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[技術解説]

ひとときの”バブル”か、それとも広く定着する本物か?「NFT」というデジタル資産の仕組みを理解する

2021年5月7日(金)田口 潤(IT Leaders編集部)

デジタルデータと言えば、複製や改変が容易でそれ自体には特別な価値はないのが、これまでの常識だろう。しかし、それを覆す「NFT」と呼ばれるデジタル資産を扱う仕組み・技術が登場し、最近では日本円で3億円とか75億円といった常識外れの取引が相次いで成立している。いったいなぜなのか? ビットコインなど高騰する暗号資産に起因する単なるバブルか、それとも本物なのか?

 Twitterの創業者であるジャック・ドーシー氏による初ツィートに3億円の値が付く──NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン、代替不可能なトークン)と呼ばれるデジタル資産が存在感を増している。2021年3月には、Beepleというデジタルアーティストの作品「Everydays - The First 5000 Days」が約6935万ドル(約75億円)という高値で、競売大手であるクリスティーズのオークションで落札された。

 しかしEverydays~は印刷物でも実際の絵画でもなく、デジタルデータである。鑑賞する際には何らかのディスプレイに表示することになるので、落札者が見るのはコピー(デジタルデータの複製)だ(図1)。にもかかわらずこの値段――。いったい何が起きているのか、NFTの代替不可能とはどういうことなのか、ピンとこない向きも少なくないのではないだろうか? 筆者もそうである。

図1:Everydays - The First 5000 Daysの全体(左)と左上のアップ(右)(出典:アステリア)
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 しかしCIOを含めたITリーダーたるもの、「NFTをまったく知らない」では済まされない。そんな時、アステリアが「NFTに関する勉強会」を開催し、同社でブロックチェーン技術エバンジェリストを務める奥達男氏が、最新事情を含めてNFTを簡潔に説明してくれた。ここでは同氏が勉強会で示した資料を中心にNFTを解説しよう。

暗号資産との違いはイーサリアムにおける規格

 まずビットコインやイーサリアムなど、いわゆる暗号資産とNFTの違いについて(図2)。暗号資産におけるトークン(token:印、象徴、証拠といった意味がある)はすべて同等であり、分割して譲渡できる。暗号資産=通貨と捉えれば、同じ数量なら価値も同じになるので当然だろう。これに対してNFTでは同じトークンは存在しないし、トークンを分割することもできない。

図2:NFTと暗号資産の違い。双方とも規格がある(出典:アステリア)
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 この違いをもたらしているのがイーサリアム(ブロックチェーン)における規格だという。暗号資産は「ERC20」、NFTは「ERC721」となっており、ERC20は通貨のように抽象的で数量的なものに関するトークンの規格、ERC721は1つしかない特定のものを示すトークンの規格だ。お金は紙幣でも電子マネーでも数量が同じなら価値も等しいが、例えば、土地は同じ面積であっても場所次第で価値が異なる。このように違いがあるものを扱うために、複数の規格があるわけだ。

 もちろん土地などの不動産を取引するために、ERC721ができたわけではない。むしろ唯一無二性のある(それを持たせたい)デジタルデータ(資産)が増えてきたからのようだ。それが分かるのが歴史(図3)。ERC721が誕生したのは2017年9月、同年末に「CryptoKitties(暗号仔猫)」というブロックチェーン上のゲームがリリースされた。ちなみにCryptoKittiesは猫(もちろんデジタル)を購入して繁殖させるゲームで、猫の血統がブロックチェーンで保証されており、優れた猫は数万ドル(実際にはイーサリアム)で売買されている。

図3:NFTの歴史(出典:アステリア)
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 現在ではCryptoKittiesを含めて、驚くようなNFTの発行事例(取引事例)がある(表1)。この中でNBA Top Shotは、NBAの選手や名シーンをデジタルカードにしたもの。野球カードを収集するようなイメージだ。Axie Infinityは、Axieという仮想の生き物を使って戦ったり繁殖させたりするゲーム。Axieも有料だが、ゲーム内の区画にも値が付いており、それが888.25イーサリアム(約1億6000万円)で取引された。絵画や音楽のようなデジタルアート作品ならまだしも、デジタル空間上の区画にこれだけの値がつくのは不思議というほかない。

表1:NFTの発行事例(出典・アステリア)
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 表1のような事例が相次ぐとNFTへの関心は一気に高まり、暗号資産などの取引所と同じくNFTのマーケットプレイスが増えている(図4)。例えばスマートアプリが3月に開設した「nanakusa」はデジタル資産の権利者(事業者やクリプトアーティスト)を利用者(消費者)に販売したり、利用者同士の売買を仲介する。この仕組みの1つの特徴は、利用者が別の利用者に譲渡する場合(2次流通)にロイヤルティを権利者に還元できることだ。権利者は売ったら終わりではなく、より高値で売買されればリターンが得られるわけである。

図4:NFTのマーケットプレイスが増加中(出典:アステリア)
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 なおNFTとして実際に売買・流通するのは、デジタル資産そのものではない。特にデジタルアートなどの資産は特定のストレージに格納され、それに関する情報がNFTとしてブロックチェーン上に記録されて取引される(図5)。つまりNFTの実体は鑑定書や所有権の証書と考えられる。以上が奥氏によるNFTの解説である。

図5 NFTを取引する仕組み
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●Next:弁護士が語る法的な論点とは?

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