デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉に象徴される、長くて険しいジャーニー(旅路)。その行程において、いち早くDXに取り組むグローバル企業の間で「変革疲れ」と呼ばれる症状が起きている。その結果、デジタル変革が本格展開にいたる前に頓挫している──。こう指摘する米ガートナーのアナリストに事情を聞いた。
2018年11月中旬に東京で開催された「Gartner Symposium/ITxpo 2018」。ガートナージャパンが主催するこのイベントでは、毎回ビジネス/IT戦略やデジタル変革、ITトレンド、IT組織戦略などエンタープライズITに関する広範なテーマが議論される。その中で今年は一風変わったテーマのセッションがあった。「"変革疲れ"への対処法」がそれだ。
講演概要には「近年、企業はいずれも何らかのデジタル変革に取り組んでいる。しかし、その多くが、本格展開に至る前に頓挫している。背景には『変革疲れ』があり、これが生じた際には、ビジネス上の戦略的な対応が必要となる」と書かれている。日本では「変革疲れ」という話は寡聞にして聞かないが、海外は違うのか。そもそも「変革疲れ」とは何を意味するのだろうか──。
講演者である米ガートナー ディステングイッシュト バイス プレジデント兼アナリスト、マリー・マザーリオ(Mary Mesaglio)氏に聞いた(写真1)。併せて、関連記事「Digital Transformationの意味を曖昧にとらえてはいけない、その理由」もお読みいただければ幸いである。
足下が揺らぐような変化の中で「疲れ」が発生
――マリーさんは、「"変革疲れ"への対処法」と題する講演をしました。しかし日本では聞かない言葉です。"変革疲れ"とは何を意味するのでしょう?
日本は状況が少し違うと見ていますので、まずグローバルに関してお話しましょう。多くの大企業や公的機関では、デジタルトランスフォーメーション(DX)、そのためのジャーニーがすでに3年から4年ほど継続しています。それによって経営層以下、現場レベルの人材まで、非常に大きな変化を体感しています。まるで足下が揺らぐような、そんな変化です。
アジリティ(俊敏性)、オープン性、創造性、顧客中心が求められる要素です(図1)。理解はできるにせよ、どれも大手企業にとっては困難であることはお分かりいただけますよね。企業は確実性、正確性を重視してきましたし、オープンかというと自社中心で必要なこと以外は公開しません。創造性を重視していないとは言いませんが、合理的であることが大事なのも間違いないでしょう。
その結果、DXが大きな価値をもたらすという信念を持っている人さえも、最近では「疲れ(Fatigue)」を吐露するようになりました。これから先、いつまで変革のジャーニーを続けるのか分からない、どれほどの変化が必要なのかも分からない、何を残せばいいのか、つまりゴールも見えない、といったことを「疲れ」と表現しています。大きな変革が進み、それが長く続くと疲れてしまうのは自然なことです。
――欧米など海外の企業や公的機関では「疲れ」を感じるほどの変革を実践し続けているのですね。では日本の状況についても教えて下さい。
あらゆる企業がそうだというわけではありませんが、厳しい競争に直面している企業には当てはまります。一方、日本は他の国や地域とは異なると感じています。本格的にリサーチしたわけではなく、2週間ほど滞在する中で多くのCIOやIT責任者の方々とお話しました。そこでは「どのようにDXに着手すればいいか」とよく聞かれました。
明らかなのは着手しているとしても、まだ変革の初期段階にあることです。「どのようにDXに着手すればいいか」という質問は他の国では聞かれないことで、私にとっては少し驚きでした。日本はイノベーションを推進していく国だと思っていますので、少し心配しているほどです。
まだDXの初期段階にいる日本、疲れがないのが心配
――日本と海外の違いは何に起因すると見ていますか。
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