巨大SIerとオープンソース―富士通がクラウド基盤をRed Hatで刷新した理由
2018年8月30日(木)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)
富士通とNTTデータ――両社とも言わずと知れた、日本を代表するシステムインテグレーター(SIer)である。この2社を含む国内の大手SIerは、良くも悪くも日本のIT業界に多くの特殊性とレガシーをもたらしてきた。だが現在、グローバルを席巻するデジタルトランスフォーメーションの大波は、日本企業にも例外なく押し寄せており、多くの顧客を支えてきたSIerもまた、大きなターニングポイントを迎えている。本稿では岐路に立つ巨大SIerの新たなビジネス戦略について、オープンソース活用の側面から俯瞰してみたい。前編では富士通のアプローチを紹介する。
インドネシア・バリ島で2018年7月10日から12日(インドネシア時間)の3日間、米レッドハット(Red Hat)のアジア太平洋地区(APAC)パートナー企業を対象にしたコンファレンス「2018 Red Hat Partner Conference APAC」が開催された。
このコンファレンスに、日本から富士通とNTTデータが参加。それぞれオープンソース関連でレッドハットとの大規模な協業を発表し、会期を通じて両社が最も大きな注目を集める存在となった。本稿では、オープンソースを主軸に自社のクラウドポートフォリオを刷新した富士通の取り組みを紹介する。
富士通とオープンソースの関わり
現在、世界中の企業で呪文のように唱えられているデジタルトランスフォーメーション(DX)だが、その基盤にオープンソースが使われているケースは枚挙にいとまがない。レッドハットの顧客でも、アマデウス(Amadeus、関連記事:アマデウス――ハイブリッド+コンテナで1TB/日の膨大な処理を可能に)やドイツ銀行(Deutsche Bank)、キャセイパシフィック航空(Cathay Pacific Airways)など名だたる企業がオープンソースによる成功事例を公開している。こうした流れをとらえて富士通が日本の顧客に対してオープンソース導入を進めようとするのは不思議ではない。
もっとも、"オープンソース企業"というイメージはそれほど強くないが、実のところ富士通はオープンソースとの関わりが非常に深い。特にLinuxカーネルやKVM、PostgreSQLといったミドルウェアから下のレイヤのプロジェクトには、同社の開発者が数多く参加していることはよく知られている。日本ではまだオープンソースを積極的に導入する企業の数は決して多くないが、富士通は2005年からOSS技術センター(OSSC)というオープンソースの専門組織を設置しており、サポートや検証環境の提供、コミュニティとの連携といった活動を通して、国内におけるオープンソースの普及に努めてきた。
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したがって、富士通と"世界No.1のオープンソース企業"の座を守り続けるレッドハットとの関係は当然ながら強い。両社には、2003年からRed Hat Enterprise Linux(RHEL)や「Red Hat JBoss Middleware」などの国内OEMパートナーとして協業を積み重ねてきた歴史がある(写真1)。
「これまでの富士通とレッドハットの関係性を端的に表現するなら、"サプライヤーとプロバイダー"だった」と話すのは、今回のコンファレンスに参加した、富士通 プラットフォームソフトウェア事業本部 Linux開発統括部 統括部長の金重憲治氏だ(写真2)。
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