マルチクラウド時代の魅力あるアプリケーション企業へ─F5によるNGINX買収の背景
2019年3月13日(水)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)
米F5ネットワークス(F5 Networks)は2019年3月11日(米国時間)、Webアプリケーションサーバー市場で第3位のシェアを持つNGINX(エンジンエックス)を6億7000万米ドル(約750億円)で買収することを発表した。両社はすでに買収の合意に至っており、F5がNGINXの全株式をキャッシュで購入、2019年第2四半期での買収完了を目指している。意外に見える組み合わせには、どんな背景、狙いがあるのだろうか。
両社のリリース(米F5ネットワークス、NGINX)によれば、「(買収完了後も)F5は、NGINXブランドと同社のオープンソーステクノロジーをキープすることにコミットする」と明言されている。今後、F5にとっての競合製品となる「NGINX Plus」を含む同社のポートフォリオをいかに統合していくかが注目される。
買収金額の大きさもさることながら、ロードバランサーをはじめとするネットワーク製品ベンダーのF5と、成長中のスタートアップOSSベンダーのNGINXという組み合わせに意外性を感じた向きも少なくないかもしれない。両社は今回の買収により、エンタープライズIT市場においてどんな優位性を得ようとしているのだろうか。
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エンタープライズ事業の拡大を目指すNGINX
まずは、NGINX側の背景を読み解いてみたい。オープンソースのWebアプリケーションサーバーソフトウェアの「nginx」は、現在、世界の上位サイトの67%にあたる約3億7400万サイトで利用されており、WebアプリケーションサーバーとしてはApache、Microsoft IISに次ぐシェアを誇る。
NGINXは2012年から商用ビジネスを展開、2013年に主力製品となる商用版「NGINX Plus」をリリースし、AWSなどパブリッククラウドの急速な普及に伴ってWebアプリケーション市場で大きな成長を果たしてきた。ここ数年はグローバルでのビジネス拡大にも意欲的に取り組んでおり、つい1カ月前の2月7日には、CEOのガス・ロバートソン(Gus Robertson)氏が来日、日本法人の開設を発表している(関連記事:軽量Webサーバー「Nginx」が日本にオフィスを開設、採用率でApacheをとらえる)している。
つまり今回の買収は、NGINXにとっては、いちオープンソース企業からエンタープライズビジネスを展開するグローバル企業への転換を図るタイミングでの発表となったわけだ。逆に言えば、グローバルでのリーチ、特にエンタープライズ市場へのシェアを拡大していくにあたって、急成長とは言え、商用製品提供の歴史の浅いNGINXが1社単独で挑むのは限界が見えていたことをうかがわせる。
NGINXのロバートソンCEOは今回の買収について、同社公式ブログで次のように述べて、今回の選択が妥当であったことを強調している。
「(NGINXのようなスタートアップにとって)買収を選ばないとしたら、もう1つの選択肢はIPO(株式上場)となる。私はF5がオープンソースプロジェクトとコミュニティを含む我々のテクノロジーにとってすばらしいホーム、さらにNGINXを成功に導くファミリーとなることを強く信じている」
ある程度の規模に成長したスタートアップにとって、エグジットをIPOに定めるか、それともより大きな企業による買収を目指すかは重要な決断だが、グローバルでのリーチを高めようとする企業の場合、買収をゴールにすることは少なくない。
●Next:F5はなぜNGINXを買収するのか
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