NECは2020年1月24日、5Gミリ波周波数帯(28GHz帯)の有効活用に向けて、ミリ波の分散アンテナ技術を開発したと発表した。同技術を活用してNEC玉川事業場の実験室で実証実験を行い、高速・大容量通信と安定した通信品質の両立を確認したという。
5Gでは、4Gと比較して10倍以上高い周波数帯であるミリ波をはじめ、幅広い周波数帯を利用できる。しかし、ミリ波の性質上、特に屋内では壁や設置物による遮蔽や干渉などによって、通信品質が低下しやすくなる。このため、多数の基地局を設置し、通信品質を確保する必要がある。また、住居や工場など設置スペースに制限がある場所では、基地局の小型化も求められる。
NECは今回、5Gミリ波基地局の無線子局(RU:Radio Unit)において、分散したアンテナ素子間のデジタル協調技術を開発した(図1)。これにより、ミリ波による屋内モバイル通信の課題である、伝搬路の遮蔽や回折などを解決した。
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多数の独立したアンテナを組み合わせて制御する「マッシブマイモ」(多数の独立したトランシーバの自由度を活かし、空間多重と無線伝搬路の品質安定性を同時に向上する技術)を応用した。これにより、ミリ波の高速・大容量通信を安定した通信品質で実現できる。
分散配置したアンテナとコントロールユニットの接続には、複数の信号を1つにまとめる周波数多重機を用いる。これにより、アンテナ/コントロールユニット間を高周波ケーブルや光ケーブルで接続する場合に懸念される、減衰・同期・電源供給などの課題を解決する。アンテナの設置容易性も実現する。アンテナも小型化(8素子搭載で5cm×2cm程度)した。
NECは、同技術の有効性を検証するため、2019年にNEC玉川事業場の実験室で実証実験を行った。実験用に構築したシステムは、8カ所に分散設置したアンテナ、アンテナを制御するコントロールユニット、それらを制御するベースバンド処理装置などで構成する。
実験では、NECが従来からサブ6GHz帯およびミリ波帯で開発してきた「デジタルビームフォーミング」(電波を空間合成し多重化することで、特定の方向に集中的に発射する技術)を、28GHz帯のアンテナにも適用し、電波の空間合成と多重化を行った。これにより、高速・大容量通信に加え、伝搬路を安定化させた。また、壁や設置物による遮蔽、反射波による干渉などの厳しい伝搬環境や、複数端末が近接した環境でも安定した通信を可能にした。
NECは今後、オフィスビルや商業施設や工場など様々な環境で実証実験を行い、2020年内の商用化を目指す。