[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

デジタルで業務を、働き方を変える─ドイツの“先進中小企業”から学べること:第46回

2023年11月6日(月)麻生川 静男

2023年9月20日・21日、ドイツのケルンで年次アワード「Digital X 2023」が開催された。初日にドイツテレコムとドイツ中小企業連盟(BVMW)がDigital X Award受賞4社を発表、自社の施策にとどまらず、社会的なニーズを新規性あふれるデジタル化で解決したことが評価された。業務のデジタル化においてドイツは必ずしも世界の先頭集団には入っていないが、製造大国の根幹を支える中小企業での積極的なデジタル化の取り組みに、日本が学ぶ点は多い。

「デジタルであれ、しかし人間性を失うな」

 ドイツのケルンで毎年開催されているアワード「Digital X」。200万㎡と東京ドームの実に40倍もの広大な会場に、今年は5万人の来場者が詰めかけた。以下、独WIN-Verlagが運営するWebメディア「Digital Business Cloud」の報道などから引用して紹介する。

 著名人の参加も注目された。1970年代に次々と大ヒット曲を飛ばしたスウェーデンの人気ポップグループABBAのビョルン・ウルヴァース(Björn Ulvaeus)氏や、未来学者のエイミー・ウェブ(Amy Webb)などの大物が基調講演を行い、会場を盛り上げた。

 78歳になったウルヴァース氏は、2022年5月から英ロンドンで開催しているABBAのアバターによるバーチャルコンサート「ABBA Voyage」(画面1)に触れ、「今日、ここにいるのは本人ですよ」と冗談めかして言った。続けて、世の中のデジタル化について音楽を例にとって分かりやすく説明し、「AIは人間の創造的プロセスの助っ人となる」と断言した。同氏は、電子マネーによるキャッシュレス化の普及や音楽業界におけるAIの活用でYouTubeと提携するなど、社会のデジタル化にも大きな影響力を与えている人物で、「デジタル化によって新たな芸術の未来が開けつつある」と展望を語った。

画面1:ABBAのアバターによるバーチャルコンサート「ABBA Voyage」のWebサイト
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写真1:サイボーグアーティストのニール・ハービソン氏。頭部に埋め込まれたアンテナは、カメラに写る外界の色の周波数を音の周波数に変換し、骨伝導でそれを耳に伝える(出典:Cyborg Arts)

 今年のDigital Xのモットーは「Be digital. Stay human(デジタルであれ、しかし人間性を失うな)」。それを最も具現化したと言えるのが、サイボーグアーティストのニール・ハービソン(Neil Harbisson)氏だ。生まれつき色覚障害者で白黒の世界しか見えていなかいという同氏が、デジタル化のおかげで色を感じることができた喜びの体験を語った。

 ハービソン氏の頭部に埋め込まれたアンテナは、カメラに写る外界の色の周波数を音の周波数に変換し、骨伝導でそれを耳に伝える。この技術によって同氏は、「目に見える世界と目に見えない世界の両方を感じることができるようになった」という(写真1)。

 また、会場には最新のデジタル製品として、3Dプリンターから作り出される医薬品パッケージ、VR(仮想現実)グラスによるパワーシャベル操作機器、自走式・水上走行のゴミ収集機などが展示された。さらに、来場者自身がデジタルを体感できるコーナーを設け、ロボティックプレイグラウンドではロボットが回すロープで来場者が縄跳びをしたり、ロボットが巨大なシャボン玉を作ったりしていた。別のロボットでは、身長1mのFCケルンのマスコットの雄羊を白い大理石の塊から削り出していたという。

選ばれたデジタルを駆使する中小企業

 今年も、ドイツテレコムとドイツ中小企業連盟(BVMW)が、デジタル化の進展にすぐれた業績を上げた中小企業を表彰する「Digital X Award」を発表した(写真1関連記事日本が学びたい、ドイツ中小企業の“プレタポルテ”なデジタル推進:第37回)。

写真1:Digital X Award表彰式の様子(出典:ドイツテレコム)

 表彰式には、ドイツのデジタル化・運輸大臣のフォルカー・ヴィッシング(Volker Wissing)氏が登壇。「中小企業の発展はデジタル化と、それによるイノベーションの創出にかかっている。Digital X Awardの受賞企業はそのモデルとなるものだ」と祝辞を述べた。部門別の受賞企業は次の4社である。

未来の働き方部門:アウゲル(Augel)
ビジネス連携部門:イメス・イコア(imes-icore)
情報セキュリティ部門:ボン大学病院(UKB)
特別賞・持続可能性部門:チェリーSE(Cherry SE)

 未来の働き方部門のアウゲルについては後述することにして、まず他の3部門の受賞企業についてDigital Business Cloudから引用する。

 ビジネス連携部門で受賞したイメス・イコアは、歯科治療・口腔用器具の世界的メーカーである。同社では、CAD/CAM、フライス盤や研磨盤を効率的に利用できるよう、歯科医、診療所、研究所、加工工場を高速なネットワークで結んでいる。そのうえで、歯科医・関連業者と連携したデジタルエコシステム「(Dental Smart Market(DMS)」を構築し、計画的な製造・販売・アフターサービスを実現している。同システムがもたらした迅速さや利便性は、顧客である歯科医や患者にも好評だという。

 情報セキュリティ部門で受賞したボン大学病院は、医療情報を高い機密性の下で完全に保護するシステム「Innovative Secure Medical Campus UKB (ISMC)」を構築した。5G、AI、AR(拡張現実)、手術ロボットなどの先端技術を駆使して、セキュリティインシデントを自動検出する監視技術を医療の現場に導入している。

 特別賞・持続可能性部門を受賞したチェリーSEは、コンピュータハードウェアのメーカーだ。持続可能性に関する計画の進捗を常に文書化するなどのESG/サステナブル戦略・施策が高く評価された。

●Next:労使双方の意識改革で、真の働き方改革へ

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