[市場動向]

Digital Transformationの意味を曖昧にとらえてはいけない、その理由

2018年11月22日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

少なからぬ方に「今さら何をわかりきったことを書いているのか。リンクを開いて時間の無駄だった」と思われるかもしれない──。そんなリスクを承知で今、あえて「デジタルトランスフォーメーション」という言葉の意味を再考してみたい。さまざまなセミナーや勉強会、ドキュメントで盛んに取り上げられるこの言葉を聞くたびに違和感を覚えるからだ。

Digital Transformationの定義

 デジタルトランスフォーメーション(DX)について、読者の皆さんはどのような意味でとらえているのだろうか。筆者は「なんとなくわかるといった曖昧な理解のままではかなり危険だ」と考えるようになった。それがどういうことかを示すために、DXの定義・説明をいくつか引用してみる。

 まずあたるべきは原義だろう。ウィキペディア日本語版のDXの項では次のように紹介されている。

“デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation;DX)とは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされる。ビジネス用語としては定義・解釈が多義的ではあるものの、おおむね「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」という意味合いで用いられる。”
(出典:ウィキペディア「デジタルトランスフォーメーション」 ※アンダーラインは筆者)

 前半の概念に関する記述には行為主体が明記されておらず、デジタル革命、第4次産業革命といった言葉に近い。後半は「企業」という主体が明確であり、相対的に分かりやすいが、根底から変化させる対象を「事業の業績や対象範囲」と広く採っているので曖昧さが残る。単純に理解すれば、「企業が(デジタル)テクノロジーを利用して、さまざまなことを変化させる」≒「製品やサービス、業務プロセスなどにテクノロジーを活用すること」となると考えられるだろう。

 2018年9月に経済産業省が発表し、IT関係者の間で話題になったDXレポートはどうか。同レポートを作成した研究会自身の定義は示しておらず、IDC Japanが2017年12月に発表したプレスリリースの1文を引用している。

“DXに関しては多くの論文や報告書等でも解説されているが、中でも、IT専門調査会社のIDC Japan株式会社は、DXを次のように定義している。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”

(出典:経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」/IDC Japan「Japan IT Market 2018 Top 10 Predictions: デジタルネイティブ企業への 変革- DXエコノミーにおいてイノベーションを飛躍的に拡大せよ」〈2017年12月14日プレスリリース〉※アンダーラインは原文どおり)

 少し長いので要約すると「クラウドやモバイルなどの技術を利用した新しい製品やサービスにより、顧客体験の変革を図り、価値創出や競争優位を確立する」になる。具体的には「IoTやAI、VR/AR/MR、3Dプリンター、マイクロサービスといった最新の多様なテクノロジーを、新製品やサービスの開発に生かそう」といったニュアンスになり、Wikipediaに比べると分かりやすい。多少、ニュアンスは変わるが、「デジタルトランスフォーメーション」=「デジタル変革」=「デジタル技術を活用したビジネスや業務の変革」といったとらえ方である。

DXを展開・実行する主体は?

 しかし筆者は上記のとらえ方に違和感があり、DXという言葉の本質を見失わせる問題を孕んでさえいると考える。例えば、経産省のDXレポートには、「DXを本格的に展開していく」「DXを実行する」といった言葉が多く登場する。こうした言い回しは同レポートにかぎらないが、ともかくDXは展開するものであり、実行する必要のある何かだという意味だ。

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