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[技術解説]

組織がバラバラでは「ビジネス課題の解決」にデータを生かせない─データ総研の小川氏に聞く「データ活用が進む」組織づくり

2021年7月19日(月)Darsana

データドリブン経営が注目を集めて久しいが、データ活用に成功する企業と失敗する企業の差は、果たして一体どこにあるのか──。その答えを探るべく、AnityA(アニティア)が「データ活用で『成功する企業』と『失敗する企業』は、どこが違うのか?」と題したイベントを開催した。本稿では、イベント前半に行われた、データ総研 執行役員 エグゼクティブシニアコンサルタントの小川康二氏によるプレゼンテーションの模様を紹介する。
※本記事は、AnityAが運営するWebメディア「Darsana」が2021年4月6日に掲載した記事を転載したものです。

 「データは21世紀の石油」という言葉もあるとおり、これからの時代に企業がビジネスを維持・成長させていくためには、データ活用が不可欠だと言われている。事実、現在多くの企業がデータ活用に積極的に取り組んでおり、大きな成果を上げる企業も出てきている。しかし実際には、いつまで経っても成果らしい成果が上がらず、「空回り」が続く企業も少なくない。

 データ活用に成功する企業と失敗する企業の差は、果たして一体どこにあるのか──。AnityA(アニティア)が、その答えを探るイベントを開催した。「データ活用で『成功する企業』と『失敗する企業』は、どこが違うのか?」と題したイベントでは、データ活用の分野で豊富は知見と経験を有するエキスパートを招いたプレゼンテーションやパネルディスカッションを展開。本稿では、イベント前半に行われた、データ総研 執行役員 エグゼクティブシニアコンサルタントの小川康二氏(写真1)によるプレゼンテーションの模様を紹介する。

写真1:データ総研 執行役員 エグゼクティブシニアコンサルタントの小川康二氏

データ活用を阻む「DXに対する誤解」とは

 データ活用の重要性は、ITの世界でははるか前から指摘されており、近年ではIT技術者のみならず、企業の経営者やセールス/マーケティング分野の専門家の間でも熱心に語られるようになってきた。いうなれば「データ活用ブーム」とも言える状況だが、その発端となった出来事として小川氏は、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」を挙げる(図1)。

 「これまでも、業務の現場では“データ活用やデジタル化の重要性”について、比較的認知されていたものの、企業の経営者がなかなか理解を示さなかったために日本企業のDXが進みませんでした。こうした状況に業を煮やした経済産業省が、企業の経営層に向けて『このままだと危ないぞ!』と警告を発したのがDXレポートでした。これが、ある程度功を奏し、多くの企業の経営者がDX推進へと舵を切り始めました」(小川氏)

図1:日本企業のDXの船出(出典:データ総研)
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 しかし、小川氏によれば、実際には“DX推進の号令は掛けた”ものの、本質的な取り組みが進展しているケースはまだごくわずかだという。9割以上の企業がDXに未着手か、実施しようとはしているもののいまだ評価段階で、実際にビジネスの仕組みとして実装されている例はまだまだ少ない。こうした停滞状況の背景には、DXに対する「大いなる誤解」があったと小川氏は指摘する。

 「DXは、小手先だけのデジタル化ではなく、ビジネスモデルや企業文化全体の変革を目指すという、きわめてスケールの大きな取り組みです。しかし、多くの経営者は、『紙の仕事を電子化すればいいんだよね?』『うちは大手だから関係ないよ!』といったように、DXを矮小化して解釈してしまいました。こうした誤解が元で、DXレポートが出てもなお、日本企業において本質的なDXはなかなか進まなかったのです」(小川氏)

 こうした状況に危機感を募らせた経済産業省は急遽、DXに対する誤解を解くべく2020年12月に「DXレポート2」を発表する。この中で経済産業省は、DXを通じて企業が目指すべき方向性として「常に変化する顧客・社会の課題をとらえ、素早く変革し続ける能力を身に付けること、ITシステムのみならず企業文化を変革すること」と明記しており、DXを小手先のデジタル化やペーパーレス化に矮小化して理解する風潮に警鐘を鳴らした(図2)。

