[技術解説]

変貌するBPM、ビジネスプロセス変革の最前線に─iBPM、そしてケースマネジメントへ

最新のBPMが企業にもたらす価値──Pegasystems PegaWorld 2019[技術動向編]

2019年6月11日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

デジタルトランスフォーメーション(DX)が単にIoTやAIなどに取り組むことを意味しないのは、今さら言うまでもない。では何から着手するべきなのか? 答えは1つとは限らないが、ビジネスプロセス変革がその有力な候補になろう。普段の行動変革を通じて思考パターンを変え、企業文化を変えることになるからだ。それを欧米の名だたる大企業の実践をもって示したのが、2018年より本誌で取り上げてきた「プロセスマイニング」という新潮流だ。今回は、デジタル時代に変貌を遂げた「BPM」の視点から、ビジネプロセス変革の必然性をレポートする。

●PegaWorld 2019レポート[事例編]はこちらDXの前提となるビジネスプロセス変革─シーメンスや北米トヨタ、ドイツテレコムらはどう挑んだか

RPAより先になすべきことは何か

 三井住友銀行が700以上の業務に適用して、人手による仕事を合計110万時間以上も短縮──。こんな事例を挙げるまでもなく、RPA(Robotic Process Automation)のメリットは大きい。工場における産業用ロボットと同じく事務処理へのソフトウェアロボットの適用は、生産性の面で企業に大きなインパクトをもたらしている。数年前には存在しなかったRPA市場が2020年に260億円になるという予測(IT市場調査会社のITR調べ)さえあるほどだ。

 しかし、企業や組織が日々行っているビジネスプロセス(業務プロセス)全体から見た時、効率化・自動化できるのは一部にすぎないことも事実だろう。そもそもRPAを適用する業務や仕事が必要かという、より本質的な問題もある。例えば手書きのファクスなどの注文書入力を「AI-OCR+RPA」に置き換えるのではなく、受注を電子化して入力業務そのものをなくす──つまり現状のプロセスを是としてRPAを適用するのではなく、プロセス全体を見直したうえであるべき姿を追求し、なお残る業務にRPAなどを適用するアプローチである。

 もちろん、ビジネスプロセス全体を見直したり、メスを入れたりするのは一筋縄ではいかない。問題点が目に見える入力・転記作業やチェック業務などとは違って、複数の業務や部門にまたがるプロセスは全体像が見えにくい。多くの場合、一連のプロセスを見る部署や担当者がいないので、だれがやるかという問題もある。加えて、業務内容や処理対象によってプロセスにはさまざまな例外パス(パターン)があり、かつ例外にはそれなりの理由があるから着手の糸口さえつかめない。

 無理に例外をなくして標準化しようとすれば現場の反発を買うのがオチであり、実際、過去取り組まれてきたBPM(ビジネスプロセスマネジメント)の動きは、特に日本ではほとんど奏功せずに終わってきた。結果、歴史のある企業のビジネスプロセスは今も過去の業務慣習を引き継いでおり、モバイルワークに対する強い制限があったり煩雑な紙ベースの業務が残っていたりなど、デジタル化の恩恵を生かしきれない状況が続いている。

 だが、もうそれは終わらせなければならない。働き方改革やダイバーシティ対応は待ったなしであるし、企業全体としても、例えばサービタイゼーション(サービス化)のかけ声の中で製造業はサービス業へ、サービス業は“自社の都合ファースト”から“カスタマーファースト”などへと転換を迫られているからだ。

プロセスマイニングと「変貌するBPM」

 全社を横断したビジネスプロセス変革に挑むための技術・ツールも登場している。その1つが膨大なログデータから、現実に行われている日々のビジネスプロセスを可視化するプロセスマイニングだ(関連記事プロセスマイニングを軸に”組織のデジタルツイン”を実現、さらには”超流動企業”へ)/欧州で沸騰するプロセスマイニング─BMW、Siemens、Lufthansaなど欧州企業はここまで来ている!

 もう1つが本稿で焦点を当てるビジネスプロセスマネジメント(BPM)である。先に「BPMは奏功せずに終わってきた」と指摘したが、市場規模などを見ても欧米では状況が異なるし(図1)、何よりBPMを実現するメソッドもテクノロジーも昔のままではない。(1)BPMから「ケースマネジメント(Case Management)」への進化、(2)CRM(顧客関係マネジメント)やその他のソリューションとの一体化、(3)いわゆる”ローコード開発環境”との一体化、といった具合に進化(変貌と呼べるかもしれない)している。

図1:BPM市場の規模。2019年は104億ドル(約1兆1000億円)となっている(出典:Statista)
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 そのことを改めて確認できた場が、老舗BPMソフトウェアベンダーの1社である米ペガシステムズ(Pegasystems)が2019年6月2日~5日の会期で主催した年次ユーザーコンファレンス「PegaWorld 2019」である。会場の米ラスベガスMGM Grandには世界各国から5000人以上(日本から20人以上)が集結した(写真1)。以下、PegaWorld 2019で見聞きした、ビジネスプロセス改革にかかわる最新動向を中心に、最新BPMソリューションである「Pega Infinity」の特徴や主要機能なども含めてレポートする。

写真1:PegaWorl2019の基調講演直前の会場風景。ラスベガスのメガホテル、MGM Grandに5000人が参加した

 なお、筆者は今回、Pegasystemsの日本法人ペガジャパンからの招待を受けてこのコンファレンスに参加したが、本記事は第一に、BPMの進化・変貌ぶりや最新事情を詳しくお伝えする意図で書いている。そのうえで、Pegaのソリューションについて詳しく紹介することも試みた。後述する「Pega Infinity」は、米Gartnerのマジッククアドラント「Magic Quadrant for Intelligent Business Process Management Suites」においてリーダーのポジションにランクされるものだけに(図2)、それを理解することは、BPMソリューションを比較検討する際のひな形になると考えるからである。

図2:米ガートナーが2019年1月に公開した「Magic Quadrant for Intelligent Business Process Management Suites(出典:米ガートナー)
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●Next:iBPM、ケースマネジメント、ローコード開発……最新のBPMを読み解くキーワード

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