべてだ。
AIは敵ではなく共存共栄の関係にある
シンギュラリティによってAI(Artificial Intelligence)が我々の仕事を奪うと強調されている。だが考えるべきは、「AI v.s. 人」ではなく「AI v.s. IA(Intelligence Argumentation)」なのだ。AIが「機械が人間をリプレースする」と考えるのに対し、IAでは「機械が人間の能力を高める」とする。「人+機械」が「人だけ」「機械だけ」より常に優れている。AIを恐れるのではなく、IAの考え方で、さらなる革新に臨むべきである。正しい答えは、正しい質問があることが前提だ。誤った質問/仮定に対し、いくら考えても正しい答えは出せない」
いかがだろうか。サフォー氏は、AIは指数関数的に成長するものの、それは人間の能力を高める仕組みとして存在すると予測しているわけだ。では、このデジタルトランスフォーメーション/ディスラプションに対し、企業のCIO/IT部長はどう取り組むべきなのだろうか。サフォー氏からは力強いメッセージが返ってきた。
──AIやシンギュラリティに対し、広く一般に関心が高まっている。
AIは、実際のソフトウェアの進歩より話題が先行し過ぎている。それは、シンギュラリティについても同様だ。ただ、明らかに不確実性は高まっている。近代コンピューティングの三要素である、データ、処理(プロセサ)、アルゴリズムのバランスが崩れてきているからだ。データが、センサーやネットワークにより爆発的に増加しているのが最大要因になっている。