新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響により、多くの企業でリモートワークが一気に進んだ。その環境整備で売り上げを伸ばしたといわれる情報サービス企業は、もっと進んでいるのかと思いきや、そうではないようだ。情報サービス産業協会(JISA)が実施した「情報サービス産業動向調査」は、50%以上の従業員がリモートで勤務する情報サービス企業は、回答企業の半数に届かない実態が明らかになった。
半数以上の従業員がリモートワークを実施する企業は50%に届かない
「医者の不養生」「紺屋の白袴」「易者身の上知らず」……。2020年、コロナ禍が拡大する中で多くの企業が出勤自粛を迫られ、リモートワーク環境の整備を進めた。そうした需要の受け皿となった情報サービス企業は多い。売上げを伸ばした企業は少なくないが、では情報サービス企業自身はどれだけリモートワークに取り組んだのか?
業界団体である情報サービス産業協会(JISA)は、2021年6月末に「情報サービス産業白書2021」(https://book.impress.co.jp/books/1121101012)を発行。その中で会員企業を対象にリモートワークに関する調査結果を明らかにしている。それによると、「ほぼ全従業員(80%以上)」がリモートワークを実施していると回答したのは3.4%、「従業員の半数以上(50~80%未満)」が40.8%。合計しても50%に届かなかった(図1)。
拡大画像表示
コロナ感染が拡大する以前に比べると数字上は大幅に増加したものの、政府が掲げていた「在宅7割」はもちろん、一般企業にも後れを取っていたようだ。冒頭に挙げた”医者の不養生”などのことわざそのままに、自分自身に気が回っていないのである。
これらのことわざは「それだけ仕事熱心」という言い訳にも使われるが、やはり問題だろう。自ら経験しておらず、したがってノウハウがないソリューションを提供しているようなものだからだ。それ以前に情報サービス企業の仕事の大半はオンライン化しやすいはずで、コロナ禍を変革の奇貨としなかった(できなかった)のは痛い。
終息後の予測では以前のワーススタイルに戻る?
調査ではコロナ終息後にリモートワークをどうするかも聞いている。結果はリモートワークを実施するのが「ほぼ全従業員」という回答は1.8%、「半数以上」は23.4%だった。数字の上ではリモートワークを拡大した企業の半数近くが、終息後には元に戻す(あるいは元に戻る)と見ていることになる。
その理由は全従業員ではなく、エンジニアの働く場所を聞いた結果から推察できる。コロナ感染拡大前に50.9%だった「客先オフィス(客先常駐)」はコロナ禍で22.9%に減少し、「自社オフィス」も46.9%から29.7%に減った。必然的にリモートワーク、つまり「自宅」が1.1%から46.9%に急増している(図2)。
拡大画像表示
ところがコロナ終息後の見通しでは「客先オフィス」が41.6%まで戻り、「自宅」が22.5%にまで減少する。「客先から戻って欲しいと指示されれば戻らざるを得ない」ということのようだ。そもそもコロナ禍の中で客先常駐が減ったのも、「感染防止の一環で来ないように」と指示された企業が多かったからという。自らの意思で主体的にリモートワークを推進した企業は限られており、だとすればコロナ終息後にリモートワークが減少するのは当然でもある。
このような「リモートワークの行方は客の意向次第」と捉えられる調査結果の背景にあるのが、コロナ禍で生じたと感じる課題だ(図3)。選択式で聞いたところ、「新規案件の減少」を課題だと「強く感じている」のは40.8%、「ある程度は感じている」は46.6%。「既定案件の中止・延期・縮小」も同様で、「強く感じている」が36.2%、「ある程度は感じている」が52.3%。と、いずれも90%近くに達した。
拡大画像表示
「営業機会の減少」も「強く感じている」が36.2%、「ある程度は感じている」は47.7%であり、「顧客とのコミュニケーション不足」や「顧客ニーズの把握が困難」といった課題感も軒並み高い結果になっている。リモートワーク環境整備に関わる需要はいつまでも続かないし、顧客企業のIT投資を浸食する面もある。一方で以前のような対面営業はやりにくいから、この結果も当然かも知れない。
そんな中で「客先常駐のビジネスが維持できない」に対する課題感の小ささが目立つ点に注目して欲しい。「強く感じている」は12.2%、「ある程度は感じている」が40.7%と合計こそ50%を超えるが、他の選択肢に比べると課題感は弱い。「客の要望を聞いていれば問題ない」という意識が垣間見える。
●Next:情報サービス企業が抱える課題、業態による違いとは?
会員登録(無料)が必要です
- 1
- 2
- 次へ >