クルマの自動/自律運転など、生活の身近な場面でも使われるようになってきたAI。各分野での活用が加速する中で、不安を覚える人も多いだろう。倫理的には何らかの歯止めが必要だが、一体どのような基準・規定があるとよいだろうか。この問題について、ドイツ最大の自動車部品メーカー、ロバート・ボッシュ(Robert Bosch)は明確な活用指針を打ち出している。それは「人間が主、AIは従」というものだ。同社のAI活用規範「KI-Kodex」の意図を発表資料から読み解いてみたい。
現実世界のAIのあり方を考える
「もはやAIを遠くから眺めている時期ではない。日々の生活の中でどのように利用するかを考えるべき時期に来ている」とロバート・ボッシュCEOのフォルクマール・デンナー(Volkmar Denner)氏はAI活用規範を発表した意図をこう説明する。
サイエンスフィクションの世界ではよく、AIが人間の知能を追い越して、AIが人間を支配するような未来が描かれる。ボッシュはこのような見方とは逆のあり方を実現しようとしている。もっとも、すでに専門職の不足が起きていて、今後それはますます加速する。そうなると、人間とAIとがうまく協業できないといけない。
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そんな時代の到来に備えて、ボッシュはAI関連の開発と運用に、今後2年間に2万人の社員に割り当てる計画を立て、自社内でAIを積極的に活用すると同時に、AI製品も積極的に開発・製造していく方針を打ち出している。このような際に、AIと人間の判断をどう折り合いをつけるのかについて、明確な原則が必要だと考えたのが今回の発表につながったという。
現在、ボッシュではAIの利用を、自社工場・オフィス内の諸作業だけでなく、環境問題や気候対策にも広げている。例えば、エネルギーマネジメントプラットフォームへの適用がそうだ。工場内の機械・機器における短期周期のエネルギー消費量を常時監視し、少しでも変動があるとピークロードが発生しないようにAIを用いて自動調整している。これによって、稼働後2年も経たないうちに二酸化炭素(CO2)の排出量を10%減らすことができたという。
将来的には、短期周期だけでなく長期周期の消費量変動を監視することで、さらにCO2を減らすことができると考えている。こうして、AI活用によって「目に見えるかたちで」成果を上げたことで、AI活用に関する技術的な不安に終止符を打つことができた。
信頼できるAIが不可欠、ただし100%信じない
ボッシュは今後、AIがいっそう広く使われていくと見ている。AIによる経済的なメリットに関する予測はさまざまな調査・研究機関から出されている。プライスウォーターハウス(PwC)によると、2030年までにAIによる経済効果は、中国では26%、北米では14%、ヨーロッパでは10%に達すると見込まれている。さらに、世界経済フォーラムの発表によると、2022年までに、AIによって世界中で7500万人の職が奪われるが、逆に1億3300万人の職が新たに作られるという。
このように、AIによって職場環境や経済情勢が大きく左右されることが現在すでに起こっている。このような時代では「信頼できるAI」が不可欠であるとボッシュは考えた。
同社は2025年から、すべての自社製品の開発・製造に関して、「AIに任せる」あるいは「AIの力を借りて行う」方針を定めた。ただAIを活用するとはいうものの、必ずしも100%その判断を信用しているわけではない。というのも、現状ではAIの判定プロセスはブラックボックスであるため、AIから出された結果をそのまま安直に使えないからだ。AIが出力する結果の信頼度を高めるにはAIの判断プロセスを解明して、ブラックボックスを解消する必要があるが、現状ではまだ達成できていない。
そのような制約のある中、実際、現実のAIの活用をどうするか。ボッシュが出した結論が、2020年2月19日に公表した「KI-Kodex(Kunstliche Intelligenz-Kodex:AI活用規範)」である(注1)。そのコンセプトを一言で言えば、「AIが出した判定に対して、必ず人間が最終判断を行う」というものだ。
注1:英語のArtificial Intelligenceは、ドイツ語ではKunstliche Intelligenzとなる
●Next:AI活用規範「KI-Kodex」の中身を考察する
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