[インタビュー]
データサイエンティスト2万人の英知でAIモデルを構築─AIクラウドソーシングのCrowdANALYTIX
2019年12月3日(火)杉田 悟(IT Leaders編集部)
AIの急速な普及によりAI人材の不足が深刻化している。特に高度なAI開発に携わる優秀なデータサイエンティストを国内で調達するのは、大手ITベンダーといえども困難を極めている。技術商社のマクニカが2019年1月に関係会社化し、日本でのサービス提供を開始しているのがインドのCrowdANALYTIXである。同社は優秀なデータサイエンティストの手による高度なAIソリューションを、独自のクラウドソーシングの仕組みで提供している。同社CEOのディヴィアーヴ・ミシュラ(Divyabh Mishra)氏にサービスの特徴を聞いた。
ディヴィアーヴ・ミシュラ(Divyabh Mishra)氏(写真1)のインタビューに入る前に、マクニカとCrowdANALYTIXの関係性について説明しておく。
マクニカがCrowdANALYTIXへの出資を発表したのが、2019年1月のことである(関連記事:カスタムAIをクラウドソーシングで提供、マクニカがAI事業を強化)。CrowdANALYTIXの株式の41.8%を取得し、関係会社化している。技術商社であるマクニカは、通常は相手先企業と業務提携を結んで製品を販売する。ところが今回は、業務提携とともに資本提携を結んでいる。「マクニカグループとして相当の覚悟をもって、CrowdANALYTIXをベースとしたAI事業に臨んでいることの表れ」(AIビジネス部長 近藤隆史氏)だという。
4つのコンポーネントで提供されるAIソリューション
──CrowdANALYTIXが提供するサービスの特徴を教えてください。
CrowdANALYTIXは、2012年にインド・バンガロールでスタートした創業7年目のベンチャーです。主に日米欧の大中小さまざまな規模の企業に、グローバルエンタープライズでカスタムAIソリューションを提供しています。ユーザーの業種で多いのが、リテールとヘルスケアですが、それ以外の業種の企業にも提供しています。
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具体的には、モジュールとして使えるAIモデルの開発から本番展開、メンテナンスまでをソリューションとして提供します。われわれはクラウド上にプラットフォームを持っており、ユーザーにはAPIという形でAIモデルを提供します。劣化することが多いと言われるAIモデルのクオリティを継続的にわれわれが見ることで、できるだけ正確なものをユーザーに提供するという仕組みになっています。
サービスとしてのCrowdANALYTIXは、DiscoverX、DataX、DevelopX、DeployXという4つのコンポーネントで構成されています(図1)。最初のステップがDiscoverX。ここでは、ユーザーが参加してヒアリングを行うディスカバリーワークショップを行います。経営企画や営業企画、開発など各部門のトップに集まっていただき、実際はどういったビジネスチャレンジを持っているのか、どのようなデータを持っているのかなどを直接話し合います。最終的には、AIのロードマップを作成します。
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──ディスカバリーワークショップに参加するユーザーは、どの程度AIの知識が必要ですか。
ディスカバリーワークショップでユーザーに求められるのは、ビジネスの課題についてです。ヒアリングによって明らかになったビジネスの課題は、ブレイクダウンしてAIの課題にする必要があります。この作業はCrowdANALYTIXが支援します。そのため、ユーザーにAIやデータサイエンスのナレッジは一切不要です。
ディスカバリーワークショップで棚卸しされた保有データを、AIモデルに当てはめることができるように整えるのがDataXです。非構造化データやサイロ化されたシステムに眠る構造化データなどを注釈付きの体系化・正規化されたデータに変換します。
AIモデルを作成するのがDevelopX、そのAIモデルをセキュアなクラウドサーバーに展開していくのがDeployXとなります。AIモデルはクラウド上からSaaSとして提供されます。このサービス形態をわれわれは、「Custom AI as a Service」と呼んでいます。
クラウドソーシングでAIモデルを作成
CrowdANALYTIXのソリューションの中で、最も特徴的であるDevelopXについて詳しく説明させてください。
AIソリューションにおいて、一番大きなハードルと言えばデータサイエンティストのクオリティです。この課題を解決するためにわれわれが取ったのが、データサイエンティストのクラウドソーシング(Crowdsourcing)という手法です。現在、クラウドソーシングのコミュニティには約50カ国から2万人のデータサイエンティストが登録しています。DevelopXで行われるのは、主にこのクラウドソーシングによるAIモデルの作成です。
──データサイエンティストのクラウドソーシングといえば、Topcoder(トップコーダー)が有名ですが、違いはありますか。
CrowdANALYTIXはデータサイエンティストのみが対象で、Topcoder(関連記事:世界150万人のITエンジニアを活用できるクラウドソーシング「Topcoder」の仕組み)はITエンジニアやデザイナーも対象になっているという点が違っています。データサイエンティストに特化しているという点では、これも著名なコミュニティである米Kaggle(カグル)に近いかもしれません。一方、コミュニティを保有し、クラウドソーシング形式のコンテストで競わせることで高いレベルを担保している点はTopcoderに似ています。
CrowdANALYTIXとTopcoderで最も異なるのが、ユーザーに提供されるアウトプットです。Topcoderの場合、ユーザーはコンテストでAIモデルやアルゴリズムをアウトプットとして得るのが目的となります。一方、CrowdANALYTIXを通じて得られる成果は、AIを活用した課題解決です。CrowdANALYTIXは、AIモデルを受託開発する会社ではありません。AIを通じてユーザーの課題を解決するAIソリューションを提供する会社です。コンテストはAIソリューションのプロセスの一部に過ぎないのです。あるいは、CrowdANALYTIXの開発チーム、R&Dチームとしてコミュニティがあるというべきかもしれません。
これは、コミュニティに参加するデータサイエンティストにとっても大きな違いとなって表れます。Topcoderは1つのAIモデルを開発してそれを提供するまでのワンタイムプロジェクトです。CrowdANALYTIXの場合、開発したモデルはクラウド上に展開され、APIという形でユーザーに提供されます。APIをコールするごとに課金されるサブスクリプションとなっているので、継続的な収入につながります。
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