エッジからのリアルタイムデータを価値あるサービスに変えるIoT基盤をAWSで―DeNA「タクベル」が挑む次世代オートモーティブ事業
2018年6月12日(火)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)
2018年5月30日~6月1日の3日間にわたって東京・品川で開催された「AWS Summit Tokyo 2018」。年々規模が大きくなる本コンファレンスだが、今年は約2万5000名の参加者を記録し、国内でも変わらないAWSの強さをあらためて見せつけられた感がある。AWS Summit Tokyoの参加者の目的のひとつは、期間中に行われるAWSユーザー企業による事例紹介のセッションだ。数多くの国内有名企業によるAWS導入事例を直接聞けるチャンスだけに、どのセッションもほぼ満席となる。今回は筆者が参加することができたセッションの中から、国内でも最先端を行くデジタルカンパニーでありながら、これまでオンプレミス指向が強かったDeNAのオートモーティブ事業におけるAWS活用事例を紹介する。
数多くの事業を展開するDeNAだが、現在、同社が力を入れている事業ポートフォリオとしてオートモーティブ事業がある。カーシェアリングサービスの「Anyca」、自動運転バスサービス「Robot Shuttle」、日産と共同開発する自動運転サービス「Easy Ride」などが含まれるが、今回、AWS Summit Tokyo 2018のセッションでDeNA 執行役員 システム本部長 小林篤氏が取り上げたのは同社が開発した次世代タクシー配車アプリ「タクベル」だ。
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既存のタクシー配車アプリの不満を解消
2018年4月から神奈川県横浜および川崎エリアで正式にサービスを開始し、現在は約2500台のタクシー車両に導入済みだという。「タクベルは特定のタクシー事業者に依存しないスマホアプリ。タクシー業界とおなじ船に乗り、Uberなど海外勢に負けない価値を、乗車する人々に届けていきたい」(小林氏)
タクベル以外にもいくつかのタクシー配車アプリがあるが、そのどれもが多くの課題を抱えており、たとえば「ネット決済が使えない」「車両が到着するまでに時間がかかる」「配車不成立が頻繁に発生する」といったユーザからの不満の声を聞くことは少なくない。こうした不満は"需要の取りこぼし"に直結し、市場の拡大を妨げる要因になるが、小林氏は「逆に需要の取りこぼしを防止できれば、現在より約30%増の潜在需要を獲得できる」と指摘する。そのためにはタクシー運転手の待遇や採用環境の改善とともに「タクシー運転手ひとりあたりの生産性の向上」(小林氏)が欠かせないのは明らかだ。
ではタクベルでは生産性向上のためにどんな取り組みをしているのだろうか。小林氏はタクベルの技術的特徴として以下の4点を挙げている。
・プローブデータのリアルタイム収集処理基盤
・道路セグメントレベルの需要予測
・高精度なタクシー交通シミュレータ
・マルチエージェント強化学習の経路推薦の応用
車両からリアルタイムに収集するプローブデータと、天気や公共交通機関の運行情報など外部のデータを分析した道路単位の乗車需要予測、これらをもとにAIで車両供給と乗車需要を解釈し、最適なルートを探索/選択、個別車両ごとにリアルタイムに乗務員アプリに配信する。ポイントは「乗車需要予測とセットで車両供給予測を行うこと」(小林氏)で、需要と供給のバランスを適切に取ることで、同一エリア内における生産性のばらつきの解消を図っている。
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