[海外動向]

“組織的負債”を解消する手段「DigitalOps」とは何か?

「DXをうまく推進できない」企業に対してガートナーが提唱

2021年5月10日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

“技術的負債(Technical Debt)”という言葉は今日、広く知られるようになった。では、“組織的負債(Organizational Debt)”はどうか。こちらはまだ認知されていないが、あちこちに無駄・無理・ムラがある業務や組織、行き当たりばったりの意思決定などによる悪影響を意味する言葉である。それを解消する手段として米ガートナーは「DigitalOps」を提唱する。それは、いったいどういうものなのか。独Celonisのプライベートコンファレンス「Celosphere 2021」におけるガートナーの講演から解き明かす。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)にどう取り組むべきか。その第一歩をどう踏み出すか──。その答えがIoTやAIへの取り組みや活用、あるいは新規事業創出のためのハッカソンやPoC(概念実証)などではないことは、論を要しないだろう。IoTやAIはすでに利用できる実用技術であり、したがって日々の業務の中で当然、取り組むべきことだ。新規事業も同じで、デジタル云々とは関係なく、企業なら常に新規事業を探らなければおかしい。では何からDXを始めるとよいのか?

 そのように考える企業なら、既存の業務(プロセス)の見直しを最初の焦点にするとよいだろう。デジタル化以前に出来上がった業務は、効率性の面でも顧客体験(Customer Experience)の面でも変革の余地が大きい。意識するかしないかにかかわらず、特に日々の定型業務には無理・ムラ・無駄が潜在し、しかも始まりから終わりまでのエンドツーエンド(End to End)で見たとき、RPAのような方法で効率化できるのはほんの一部でしかない。

 さまざまなデジタル技術を駆使すれば業務の見直しにとどまらず、フルモデルチェンジできる可能性も広がる。例えば、人・店舗やカタログによる販売業務をWebやスマートフォン、キオスク端末で補完・置き換えることや、物流現場のロボット化や自動化、IoTによる生産現場のモニタリングや生産管理などは、すでに普及もしくは現在進行形。乗用車や輸送機器・建設機械の自動運転も、場所を限定すればすでに実用段階にある。わかりやすいので現場業務を例示したが、それら以上に自動化できる余地が大きいのは、旧態依然のままのフロント/バックオフィス業務だろう。

 そこにデジタルのメスを入れればデータを取得でき、業務実態を可視化できる。Webやスマホで顧客の行動が手に取るようにわかるようなものであり、そうなれば顧客や取引先の体験、従業員体験(Employee Experience)を今までと違う次元に引き上げる可能性が生まれる──。手がけたことがない新規事業を考案したり新たなビジネスモデルにチャレンジしたりするのは当然であるにせよ、既存業務のあり方を温存、もしくは小さな改善にとどめたままで、そういった取り組みに終始するのは、もう止めにしなければならない。

DXジャーニーのステップを踏む

 というのもデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する欧米の文献を調べると大抵、データ駆動の意思決定やビジネスアジリティの獲得などと並んで、既存のビジネスプロセス変革を述べたものに突き当たるからだ。

 好例が、図1のDXジャーニーである。文字どおり、DXのステップ(道程)を示したもので、「既存業務(プロセス)の見直し・最適化」→「データ分析・データ経営の実践」→「顧客やユーザーとの関係強化」→「新たなビジネスモデルの創出」というステップを踏みながらDXという山を登っていく。勘のいい読者ならこの順番が大事であることが即座にわかるはずだ。

図1:DXジャーニーの道程(出典:TM Forum「How do you prepare for your digital transformation journey?」)
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 では、既存業務の見直しという登山の第一歩を、どう踏み出せばよいのだろうか? プロセスマイニングを活用した、詳細かつデータに基づく業務実態の可視化や分析が、唯一ではないにしても有力なアプローチであることは間違いない──そう思っていた時、示唆に富んだ講演を聴講する機会があった。プロセスマイニング最大手の独Celonisが2021年4月に開催したプライベートコンファレンス「Celosphere 2021」における基調講演の1つがそれだ。タイトルは「Digital Ops: Linking Dynamic Process Discovery and Execution」。講演者は米ガートナー(Gartner)のバイスプレジデント アナリスト、マーク・カレマンズ(Marc Kerremans)氏である。

