[技術解説]
プロセスマイニングを軸に”組織のデジタルツイン”を実現、さらには”超流動企業”へ
2019年4月23日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)
「プロセスマイニングとは、大量のログデータからプロセスを可視化して分析を可能にする技術のことである」。この定義は正しいが、欧州の先進企業はすでに次の段階へ移行しつつある。「Digital Twin of Organization(DTO:組織のデジタルツイン)」や「Superfluid Enterprise(超流動企業)」といったコンセプトに基づき、デジタル時代の企業に求められる業務遂行能力の獲得をサポートするソリューション──そんなイメージでとらえている。今回はCelosphere 2019の議論から、この技術を取り巻く最新動向を報告する。
●Celosphere 2019レポート[事例編]はこちら(欧州で沸騰するプロセスマイニング─BMW、Siemens、Lufthansaなど欧州企業はここまで来ている!)
業務プロセス改革(刷新、洗練、進化、自動化)──。どんな企業にも必要だし、当然、遂行すべき取り組みなのだが、ことIT(情報技術)の視点で見ると”死屍累々の歴史”だった。少し振り返ってみよう。
業務プロセス改革はなぜうまくいかなかったのか
企業ITの文脈で、業務プロセス(ビジネスプロセス)という言葉が頻繁に登場するようになったのは、バブル崩壊後の1990年代初めのこと。キーワードはBPR(Business Process Re-engineering)だった。経営環境の厳しさが増す中で、ERPパッケージと共に登場し、社内の業務プロセスを抜本的に見直し、再構築すべきという論理である。
だが、ERPの導入こそ広がったものの、業務プロセスについては「現行踏襲」「As-Is」が優先され、BPRは掛け声倒れに終わった。原因は、ERPの成熟度の低さや日本企業の業務プロセスとERPのそれとの乖離など複数あるが、ともあれ複雑で合理的とは言えない業務プロセスが温存されることとなった。
1990年代後半以降には、PCの普及に伴ってワークフロー管理(Workflow Management)システムが喧伝された。特に交通費や出張旅費の精算、有休取得の申請といった非定型業務は専用システムを構築するほどではなかったため、WFMがフィットした。とはいえ社内の非定型業務向けが中心だったので、結局のところ導入メリットには限りがあった(ただし、ワークフロー管理=非定型業務向けというわけではない)。
一方、その頃から2000年代にかけて広がった概念/技術がBPM(Business Process Management)である。米General Electric(GE)のカイゼン手法である「シックスシグマ(Six Sigma)」や、トヨタ生産方式を体系化した「リーン生産方式(Lean Product System)」を取り入れ、販売や生産、会計など複数部門にまたがる本業のプロセスをシンプルかつ合理的にする、といったことがBPMのセールスポイントとして語られた。実行をモニタリング(監視)しながら、継続的な改良/高度化も可能にする概念・手法・ツールだった。
欧米では今も多くのBPMツールがあり、取り組みがある。米ガートナー(Gartner)が2019年1月に公開したベンダーポジションマップ「Magic Quadrant for Intelligent Business Process Management Suites」には、20を超えるベンダーがリストされている(図1)。
また、欧米のIT関連コンファレンスでは、「ビジネスアナリスト」のような肩書きを持った一般企業からの参加者を見かけることが多い(名札にそう書かれている)。実際、それだけの市場があり、人材もいるわけだ。
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しかし、日本ではBPMが話題になりこそすれ、定着しなかった。2000年代はじめには相次いで起きた企業不祥事に対して内部統制報告制度(J-SOX法)が制定され、業務プロセスの報告が制度化されるという追い風があったにも関わらず、である。日本企業の現場では例外プロセスが多くてプロセスの可視化が困難だったり、国内で日本人がやる分には人手に依存しても大きな問題はなかった、といったところが理由だろう。
結局、多くの業務プロセスは旧態依然のまま。今は人手不足の深刻化や働き方改革を受け、RPAで一部を自動化する動きが広がっているが、しかし、それでお茶を濁すわけにはいかない。
前回、事例編でお伝えしたように、プロセスマイニングは欧州から米国へと広がっている。その先には「Digital Twin of Organization(DTO:組織のデジタルツイン)」や「Superfluid Enterprise(超流動企業)」もある。そうである以上、デジタル時代に適応し、業務プロセスにスピードと柔軟性を持たせる変革は必須だ。
そこで今回は、プロセスマイニングという技術の動向を中心に、DTOやSuperfluid Enterpriseといった概念の意味を、Celosphere 2019コンファレンスの基調講演から紐解いていく。
プロセスマイニングツールを進化させ続けるCelonis
コンファレンスを主催した独Celonis(セロニス)という企業について改めて紹介しよう。企業価値が10億ユーロ(約1260億円)を超えるユニコーン企業とはいえ、欧州でも十分に認知されているわけではない。そのため、Celosphere 2019の基調講演でも、自社の紹介から始まったほどである。
同社の設立は2011年。プロセスマイニングの第一人者で、現在は独アーヘン工科大学教授のウィル・ファン・デル・アールスト(Wil van der Aalst)氏のアイデアを元に、ミュンヘン工科大学博士課程に在籍していた3人のドイツ人学生が立ち上げた。セロニスの共同CEO、Alexander Rinke氏とBastian Nominacher氏、CTOのMartin Klenk氏である(写真1)。
翌2012年には早くもシーメンス(Siemens)を顧客に獲得するなど順調に成長し、現在では企業価値が10億ユーロ超、ドイツを代表するユニコーン企業になった。従業員数も2018年春の時点で400人だったが、1年後の今は700人、今年末には1000人を超える見通しである。
プロセスマイニングツール「Celonis」も年々、進化を重ねてきた。バージョン1はプロセスマイニングのイメージどおりにプロセスマップを生成する機能に特化。バージョン2では、分析機能やコラボレーション機能を強化し、バージョン3ではビジュアルな表示機能を拡充。バージョン4になると大量のイベントデータを高速処理できるようスケーラビリティを強化した。この間、主要なソフトウェア/サービスをCelonisに接続するコネクタ80種以上を提供している。
●Next:プロセスマイニングが次に促す「組織のデジタルツイン」「超流動企業」とは?
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