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[DX推進に不可欠な「デジタルリスクマネジメント」の要諦]

データの信頼性確保に資するデータサプライチェーンとデータマネジメント:第5回

2021年10月15日(金)前田 敬彦(KPMGコンサルティング リスクコンサルティングサービス ディレクター)

業種を問わない至上命題であるデジタルトランスフォーメーション(DX)。その機運と共に、テレワークやペーパーレス、ワークフローなどの導入・刷新が急速に進む中で、これまであまり顕在化しなかったリスクへの対処が大きな課題となっている。DXはデータに支えられており、データマネジメントにおいて「データの信頼性確保」が欠かせないものとなっている。本稿では、Industrie 4.0の中核的なモデルであるDXサイバーフィジカルシステム(CPS)を取り上げ、データの信頼性を確保したデータサプライチェーンの重要性と、そのためのデジタルリスクマネジメントの構成要素としてのデータマネジメントの取り組みについて述べていく。

デジタルトランスフォーメーションの原義

 RPAやテレワーク、ペーパーレスの導入が進み、これをデジタルトランスフォーメーション(DX)とする向きもあるが、それらはDXのオリジナルの概念に照らすと、一部の施策にすぎない。

 DXという概念を示したのは、スウェーデンのウメオ大学教授のエリック・ストルターマン(Erik Stolterman)氏である。同氏は2004年に発表した論文『Information Technology and the Good Life』において、以下のように述べている。

The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.

 同氏は、その対象範囲を“in all aspects of human life”=人間社会全体としたうえで、テクノロジーに起因した、あるいはテクノロジーの影響による変化を引き起こす現象がDXであるとしている。この原義を発展させて考えれば、テクノロジーに起因した、あるいはテクノロジーの影響により引き起こされるパラダイムシフトこそがDXであると考えられる。

 本稿では、世界的なDXの機運の中で、先進企業が取り組みを始めているサイバーフィジカルシステム(CPS)を取り上げて、その取り組みの重要性やデジタルリスクマネジメントとのかかわりについて述べていく。

Industrie 4.0と共に進展するCPS

 実世界とサイバー空間との相互連関があらゆる領域に実装され、社会的価値を生みだしていく社会──まさにDXの概念における“human life”を指し示していると言える。

 概念としてDXが提唱されたのが2004年、CPSの概念の提唱は2007年と、いずれも一昔前以上であるものの、モバイル機器やセンサーの高性能化・低価格化やIoT技術の進歩、クラウドサービスの進展・普及により、ここ数年で、現実の取り組みとして具現化されてきている。その1つにCPSやデジタルツインがある。

 人間、機械、その他の企業資源が互いに通信することで、各製品がいつ製造されたか、そしてどこに納品されるべきかといった情報を共有し、製造プロセスをより円滑なものにする──製造業が目指すCPSは、提唱から10年を迎えたIndustrie 4.0(Industry 4.0、インダストリー4.0、略称:I4.0またはI4)のトレンドと共に世界で広まっていった。

 Industrie 4.0は、ドイツ連邦政府が2011年に「2020年に向けたハイテク戦略の実行計画」で示した10施策の1つで、製造業の競争力強化のアクションプランとして提唱された。そこには、ドイツに多数存在する中小の製造業の連携を目的として、企業を越えたデータ流通によるエコシステムでの競争力強化策の側面がある。

 Industrie 4.0では、次の10年を見据えて、国際標準化とするための活動を活発化させている。標準化により、体力的に厳しい中小の企業間においても、データ連携=流通における信頼性の向上を図る取り組みである(関連記事提唱から10年、Industrie 4.0への取り組みの実態と10の提言)。

「データの信頼性確保」をどうするか

 Industrie 4.0のトレンドと共に具現化されたCPSは、すでに多くの事例があるが、DXの推進におけるデジタルリスクマネジメントの視点からは課題も残る。それは「データの信頼性の確保」である。

 CPSは、センシング技術や分析加工と制御装置などで成り立っているが、センサー単体で何か価値を生みだすことはない。また分析技術もそこに取り込むデータの存在なくしては意味をなさない。現実世界のセンサーからサイバー空間の分析へ、そして現実世界における制御へとデータを流通することではじめてCPSがシステムとして成立する。つまり、図1が示す「データ駆動型社会」は、データが流通してこそ実現する。

図1:CPSによるデータ駆動型社会の概念図(出典:経済産業省「産業構造審議会商務流通情報分科会情報経済小委員会」)
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 また、CPSと、大きな概念であるIndustrie 4.0を対比してみると、CPSは現実世界とサイバー空間の間での垂直方向のデータ流通を実現し、Industrie 4.0は中小の製造業のデータ連携といった水平方向のデータ流通の実現を目指していると言える。いずれにおいても、データ流通の前提としてデータの信頼性確保が不可欠である。

 データが流通してこそデータ駆動型社会は実現するが、流通するデータが信頼できない場合、CPSでの制御そのものの信頼性がなくなる。同様に、企業間のデータが信頼できなければ、Industrie 4.0のエコシステムが成立しない。

 課題解決のアプローチの1つとして、データの流通すなわちデータサプライチェーンを構築し、信頼できるデータを流通させる仕組みの構築がある。なお、データの信頼性確保のための要素としては、品質、効率性、一貫性、継続性があり、これらを満たしてデータを流通させることで、安心安全なデータ駆動型社会の実現に向かう(図2)。

図2:データの信頼性の構成要素

●Next:これからの“データ戦略”に欠かせないデータサプライチェーンとデータマネジメント

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