エンタープライズへ拡がるソーシャルコーディングの潮流:GitHubエグゼクティブからのメッセージ
2017年10月19日(木)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)
8月終わりから12月初旬にかけてのこの時期、米国ではIT系企業の大きなカンファレンスがそれこそ毎日のように開催される。筆者も今秋は数多くのカンファレンスに参加したが、その中でも10月11-12日(米国時間)の2日間にわたって、米サンフランシスコで開催された「GitHub Universe 2017」は、これまで参加したどのテック系イベントとも違う雰囲気に包まれており、決して大規模ではないものの、“ソーシャルコーディング”というシリコンバレー由来のハッカー文化が確実にビジネスの世界へも浸透し始めていることを感じさせるカンファレンスだった。
本稿ではUniverse 2017でインタビューした同社の二人のエグゼクティブの話をもとに、設立してまだ10年の若い企業がエンタープライズ、とくに日本企業に向けてどんな戦略でもって臨もうとしているのかを紹介する。
“テクニカルとノンテクニカルの融合”に邁進
おそらく多くの人々がGitHubに対して抱いているイメージは「オープンソース開発者のためのサービスとコミュニティ」がメインだろう。実際、開発者以外の人間、特に一般のビジネスユーザーがGitHubのサービスを利用することはほとんどない。開発者であったとしても、オープンソース開発に関わっていなければ、GitHubアカウントすらもっていない人も少なくないだろう。
だが現在、GitHubは「ノンテクニカルな人間とは無縁の会社」という存在から大きく変わろうとしている。「GitHubにとって最も重要なのはコミュニティであって技術じゃない。我々が今いちばん注力しているのはノンテクニカルな人々をどうやってコミュニティに取り込んでいくかということだ」──。こう語るのはGitHubのChief Strategy Officerであり、社内弁護士として同社の法務を統括するフリオ・アバロス(Julio Avalos)氏だ。今年でちょうど設立10周年を迎えたGitHubだが、ソーシャルコーディングという同社が10年かけて開発者に普及させた概念を、今度は「ソーシャルコーディングによるテクニカルとノンテクニカルの融合」(アバロス氏)まで拡大したいとしている。
「GitHubは開発者に対してボーダーのない、オープンなコラボレーションとコミュニケーションの場を提供してきた。我々のアプローチが受け入れられたのは、コミュニティを“排除の論理”で運営しないことを第一にしてきたから。ソフトウェアが世界を変えるなら、開発者に限らず、ソフトウェアに誰もが関われる環境を用意することが我々のミッションだ」(アバロス氏)。
ノンテクニカルな人々とGitHubを結びつけるには大きく2つのアプローチがある。一つはドキュメントなどのノンテクニカルなコンテンツの共有/バージョン管理のユースケースを増やすこと、もう一つはエンタープライズやノンテクニカル向けのサービスを拡充することだ。今回のUniverseにおいてはGitHubは後者の方によりフォーカスしており、新たに発表されたサービスアップデートを見ても、Dependency Graphやセキュリティアラートなど開発者向けの機能と並んで、ニュースフィードやコミュニティフォーラム、参加しやすいプロジェクトを発見するExploreなど、ビジネスユーザーやコーディング初心者がトライしやすい環境を数多く提供している。ノンテクニカルへの窓口を大きく拡げた印象だ。
GitHubが“テクニカルとノンテクニカルの融合”にこだわるのは理由がある。2014年、GitHubの元女性従業員が「社内にセクシャルハラスメントが日常的にあった」と告発した事件を覚えている人も多いだろう。女性は結局退社したが、この事件に関与したとされるGitHub共同創業者の一人もまた辞任に追い込まれている。シリコンバレーで常態化している男尊女卑の文化を象徴する事件とも言われたが、当時、GitHubの社内弁護士として騒動の処理に追われたアバロス氏は、「あの事件を経たからこそGitHubは世界中のどの企業よりもダイバーシティ(多様性)とオープンネスを大切にする会社へと成長した」と振り返る。
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