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[DX推進に不可欠な「デジタルリスクマネジメント」の要諦]

DX推進で不可欠な「デジタルガバナンス」とは?:第2回

2021年6月18日(金)藤田 直子(KPMGコンサルティング リスクコンサルティングサービス ディレクター)

ニューノーマル時代=コロナ禍が人々の社会や生活を一変させた一方で、企業・組織では感染対策のためのワークスタイル/ワークプレイス変革が進展することとなった。至上命題であるデジタルトランスフォーメーション(DX) の機運と共に、テレワークやペーパーレス、ワークフローなどの導入・刷新が急速に進む中で、これまであまり顕在化しなかったリスクへの対処が大きな課題となっている。本稿では、ニューノーマル時代にDXを推進するにあたって必須で求められる“リスクマネジメントの転換”=「デジタルリスクマネジメント」をテーマに、重要なポイントを解説していく。今回は、DX推進で欠かせないアジリティとガバナンスについて取り上げる。

日本企業のDXの遅れと動き出したデジタル化

 日本企業の本質的・本格的なデジタルトランスフォーメーション(DX)がなかなか進まない。これは、「抜本的な改革に踏み切れない「投資決定できない」「ビジネスモデルを大きく変えるような創造性のある企画立案ができない」「変化やリスクを受け入れることができない」など、日本企業の改革推進力の問題であろう。

 一方で、コロナ禍において今まで躊躇していたリモートワークの実施やペーパーレス化などは速やかに対応し、実行優先で急激な変化を容認して一部が実現した。コロナという劇薬が加速させた感もあり、急激な変化でさまざまな歪みが生じていることは否めず、必要な対策の検討が不十分な印象がある。

 さらに、現在はVUCA(ブーカ、注1)の時代であり、組織を取り巻く環境変化も著しい。DXはデータやデジタル技術を活用した経営改革・業務改革を推し進め、競争優位性を確立するために自ら変化を選択するものであるが、同時に市場環境やIT/ネットワーク環境などのさまざまな変化にも対応する必要がある。自らが起こす変化と、外部環境の変化の両方に対応しながら、スピード感をもってDXを推進することはやはり難しい。

注1:Volatility(変動性)Uncertainty(不確実性)Complexity(複雑性)Ambiguity(曖昧性)の頭文字

アジリティとガバナンスのバランスが重要

 DXを加速させ、成功させるためには何が必要なのか。今回は解の1つである「アジリティ」について考えてみたい。課題や変化をとらえ、状況判断を行い、よりよい方向へ転換し、実行する。これを如何に適確に、迅速に行うことができるか──。カギになるのは、スピード・柔軟性を保ちながら必要なコントロールをバランスよく組み込むことである(図1)。そして、本連載のテーマであるデジタルリスクマネジメントは、スピード・柔軟性とコントロールを両立し組織のアジリティを高めるために不可欠な取り組みである。

図1:アジリティ(積極的な推進力)とガバナンス(効果的な抑止力)のバランス

 例えば、DXを推進する過程での業務改革や新規事業開発などのプロジェクトでは、リリーススピードや柔軟な変更が重視されすぎて、リスク低減のためのコントロール(厳格なルールに基づく審査、確認・レビューなど)に時間を割かなくなることがある。これがビジネスモデルやシステムの設計不備、過失・不正の温床となり、重大事故、法令違反、顧客やユーザーへの過度な負担などにつながってしまう危険が高まる。

 逆に、要件や計画の具体化・詳細化にこだわりすぎて、過度に慎重になってしまい、事前検討や意思決定に膨大な時間を費やしてしまうこともある。この場合、DXの推進を阻害し、競争優位性や事業の成長を妨げるリスクとなってしまう。

DXに関わる制度設計=デジタルガバナンスの巧拙が成否の鍵

 前回示したように、KPMGはデジタルリスクマネジメントの構成要素を5つに分類している。組織のアジリティを高めるための取り組みとして、ここでは「デジタルガバナンス」に着目したい。

 まずは、DXに関わる制度設計、すなわち体制・プロセスを整備し、組織全体で運用することに目を向けていただきたい。KPMGでは、DX推進を支える組織全体の体制・プロセスおよび各プロジェクトの体制・プロセスを合わせて、デジタルガバナンスと位置づけている。

 その整備は、DXに対する効果的・効率的な取り組みに寄与し、継続的な取り組みの基礎となるものである。起案発生ベースで企画構想を柔軟に進めていくことを否定するものではないが、DXが組織的な取り組みである以上、秩序ある仕組みが結果的にスピード感ある展開を実現していくと考える。

●Next:DX推進/プロセス整備でデジタルガバナンスを効かせる3つの事例

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