図2:日本企業のDXの新たな目的(出典:データ総研)
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 小川氏は、DXに対するこうした誤解を解くためのキーワードとして、「Digitization(デジタイゼーション)」と「Digitalization(デジタライゼーション)」の2つを挙げる。どちらもデジタル化の取り組みを指す言葉だが、前者のDigitizationは“業務効率化を目的としたペーパーレスや自動化”などを行う、いわば「単なるデジタル化」だ。その目指すところを一言で表すとすれば、「デジタルトランスフォーメーション」というよりは、むしろ「デジタルオプティマイゼーション(最適化)」がふさわしい。

 一方のDigitalizationは、はるかに広い射程をとらえており、“まったく新しいデジタルサービスや顧客コミュニケーションを創出し、ビジネスモデルを変革することで新たな事業価値や顧客体験を生み出すこと”を目指している。デジタル化による変革、つまり文字どおりのデジタルトランスフォーメーションをゴールに据えているのだ(図3)。

図3:そもそもデータ活用の目的は?(出典:データ総研)
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求められるのは“供給者視点”から“需要家視点”への転換

 DXを実現するためには、Digitizationだけに留まらず、Digitalizationまでを射程に据えた長期的かつ戦略的な取り組みが求められる。そのためには、デジタル化やデータ活用の施策も、従来の取り組みの延長線上でとらえるのではなく、これまでになかったまったく新たな視点を取り入れる必要がある。

 これまでほとんどの日本企業は、「どれだけ商談したか?」「在庫は十分か?」「どれだけ販売したか?」といったように、商品やサービスの供給側の視点に立って、データを収集・分析し、その結果を基にビジネスモデルを構築してきた。しかし、DXの時代においては、企業は供給側の都合ではなく、むしろ顧客側の視点に立ってビジネスモデルを構築することが求められる。

 「顧客はどのような製品・サービスを求めているのか?」
 「顧客は自社の製品・サービスに満足しているのか?」

 このような「問題意識」を起点に、そこから逆算しながら「では、自社でどのような製品・サービスを開発すればいいのか?」を導き出していく。「自社で開発した製品・サービスをどう売るのか?」という発想にひたすら終始してきたかつてのビジネスモデルからの、大胆な転換が求められているのだ。

 自ずとデータ活用の在り方も、会社の中の業務効率化や情報共有のためだけではなく、会社の外にいる顧客のニーズや声を拾い上げるための手段としての役割が増してくる。小川氏は、このようなDX時代に特有のデータ活用の役割が注目を集めるようになった最大の理由として、「テクノロジーの進化」を挙げる。

 「何と言っても、スマートフォンの爆発的な普及が、データ活用の在り方を大きく変えました。スマートフォンを通じて、ユーザーはいつ、どこにいても自身が感じていることを、SNSなどを通じて発信できるようになりました。企業はこうした情報を収集・分析することで、お客様の生の声をダイレクトに拾えるようになりました。これをビジネスに活用しない手はありません」

 加えて、さまざまなモノにIoTセンサーが装備されるようになり、人だけでなくモノも情報を発信するようになった。例えば自社が販売した製品にセンサーを装備しておけば、顧客の手に渡った後の「使われ方」がデータとして可視化される。こうして「顧客や商品についてより深く知ること」ができれば、より効果的な打ち手をいち早く打てるようになる。これがデータの観点から見た場合の、DX最大のインパクトだ(図4)。

図4:DX時代の大きな変化(出典:データ総研)
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 「DX以前の企業は、ごく限られた範囲のマーケティングや市場調査を行って『たぶん顧客はこう考えているのだろう』という曖昧な仮説を立てた後は、いわゆる『KKD(経験・勘、度胸)』に基づいて意思決定を行っていました。しかし、DX時代になると企業は、データに基づいてお客様のリアルな状態をとらえ、そこからインサイト(洞察)を探った上で次の一手を講じられるようになるため、打ち手が当たる確率が大幅に向上します」(小川氏)

●Next:経営価値向上に資する「データ活用基盤」をどう構築するか

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※本記事は、AnityAが運営するWebメディア「Darsana」が2021年4月6日に掲載した記事を転載したものです。

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