[海外動向]

オードリー・タン氏率いる台湾に学ぶ、デジタル庁への期待を込めて

2020年11月4日(水)田口 潤、杉田 悟(IT Leaders編集部)

2020年9月に就任した菅義偉首相の目玉政策の1つが「デジタル庁(仮称)」を司令塔にした、各省庁のシステム一元化やマイナンバーカードの普及、行政手続きのオンライン化である。だが、これらは「マイナスをゼロにする」施策に過ぎない。デジタルという名を冠す以上は、デジタル時代にふさわしい「ゼロをプラスにする」ことが求められるだろう。この点で参考になるし、学ぶべきなのがシビックテックを活用し、オープンガバメントを推進する台湾の取り組みである。

「開かれた政府」を実現した台湾

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で図らずも露呈したのが、日本のデジタル化の遅れだ。開発に3000億円以上、運用に300億円/年を要するマイナンバーカードがほとんど機能しなかったばかりでなく、感染者数の報告業務にファクスを使うなどアナログな仕組みが多く残されていることが明らかになった。経済浮揚策として約1兆7000億円もの予算を投じる各種のGo Toキャンペーンも、制度設計の不備から“Go Toトラベル”ならぬ“Go Toトラブル”と揶揄されるほどで、まさしく「デジタル後進国」である。

 こうした状況に対し、菅義偉首相は「デジタル庁」の新設によるデジタルガバメントや電子政府の推進を、目玉政策の1つとして掲げた。各省庁のシステム一元化や各種行政手続きのペーパーレス化、ハンコレス、ワンストップサービスなどを推進する。マイナンバーカードも免許証や健康保険証などを統合して、大幅に利便性を高めるといったことだ。

 だが、道のりは平坦ではない。政府は2001年にIT基本法の施行とIT戦略本部を設置して以来、2013年に「世界最先端 IT 国家創造宣言」を閣議決定するなど、様々な手を打ってきた。しかし電子政府の先進国であるデンマークやエストニアの取り組みを参考にしながらも、20年にわたる取り組みがほとんど機能しなかった。

 このことを考えると、首相肝いり、かつ専門組織であるデジタル庁を新設したとしても、楽観視できないのだ。何よりも、世界的に見れば行政サービスのオンライン化やワンストップサービス化は、できて当然でもある。日本がこれらを目指して取り組みを進めても、その間に海外の主要国はもっと先を行っている可能性がある。組織名に“デジタル”を冠す以上は、デジタル化時代にふさわしい行政の仕組みを期待されるゆえんだ。

 この点で参考になるのが、感染拡大の初期段階で迅速策を講じ、ロックダウン(都市封鎖)することなく新型コロナウイルスの封じ込めに成功した台湾である。

 台湾の初動は早かった。2002年から2003年にかけて、中国広東省を起源に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)のパンデミックの経験を踏まえて、新型ウイルスの危険性を素早く察知して水際対策を講じる。それと並行して、マスクや消毒薬の不足を回避するマスクマップをはじめとするIT施策が注目された。しかし、それは偶然の産物ではない。台湾では後述する「ひまわり運動」をきっかけにして、政府が情報公開を進め、市民が積極的に政策に参加する体制を着々と整えてきたから、できたことだ。

 具体的には、”シビックテック(Civic Tech)”と呼ばれる、市民(国民)がテクノロジーを活用して行政サービスの問題や社会の課題解決に参加・関与する取り組みである。政府や行政が独自に何かをするのではなく、インターネットやソーシャルメディアを活用して市民が意見を伝えたり、行政サービスの開発に参加したりする。例えば台湾政府の情報ポータルサイト「我的E政府」(画面1)を見ると、市民が必要とする情報や手続きに容易にアクセスできるように工夫されている。シビックテックの成果の1つであり、デジタル時代における政府のあり方を先取りしていると言える。

画面1:台湾政府の情報ポータルサイト「我的E政府」(https://www.gov.tw/
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 見方を変えれば、オープンガバメント(開かれた政府)の先駆例でもある。オープンガバメントとは、インターネットなどのITを活用して政府を国民に開かれたものにしていく取り組みのこと。2012年に当時の米バラク・オバマ大統領が、①政府の透明性(トランスペアレンシー)、②国民の参加(パーティシペーション)、③官民の連携(コラボレーション)を3原則として挙げているが、台湾はその3原則をクリアしている。

 では台湾は、どのようにシビックテックやオープンガバメントに取り組んできたのか。企業情報化協会(IT協会)がオンラインで開催したイベントに、台湾IT政策の中心人物の1人であるオードリー・タン(Audrey Tang、唐鳳)氏(写真1)が登場。1時間にわたってそれを説明した。このイベントは2020年8月末開催で2カ月前の話だが、記者は最近になってその動画を視聴できたので、以下ではビデオを元に同氏らの取り組みを紹介する。

写真1:台湾のデジタル担当政務委員、オードリー・タン氏

 すでに広く知られているように、タン氏の職掌は台湾のデジタル担当政務委員で、日本ではIT担当大臣に相当する。同職に就任したのは2016年10月で、タン氏は当時35歳。台湾史上最年少の閣僚就任として話題を呼んだ。

 また、タン氏は、プログラミング言語であるPerlやHaskellの開発、普及に貢献した台湾有数の天才プログラマーとしても知られている。19歳でネット企業を立ち上げるなど起業家としての側面も持ち、米アップルのデジタル顧問などを務めたこともある。本稿執筆時点で若干39歳に過ぎないタン氏が台湾政府の要職に就き、IT政策の中心を担っている点にも注目すべきだろう。そこには「デジタル時代のことはデジタル世代に委ねる」という考えがあるかもしれないからだ。

●Next:なぜ台湾は「開かれた政府」へ向かっていったのか?

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