 カレマンズ氏は2年前のCelosphereでも講演しており、その際には「Digital Twin of Organization(DTO:組織のデジタルツイン)」を解説している(関連記事プロセスマイニングを軸に”組織のデジタルツイン”を実現、さらには”超流動企業”へ)。このとき同氏はDXへの取り組みの70%はうまくいっていないという調査結果を示して「なぜ失敗するのかというよりも、どうすればうまくいくのか。役立つのがDTOである」と指摘した。今回の講演はその続編という位置づけにある。

 「Digital Ops」(注1)という言葉はガートナーの造語で、「オペレーション(業務遂行)のデジタライゼーション(デジタル化)」を意味する。詳細は米国のデータ統合ベンダー、Claravineの説明https://www.claravine.com/2020/07/28/what-is-digital-operations/などを参照いただきたいが、要約すると「業務プロセスに感知と応答(Sensing and Responding)のメカニズムを組み込み、組織に動的な学習と最適化(Dynamic Learning and Optimization)をもたらす取り組み」である。ガートナーは「Digital Opsは絶えず変化する世界で生き残るための機敏さを企業にもたらす」と説明する。

注1:マーク・カレマンズ氏の講演タイトルにある表記は「Digital Ops」だが、本稿では、DevOpsやAIOpsといった既存の用語表記にならって、スペースなしのDigitalOpsで統一する。なお、米ガートナーの文書でもDigitalOppと表記しているものがある

「組織的負債(Organizational Debt)」の解消が重要

 ここからカレマンズ氏の講演の模様を紹介しよう。Celosphere 2021での講演ということで、まずはプロセスマイニングの状況解説から入った。利用目的を「ビジネスプロセスの改善」「監査・コンプライアンス」「プロセス自動化」「DX」「IT運用(の自動化)」の5項目で調査したところ、明確な傾向が明らかになったという。図2がそれで、ビジネスプロセスの改善は今も最多だが減少傾向、一方でプロセスの自動化やDX、IT運用の自動化が増加傾向にある。同氏はこの結果を次のように説明した。

図2:プロセスマイニングの取り組みに関する年次推移(出典:米ガートナー)
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 「(欧米の)先進企業は、さまざまなビジネスプロセスをマイニングすることで、組織的負債(Organizational Debt)の解消を図ってきた。しかも、それで終わりではなく、さらに次に向かっていることがわかる。組織や企業をまたがったプロセスの自動化、人や文化など多くのチェンジを起こすDX、そしてITオペレーションの高度化だ」(カレマンズ氏)。日本では、KDDIやIHI、ミスミグループなど一部の先進企業がプロセスマイニングに取り組み始めた段階で、本格的な広がりはこれからである。しかし欧米企業は、プロセスマイニングの次の活用段階に入りつつあるというのだ。

 ここで着目すべきは、組織的負債(Organizational Debt)の解消だ。きちんと設計・製造されていない雑な作りのソフトウェアや、改修に膨大なコストを要するレガシーシステムを示す「技術的負債(Technical Debt)」という言葉は日本でも知られている。その解消は、経済産業省がDXレポートで指摘したように急務だ。しかし、それより根深くてやっかいなのが、顧客志向ではなく自社都合の組織編成や人員配置、何十年も前から変わらない古びたビジネスプロセス、あるいはデータ駆動からはほど遠いKKD(経験・勘・度胸)による意思決定など。これらがすなわち、組織的負債である。

 このような言葉がカレマンズ氏から出てくるのは、欧米も日本も事情はたいして変わらないことを意味する。違いがあるとすれば欧米は、負債を認識して解消しようと動き始めている点かもしれない。その有力な手段がプロセスマイニングであり、目指す先にあるのがDigitalOpsである。

 では、DigitalOpsとは単なる概念か。それとも具体的な何かがあるのか? カレマンズ氏は、「プロセスのモニタリング」「プロセスのモデリング(分析)」「プロセス/タスクの実行」の3要素を組み合わせたものが、DigitalOpsの基本構造であると説く(図3)。

図3:DigitalOpsの基本構造。それぞれ独立で実施するのではなく、組み合わせが肝心
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●Next:DigitalOpsによる組織的負債の解消方法を紐解く

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