デジタル化が進むビジネス環境の変化に対応するための要件の1つに挙がるのが「アジリティ(俊敏性)」である。アジャイル開発といった開発現場のアジリティだけでなく、企業全体のアジリティが求められる。しかし、組織の改革はそう簡単ではない。組織がアジャイルになるためには、どうすれば良いのか。米CA Technologiesでアジャイル・マネジメント担当ジェネラル・マネージャを務めるAngela Tucci(アンジェラ・トゥッチ)氏が5つのポイントを解説する。同氏は、CAがアジャイル関連事業を強化するために買収したRally SoftwareのCEOだった。なお本稿は同氏の寄稿を元にインタビュー形式に再構成した。
−−「アジャイル」自体は決して新しい考え方ではない。企業のアジャイル化はどれだけ進んでいると見ているか。
「アジリティ(俊敏性)」という言葉は、硬直化した組織を解きほぐし、多くの企業が抱える病を癒す万能薬のように使われています。しかし「硬直化した」組織の多くは、20世紀に主流だったトップダウン型の指揮統制をそのままにしているため、創造性や新しい可能性に対する制限や面倒なプロセスが残ったままになっています。変化の激しい21世紀に成功するために必要な組織体制を考えることなく、ただ「アジャイルになる」「アジリティを取り入れる」と言えば解決すると考えている企業すらあります。
今のアジリティは、かつての「シナジー(相乗効果)」という言葉と同様に流行語になっているだけです。現実を直視しなければなりません。私たちは「アジャイルを利用する」ことよりも、そのための企業の組織体制に興味があります。ミスの削減や改善、時短、無駄の排除といったリーン思考が組織に根付いているかどうかです。そうした「組織の新陳代謝」ができていれば、製品開発から市場への迅速な導入をするためのベストな方法を考え、それを実行できるでしょう。
−−組織の新陳代謝とは、どういうことか。
自然界における新陳代謝は、生き物が食料などをエネルギーに変え、老廃物を排泄するという科学的なプロセスを意味しています。これをビジネスの世界に当てはめれば、お役所仕事的な無駄なコストを最小限に抑えながら、金・人・時間といった資産を顧客価値に変換するシステムだと言えるでしょう。
21世紀の今、競合相手よりも猛烈に働くという従来のやり方では、目的は達成できません。顧客は、特にデジタル化によって実現されるニーズや物事が継続的に更新され、イノベーションが起こることを期待しています。その新しい顧客の要望に対応し、さらに他社に一歩先んじるためには、組織は新陳代謝を続けられなければなりません。そのためには、人材や、プロセスの確立、ツールの開発が求められます。新しい働き方を採用しなければ、企業は市場で商機を逸し、競合他社に出し抜かれます。その結果、顧客は別のソリューションへ乗り換えを始めるのです。
−−組織の新陳代謝を図るには、どう取り組めば良いのか。
アジャイルという前に、新たな働き方を採用する準備が既に整っているのであれば、以下の5つのステップを考慮すれば、企業のアジャイル・トランスフォーメーション(変革)を促進できるはずです。
ステップ1: 明確かつ野心的なビジョンを持つ
明確な成果目標を定めることは、会社として、そして会社のアジャイル変革において極めて重要です。アジャイルの考え方自体が変化を好意的に受け止めることを意味するだけに、場合によっては、仕事や戦術が変わることがあります。しかし、明確に定めた最終的なビジョンは決して変わらないことが肝要です。社員が、全社的な目的と追求する成果について明確なイメージを持つことで、自分が達成すべき成果とは何で、実際にどう行動すればば良いかが分かります。明確なビジョンは、市場の変化や社内業務の変化に対応して具体化すべき慣行の指針です。
ステップ2:企業文化を考える
最高の人材を雇用し、その流出を防ぐためには、彼らが目標を持ち、それを達成できる環境を構築しておかねばなりません。従業員が価値をもたらすよう、モチベーションを持ってベストな方法で行動できる環境です。そのためにリーダーは、現場で働く従業員に権限を与える必要があります。組織が変化の兆しを感知し、それに適応しやすくなるからです。
トップダウンによる統制型の組織は時代遅れになる一方です。最前線の人材に権限を与える、生産的なフィードバックループを構築できる組織が成功するのです。さらに言えば、リーダーは模範を示し、従業員を牽引する必要があります。多くのリーダーは、自身のやり方を変えずに、従業員にアジャイルを実践させようとしていますが、それでは成功しません。