ぐるなびのOpenShift移行事例に見る「リフト&シフト」のポテンシャル
2018年6月27日(水)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)
「リフト&シフト(Lift and Shift)」――業務アプリケーションやシステムのクラウド化の議論における、ここ最近のキーワードだ。一般に、歴史の古い大企業のクラウド採用手法のイメージがあるが、ドットコム世代以降のトップIT企業の中にもリフト&シフトのアプローチに本格的に取り組んでいるところがある。ここでは、ぐるなびのシステム/インフラ刷新プロジェクトを例に、リフト&シフトのポテンシャルについて考えてみたい。
オンプレミスからクラウドへの移行が話題になるとき、ここ最近、必ずといっていいほど登場するキーワードが「リフト&シフト(Lift and Shift)」だ。文字どおり、まずは既存のオンプレミス上で動くアプリケーションやデータをそのままクラウドに載せ(Lift)、その後、徐々にインフラ全体をクラウドに適した環境に作り変えていく(Shift)という手法で、ゼロからクラウドネイティブな環境を構築するよりも、効率やコストの面から現実的な選択肢として評価されることが多い。
「とりあえずオンプレミスで動いているモノを、同じようにクラウドでも動かす」ことが最初の目標なので、サーバーレスアーキテクチャなど最新のテクノロジーを活用するには向かないが、クラウドへの最初のステップとして検討する企業は増えている。
レガシー保有は伝統的な大企業のみにあらず
リフト&シフトはレガシーなIT資産を数多く抱えている企業により適していると言われる。“レガシー”と聞くと、歴史の長い金融や製造業、あるいは流通/小売といった業界を想像しがちだが、実は1990年台後半から2000年台前半にかけて設立されたWebサービス企業もまた、クラシックなエンタープライズ企業と同様に多くのオンプレミス資産を保有しているところが多い。
例えば、先日の「AWS Summit Tokyo 2018」に登壇したDeNAやヤフージャパンなどはその典型だ(参照記事:DeNA「タクベル」が挑む次世代オートモーティブ事業)。
彼らは会社設立時、つまりクラウドがまだ一般化する前からハードウェアを含むITリソースに莫大な投資を続けてきた。その結果、「オンプレミスで何でも作る、何でも動かす」という文化が自然と醸成され、豊富なリソースと優秀なエンジニアを抱えた最先端のIT企業でありながら、クラウドへの対応がそれほど進まなかったという事情がある。
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