NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は2020年12月16日、横河ソリューションサービスと共同で、化学プラントでの運転員の操作を学習して動きを模倣するAIを開発したと発表した。システムによる自動制御が困難なために運転員によるオペレーションが不可欠な工程に対して、運転員のオペレーションを学習し、その動きを模倣する。精度を比較する実証実験を行った結果、高い精度を確認した。将来的には、化学プラントに対する運転支援や自動化の提供、運転員の省力化・生産の安定化などが期待できる。
多くの化学プラントでは、化学製品の生産過程における温度や圧力が複雑に変化するため、システムによる自動制御ができず、運転員のオペレーションが不可欠な工程が存在する。しかし、労働人口の減少で、運転員の確保が困難になりつつある。技能の継承が十分にできないことや、スキルの習得が難しくオペレーション品質にばらつきが出ることが問題になっている。
NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は今回、これらの課題を解決し、より少人数の運転員で安定的に化学プラントを運転できるAIを、横河ソリューションサービスと共同で開発した(図1)。運転員のオペレーションを学習し、その動きを模倣する仕組みである。このうえで、運転員のオペレーションとAIのオペレーションの精度の差を比較する実証実験を行った。
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AIは、NTT ComのAI開発ツール「Node-AI」を用いて開発した。Node-AIでは、コードを書くことなくGUIで開発できる。開発期間の短縮を図りつつ、プログラミング時のバグの混入のリスクを抑えられる。開発ではさらに、プラント運転において何を注視すべきデータ項目とするかなど、横河ソリューションサービスが持つ専門的な知見を、NTT Comが実装した。
過去のオペレーションで取得した温度や圧力などの各種データと、それを制御する運転員の操作履歴を「教師データ」(例題と答えについてのデータ)とする「模倣学習」(事前に与えられたデータを例題とし、他者を真似た行動を行うための学習方法)を取り入れている。模倣学習は、複雑に状態が変化するプラントにおいても、過去のデータさえあれば適用が可能である。従来は運転員のオペレーションが不可欠であった工程についても、同AIによる運転支援を提供したり、将来的には自動運転の実現も期待できるとしている。
実証実験では、システムによる自動制御が困難な工程において、過去に運転員が行ったオペレーションで取得した温度や圧力などの各種データをAIに適用し、運転員とAIのオペレーションの差を比較した。その結果、AIのオペレーションは運転員のそれと比較し、非常に高い精度(CORR=0.95)で一致することを確認したという。
なお、CORRとは、2つの時系列データの間の相関を示す指標である。-1~1の間の値をとり、1に近づくほど2つの時系列データが類似していることを表す。概ね、0.9以上で非常に強い相関があると言われる。
NTT Comと横河ソリューションサービスは今後、同実験で得た成果について技術検証を進める考えだ。これらの検証結果を基に、NTT Comは、同AIが運転員に対してプラントの運転に関するアドバイスなどを行う、運転支援サービスを2021年度中に提供する予定だという。将来的には、同AIを活用し、プラント運転の自動化を実現するサービスの提供を検討するとしている。