[調査・レポート]

「AI倫理」を重要視するも行動には至らず、経営層/事業部門の主導が不可欠─IBM調査

グローバル調査レポート「AI倫理の実践(日本語版)」より

2022年6月17日(金)神 幸葉(IT Leaders編集部)

日本IBMは2022年6月8日、グローバル調査レポート「AI倫理の実践」の日本語版を発表した。AIの活用があらゆる業界に広がる中で、企業は自社におけるAI倫理の原則を定めて適用することが急務であるとして、AI倫理への取り組みの実態や、経営層や事業部門リーダーに求められる役割などについて紹介・解説している。

 日本IBMが発表した「AI倫理の実践(日本語版)」(原題:「AI ethics in action」)は、経営者がAI倫理の重要性についてどのように考え、企業がそれをどのように運用しているかを調査・分析したグローバル調査レポートである。

 調査は、米IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が、調査会社の英オックスフォード・エコノミクス(Oxford Economics)の協力を得て、2021年5~7月にかけて実施した。調査対象は、北米、中南米、欧州、中東、アフリカ、アジア(日本、中国、インドを含む)22カ国を拠点とする企業・組織の経営層1200人と、22以上の業種にわたる事業・技術部門の役職者である。IBMは企業のAI倫理の導入状況について2018年に初めて調査を行い、今回のレポートはその最新版にあたる。

AI倫理が重要な経営課題に

 IBMは、レポートの冒頭でAI倫理の重要性を次のように述べている。

 「『信頼できるAI(Trustworthy AI)』の開発には依然、困難がつきまとう。実用性の観点からさまざまなバランスを考慮する必要が出てくるためである。例えば、AIのアルゴリズム計算の背後にある論理を理解する「説明可能性」と、結果を導くアルゴリズムの正確性を示す「堅牢性」をどう両立させるか、といった問題である。AIの導入にあたって、こうしたトレードオフなども含め倫理的な問題は、もはや無視することはできなくなった」

 レポートによると、回答企業の54%が、今後3年間でAIの活用とAI倫理が戦略的に重要になると考えている。現時点ですでに重要になるとする企業は28%だった。また、このテーマを重視している企業は実際に高い業績を上げる傾向にあることが判明したという。

 同レポートの日本語版監修者で、今回説明にあたった、日本IBM 執行役員 兼 技術理事/IBM AIセンター長の山田敦氏(写真1は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)やAI活用の推進にあたって、AI倫理への取り組みはますます重要な課題になる。多くの経営者は、競争の中で、ここが差別化のカギになると考え始めている」と語った。

写真1:日本IBM 執行役員 兼 技術理事/IBM AIセンター長 山田敦氏

 調査結果によると、回答者の75%がAI倫理を競争上の差別化要因になると考えている。また、AIおよびAI倫理を重要視する企業の67%が、サステナビリティ、社会的責任、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)においても同業他社を上回る成果を上げていることも判明している。

 外部環境として、AI倫理の厳格化を求める動きも世界的に広がっている。レポートで、「消費者や株主は、社会的問題に対し社会的意義のあるAI活用を要求する。また、経営者はAI分野などのビジネスパートナーやベンダーの選定基準に倫理を加えつつある」と説明している。

 この動きを受けて、AI倫理に関する規制やガイドラインの策定が各国で進んでいる。経済産業省が2021年7月に発表した「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」のように、日本を含むいくつかの国の場合、現時点では罰則を伴わない方向性でガイドライン策定が進んでいる。一方で、欧州では代表的な「EU AI Act」をはじめ、多額の賠償を伴う規制やガイドラインを定めている国も多い(図1)。

図1:各国のAI倫理に対する規制やガイドライン策定の動き(出典:日本IBM)
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 山田氏によると、学術界でAI倫理が課題として認知され始めたのが2015~16年頃で、企業、政府、学術機関、民間団体などがAI倫理原則の策定・導入に取り組み始めたのが2017~18年頃という。

 「こうしてAIとAI倫理に関する取り組みが進んできたが、2019年頃から各国の規制や標準ガイドライン、企業自身の標準ガイドライン、監査、承認プロセスが構築されはじめ、AI倫理は、(議論・検討から)実践の段階に入ったと言える」(同氏、図2)。

図2:AI倫理に関する取り組みの変遷(出典:日本IBM)
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●Next:意欲と行動のギャップを埋めるために必要なアクションは?

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